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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
129/193

拘束魔術

《サイド:米倉美由紀》



…ふう。



今日もまだまだ仕事が終わらないわね。



時刻は午後10時を少し過ぎた頃。


学園の経営に関する雑務を終えた私は魔術研究所の地下にあるルーン研究所の一室に訪れたのよ。



今いるのは『特殊実験室』と呼ばれる場所で関係者以外立入禁止の最重要機密区域になるわ。



まあ、御堂君の実験を行っていた実験室でもあるんだけどね。


基本的にはルーン研究所の職員しか入ることの許されない実験室みたいだけど。


極秘に進めている『とある実験』の進行状況を確認するために訪れたのよ。



「それで、現在の状況はどうなっているの?」



ルーン研究所の所長である黒柳大悟に問いかけてみたけれど。


大悟は苦笑いを浮かべながら首を左右に振ってしまったわ。



…はあ。



進展なし、ってことね。


実験は上手くいってないらしくて、

何も進展していない様子だったわ。



…困ったわね。



数多くの職員を集めて実験を進めさせているというのに、

完成までこぎつけるにはまだまだ時間がかかるみたいなのよ。


大悟も申し訳なさそうな表情で深々とため息を吐いていたわ。



…でもまあ。



さすがに三日程度で新たな結界を構築しなさいっていう指示は無理があったわね。



それは私自身も分かっているわ。


自分がどれだけ無茶な注文を出しているのかなんて、

十分すぎるほど理解してるつもりよ。



だけど、ね。



それでも急がなければいけない事情があるの。


実験が完成するまで、

のんびりと待っていられる余裕なんてないのよ。



…もうすでに、残り時間は少ないわ。



ただ黙って待ってるだけでは手に負えない事態が起きてしまう可能性があるから、

そうなる前に対策を考えなければいけないの。



だからこの計画は最低限必要な下準備になるわ。



魔術研究所において最も優秀な研究員が集まっているルーン研究所。


ここで極秘に進めてる実験さえも最低限の準備でしかないの。



そのことも理解してるつもりよ。


おそらくこの研究だけだと目的は叶えられないって分かってる。



…でもね?



だからと言って同時進行で複数の実験を進められるような余裕はないわ。


人的にも、時間的にも、余裕がないのよ。



…だって、そうでしょ?



たった一つの研究でさえ上手く進んでないのよ?



それなのに。



この状況で他の実験にまで手を広げるのは、

今以上に計画の進行を遅らせてしまうだけでしかないわ。


だからそんな馬鹿な判断は下せないし、

短期間での効率を考えれば一つずつ進めていくのが最善のはずなのよ。



まずは『確保』が最優先だから。



その一手すら行えないのなら、

他にどんな計画を立てても意味はないわ。


最終的にどういう決断をするにしても、

話し合いができる状況を用意することから始めなければいけないのよ。



そのあとのことは状況に応じて判断するしかないけどね。



…まあ、あとのことはあとで考えるとして。



まずは最初の一手よね。



私が密かに進めさせている実験。


それは拘束結界(こうそくけっかい)と呼ぶべき捕獲専用魔術の研究よ。



御堂龍馬の実力調査の実験結果を元にしつつ。


彼にも知らせる事なく極秘で行わせている実験でもあるわ。



表向きには検定会場で使用されている防御結界の強化という名目で御堂龍馬の協力を得ているんだけど。


実際の目的はこちらになるわね。



あらゆる魔術師を封印する為の拘束結界を構築するために御堂龍馬を実験に呼んでいたの。



そうまでして実験を進める理由はただ一つ。


『天城総魔を捕獲する』ため。


ただそれだけなのよ。



実験そのものは入学式の翌日から。


天城総魔の実力を調査し始めた頃から始めていたわ。



翔子には監視を任せつつ。


研究所では実験を進めていたのよ。



当初はそれなりの期間を与えるつもりで大悟に一任していたんだけど。


予想以上の勢いで成績を伸ばしてきた天城総魔の実力を懸念して、

現在は最優先事項として研究を進めさせているのよ。



…色々と後手に回ってしまっているけれど。



まさかここまで早く事態が

進展するなんて思っていなかったの。



入学式の翌日から検定試験を開始したのに。


たった三日で3位まで駆け上がってくるなんて予想できるはずがないわよね?


例えどんなに早くても1年はかかると思っていたのよ。



…私が持ってた学園最速記録でさえ1年だったから。



1位になるのに丸1年かかったの。



…まあ、『元』最速記録なんだけどね。



残念だけど、今は違うわ。


記録更新されちゃったから。



約1年半前にね。


沙織に更新されちゃったから、

今の最速記録は8カ月と3週間なのよ。



2年前の4月に入学した沙織は、

その年の間に1位に到達してしまったの。



さすがにね。


当時は驚いたわ。



…と言うか。



正直に言えば悔しかったんだけどね。



だけどまだ常識の範囲内というか、

悔しいけど仕方ないと思えたのよ。



だけど、今回は違うわ。



たったの三日よ!?



三日で3位ってどういう事なの!?



…何よこれ!?



こんなことがあり得るの!?



これで明日か明後日に1位になったりしたら…?



学園の存在意義って何?


教育って言葉は何処に行ってしまったの?



…何もかもが無茶苦茶なのよ。



初日の活躍を聞いたあとでさえ、

ここまで急速に成長するとは考えていなかったわ。



あくまでも下位の生徒達の中では優秀という程度で判断していたのよ。



だから1000番から上に昇格するのは手こずると思っていたの。


二桁のフォース・ステージに入るのはまだまだ先だと思っていたわ。


早くても半年。


そこから1位になるまでにさらに半年はかかると思っていたのよ。



…こんな無茶苦茶な最速記録なんて聞いたことがないわ。



誰もがこんな記録を打ち立てられるのなら学園なんて必要ないわよね?


だから何もかもが信じられないでいるのよ。


その油断とも言える判断のせいで、

彼を甘く見ている間に状況は劇的に変化してしまったわけだけど。



これはもう完全に私の失態ね。



彼が試験を開始してから3日目にして翔子と沙織が敗れたのも予想外だったけれど。


この非常事態に直面したことで、

なりふりかまっていられなくなってしまったというのが実情になるわ。



「もう時間がないのよ。」



明日には北条君との試合が行われる予定だし。


もしもその試合で北条君が負けるようなことがあれば、

残る生徒は一人だけになってしまうわ。



そうなれば学園最強の生徒である御堂龍馬との試合さえも、

近いうちに実現してしまうでしょうね。



天城総魔と御堂龍馬。



二人のどちらが勝つのかは分からないけれど。


もしも天城総魔が勝てば色々と不都合な問題が起きることになるわ。



それは学園としても。


国としても。


見過ごせない問題になってしまうのよ。


そうなる前になんとしてでも対策を考えなければいけないの。



「どうにかならないの!?」


「…どうにかと言われても、な。」



焦って問いかけてみても、

大悟は返答に困ってる。


研究は全く進んでいないわけだから当然といえば当然だけど、

打開策すら思いつけない現状では適当な発言さえできないようね。



「正直に言って実験は手詰まりだ。現状ではどうしようもない。」



はっきり無理だと言われてしまったわ。



対天城総魔用に緊急で始めた実験だけど、

やっぱり3日では有効な対策が考えられないようね。



実験の成果を観察する為にここまできたけれど、

返って来た答えはため息が出る内容でしかなかったわ。



「…それで、どうするの?実験は諦めるしかないの?」


「さすがにこの短期間で完成にこぎつけるのは難しいとしか言いようがない。もう少し時間があれば問題点を徹底的に潰して完成に近づけるとは思うのだが…」



…そうね。



当初は1年かかっても良いと考えていたから時間がかかるのは承知の上よ。



ここで諦めてしまったら実験を依頼した意味さえなくなるわけだし。


時間が足りなさすぎて欠点の改善さえままならないという気持ちは重々承知しているわ。



…だけどね。



その時間がないのよ。



明日の北条君の試合の結果次第で天城総魔は最終決戦に王手をかけてしまうのよ。


私達が手をこまねいている間に頂上決戦を始めてしまうの。



「私達に残された時間は少ないわ。」


「………。」



…はあ。



言いよどむ大悟に対して苛立ちを感じてしまうわね。



「他に代案とかもないの?」


「研究を続けるにしても諦めるにしても期間が短すぎて判断できん…。」



…そんなことは分かっているわ。



大悟の言い分は理解してるつもりよ。


そもそも無茶な注文をしてる自覚もある。



だけど与えられる時間なんてどこにもないわ。



…すでに天城総魔は学園3位まで上り詰めているのよ?



残る生徒は北条真哉と御堂龍馬の二人だけ。


それも明日には試合が組まれようとしている状況で残された時間なんてどこにあるって言うの?



最終決戦までに天城総魔という人物を鑑定する必要があるし。


必要であればなんらかの制裁の処置を用意する必要があるのよ。



だから時間が欲しいなんて言われてもそんな時間は存在しないわ。


こっちの都合なんて関係なく、

天城総魔は待ってくれないでしょうから。



…今から裏工作なんて間に合わないわ。



あれこれと言い訳を考えて問題を先延ばしにすることは不可能ではないと思うけれど。


そう何日も引き伸ばせるものではないわよね。



…それにもう北条君との試合は既に確定しているのよ?



本人達が望んでいる試合を学園が一方的に中断させるのは難しいわ。


天城総魔はともかく、

北条君が言うことを聞いてくれそうにないんだから。



…彼も自由気ままな生徒なのよ。



翔子や沙織と違って、

北条君には義務や責任という考えが存在していないの。


ただ楽しいからという理由で協力してくれているだけだから。


そんな北条君を説得するのは私でも無理ね。



下手に試合の中止を強制すれば町の外に出てでも戦いかねないから、

引き伸ばし作戦はどう考えても現実的ではないわ。


それが出来たのは沙織の試合だけでしょうね。



…なのに。



最も理性的な沙織がすでに敗退してしまっているのよ。



こうなるともう試合を止めるという考えは諦めるしかないわ。



…そうなると残された手段は一つ。



一応、最終的な手段として一番手っ取り早い解決策もあると言えばあるけれど。


その手段は諸刃の剣でしかないわ。



…いくらなんでも、さすがに暗殺はちょっと、ね。



一時的な対処法としては価値を見いだせるけれど、

長期的に考えれば下策でしかないわ。



もしも暗殺の事実が他国に漏洩してしまった場合。


私は共和国代表としての地位を失うことになるでしょうね。



同時に共和国の評価そのものも地に落ちてしまうと思うわ。



そうなってしまえばもう、

あとのことは考えたくもないわね。


周辺諸国から戦争という名の侵略が開始されるのは間違いないからよ。



現時点での問題を排除するという意味では暗殺が最善の手段ではあると思うけれど。



…手段がどうこうという以前に、ここは魔術師の国なのよ?



それなのに。


魔術師の国で。


魔術師が魔術師を殺すなんていう手段は最悪の一手でしかないわ。



そんなことをしてしまえば、

他国で行われている魔術師狩りと何も変わらないわよね?


そして共和国が魔術師にとって最後の拠り所という価値まで失われてしまうのよ。



魔術師を暗殺するという手段は国内の不安を増長させてしまうことになるし、

魔術師は危険だという認識を他国に広めるだけでしかないわ。


だからそんな危険は手段を真っ先にとるわけにはいかないし、

できないの。


まずは話し合いで解決する方法を考えなければいけないのよ。



それでも協力できない状況に陥れば排除という選択肢もとれるけれど。


ただ危険だというだけで一方的に排除するという考えは国を代表する者としてとれる手段ではないわ。



だから、暗殺はできない。


だけど、捕獲も難しい。



そうなると御堂君が勝利して天城総魔を制するのが理想的な形になるわけだけど。


それこそ他力本願な考え方よね。



…う~ん。


…本当に困ったわ。



翔子が言うように天城総魔が話し合いの通じる相手だと信じるべきかしら?



でもね。


それさえも願望だと思うわ。



何事もなければそれで良いんだけど、

何かあったら困るっていう話をしているの。



…それに、ね。



ただじっと祈るだけでは事態が好転しないってことくらい分かってるつもりよ。


必要な準備を怠らずに、

しっかりと着実に進める事が出来なければ冷静な対応はとれないの。



…それで出来ていないから焦ってるわけだし。



あまり偉そうなことは言えないけれど。


だからと言って問題を先延ばしにするわけには行かないのよ。



結果的に天城総魔が善側であれば良いけれど。


もしも悪側だったら?


学園の責任者としての義務を負う者として、

最低限の責任は果たさなければいけないでしょうね。



あまり考えたくはないけれど。


最終的には自分の命よりも学園の平和を優先しなくてはいけないということよ。



だから、最悪の場合。


私の命と引き換えに天城総魔を排除することになるでしょうね。



国家の責任を負うものとして、

この国の障害を排除する。


そして魔術師殺しの責任をとって自害する。


それが問題を解決するための唯一の手段になってしまうかもしれないのよ。



…文字通り最後の手段ね。



もちろん出来ることならそんな最悪の選択は選びたくないけれど。


だけど仕方がないのよ。


自分の命よりも国の存続を優先すること。


その責任感の高さこそが共和国の代表として求められているものだし、

まだまだ年齢的に若い私が代表の地位に押し上げられた最大の要因でもあるんだから。



国のためなら命を懸けられる。


それこそが誰もが認める指導者としての素質なのよ。



だから何時だって死を受け入れる覚悟は必要だと思ってる。



…とは言っても、ね。



死ななくて済むのならそのほうが良いわよね?


誰だって率先して自己犠牲を考えようとは思わないでしょうし、

そうならないために対策を考えるのが普通よね?



問題はどういう作戦を立てて実行するかという部分だけど。


常に最悪の事態を考慮して、

一手、二手、三手と先を読んで行動してるつもりなのに。



…現状は失策続きなのよね。



何一つ成功しているとは思えないわ。


だけどどこか一つでも上手くいけば問題は解決するはずなのよ。



…単純にね。



御堂君が試合に勝てればそれでいいし。


天城君が話の通じる人物であればそれで良いし。


翔子が口説き落としてくれても良いし。


交渉によって取り引きをしても良いし。


実力行使で押さえつけられるのならそれでもいいわ。



何か一つでいいから上手くいけばそれで良いの。



…だからまだ大丈夫。



まだ終わったわけじゃないわ。



対天城総魔として用意した布石は拘束結界だけじゃないのよ。



…各方面から幾つも用意しているの。



不確定要素もあるけれど、

切り札と呼ぶべき策は今も作用しているわ。


まだまだこれから何度でも、

流れを変えることはできるはずなのよ。



「結界が間に合わないとしても、まだ方法はあるわ。」



絶望を感じるにはまだ早いのよ。


期待すべき策はまだ幾つも仕掛けてあるから。



「大丈夫。今ならまだ巻き返せるはずよ。」


「はっはっは!その言葉が言えるならまだまだ心配はいらないようだな。」



どうかしら?



「全て運頼みだけどね。」


「頼れるだけまだマシだろう。こっちは完全な手詰まりだからな。」



運に任せるのがマシだなんて思いたくもないけどね。



「手詰まりでもなんでもなんとかするのが大悟の仕事でしょう?」



まあ、こういう言い方をすると失礼かもしれないけど。



「最初から実験の成果は期待してないわ。できればいいなって思っていただけだから。」


「はっはっは!!だろうな。お前はそういう奴だ。」



怒らずに笑い飛ばしてくれる。


そういう性格だからこそ本音で話せるわけだけど。


相変わらず豪快だと思うわ。



「おそらくそうだろうと思っていたからな。」


「ふふっ。たった3日で完成するなら研究所なんて必要ないでしょう?」


「ああ、そうだな。だが、それでも期待はしてくれているんだろう?」



当然でしょ。


私が期待して信頼できる相手なんてそうそういないんだから。



「大悟なら何とかしてくれるかもって期待していたわ。」


「…過去形か。まあ、そう言われてしまうと返す言葉もないが、美由紀のために出来る限りのことはしよう」



心からお願いするわ。



「ひとまず私が死ななくてすむようにしてくれたらそれでいいんだけどね。」


「ははっ。死なせたりはしないさ。美由紀を守るように宗一郎さんから頼まれているからな。」



…あ~、うん。



そうね。


そんな話も合ったわね。



「病気の父さんよりも先に死ななければいけない事態はさけたいわね。」


「そのために出来ることなら何でもするつもりだ。」


「ありがとう。」



その気持ちだけでもありがたいわ。



「まあ、私も出来る限りの手はうっておくつもりだけどね。」



これでも詐欺師と呼ばれるほどの策士なのよ。



「このまま指をくわえて見ているつもりはないわ。」


「どこまで考えているか知らないが、あまり無理はするなよ?」


「大丈夫よ。常に最善の結果を考えて行動してるつもりだから。」


「そうだな。お前はそういう奴だ。」



まあ、ね。


褒め言葉かどうかは微妙だけど。


大悟は誰よりも私の考えを理解して協力してくれる人物だから否定できないわ。



…付き合いも長いしね。



今でこそ研究所の所長としての日々を送っているけれど。


大悟は私の父である米倉宗一郎の一番弟子として国内で幅広く活躍していた国内屈指の魔術師なのよ。



だから大悟の実力と名声は決して低くはないわ。


それなりの地位にある人物であれば誰もが知っている人物と言えるでしょうね。



私としても頼りになる兄っていう感じよ。



…まあ、年齢は一回り以上離れてるけどね。



そんな大悟とは別にもう一人。


私には優秀な味方がいるわ。



非常に優れた政治手腕を持ちながらも自らの頭角を見せることなく二番手に徹する男が側近として活動してくれているの。



彼の名前は近藤誠治。


入学式の際、私の隣にいたこの学園の学園長よ。


父さんの代から学園長を勤める彼は、

私にとってもう一人の父親的存在でもあるわ。



知恵の米倉美由紀。


技術の黒柳大悟。


政治の近藤誠治って呼ばれてるんだけど。


卓越した才能を持つ3人が揃っているからこそ。


魔導学園のみならず、

ジェノスの町全土において安定した平和が保たれているの。



そしてその平和を守り続ける為に私の判断で拘束結界の準備を進めさせていたんだけど、

これがなかなか上手くいかないのよね。



「それで?今後の見通しはどうなっているの?」



これからどういう方向で研究を進めていくのかを尋ねてみると、

大悟は机の上に置いてある書類を手渡してくれたわ。



「正直、完成度はあまり高くないが、現状でも御堂君の魔力を30秒間ほど押さえ込む事は可能だと思われる。今後の方針としては防御能力の強化だが、その辺は学園で蓄えている魔力を大量に集めれば対応できるはずだ。とはいえ、あくまで仮説でしかない為に絶対と言える保証はないけどな。」



…たったの30秒?



再び頭を抱える思いでため息を吐いてしまったわ。



仮説の段階で30秒だとすれば、

実際の測定はそれより短くなるのはほぼ確実よね?



その程度の結界を未知の能力を持つ天城総魔に対して効果が有るかどうか考慮するなんていう話は、

机上の空論を通りこして無謀な挑戦でしかないように思えてしまうわ。



…予測で30秒なら、期待できないわよね?



現状の完成度では全く役に立つとは思えない。


捕獲に成功するかどうかは完全に運任せだし、

とても計算できる範囲ではないでしょうね。



「もう少しなんとかならないの?」


「こればかりはなんともな…。時間をかけて実験を積み重ねることでしか解決出来る問題ではないからな…」



…う~ん。



重苦しい空気が実験室を包み込んでいるわ。


落ち込んだ表現の大悟の様子からして手詰まりなのは嘘じゃないみたいだし、

どうにもならないみたいね。



決して大悟の責任ではないけれど。


責任感の強い人間だから、

求められた結果を出せない事に頭を悩ませているんでしょうね。



だとすればこれ以上の無理は言えないわ。


大悟の気持ちを察して追求は諦めるしかない。



…拘束結界に関しては計画から除外するしかないでしょうね。



元々無理のある実験だったのよ。


たった数日で結果を出せなんて求めるほうが無茶なんだから。


実験は間に合わないと諦めるしかないわ。



そう考えて諦めかけたときに、

大悟が小さな声で呟いたのよ。



「実際に天城総魔本人に対して、どの程度の効果が有るのか測定できれば実験は進むんだがな…。」



…ん?


…ちょっと待って。



実際に測定すれば上手くいくの?



受け取り方によっては言い訳にも聞こえる言葉だけど。


今のひと言によって微かな希望を見出だせた気がしたわ。



「…ということは、測定出来れば完成出来るかもしれないのね?」


「完成とまではいかないが、予測が仮説には進めるだろうな。」



ただの推測ではなくて、

実証された理論に変わる。


それだけでも大きな進歩じゃないかしら?



「…だったら、やってみるしかないわね。」


「どうするつもりだ?極秘であるからこそ遠回しに御堂君の協力を得ていたんだぞ?まさか直接天城総魔と交渉するつもりか?」



そんなわけないでしょ。


本人に言えるわけないじゃない。



「そうじゃなくて、アレを利用するのよ。」



新たな作戦を思い浮かべて笑顔を見せる。


そんな私の行動を見ていた大悟は急速に気持ちを切り替えてくれたわ。



「どういうつもりか話を聞かせてもらおうか」


「ええ、もちろんよ。」



隠す理由はないしね。


新たに考えた作戦を全て大悟に話したわ。



「…という作戦よ。これなら文句はないでしょう?」


「ふむ、そうだな。そういうことなら何とかなるかも知れないな。」



新たな作戦を基に大悟が計画を練り直す。


そして職員に指示を与え始めたわ。



「今後の方針が決定した。各職員は至急作業に取り掛かれ!!」


「「「はい!!」」」



新たな指示によってさらに仕事が増えた職員達だけど、

眠そうな目を擦りながらも文句一つ言わずに動き出してくれる。


これは彼らにとっても日常的な流れだから、

今更不満を言う職員はいないみたいね。



魔術研究所において精鋭と呼ばれるルーン研究所の職員達。


他の何よりも結果を出すことに全力を傾ける彼らは、

今の時間なんて気にしようともせずに次々と自らの役目を進めていってくれたわ。



そんな職員達のおかげで、

対天城総魔用の拘束魔術になるテンプテーションの実験は次の段階へと進められていったのよ。




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