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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
123/185

格安定食

《サイド:美袋翔子》



…うんうん♪



総魔と二人で食べる『夕食』


この時間は貴重よね。



実際にどうかは分からないけど、

ちょっとは仲良くなれた気がするわ。


その一点はすっごく良いことなんだけど。



…だけど。


…ね〜。



肝心の夕食がどうなの?っていう感じなのよね〜。



総魔の手元にあるのは毎度お馴染みの格安定食。



内容は日替わりだから毎回同じ食材というわけじゃないんだけど。



私からすれば『それでいいの?』って思っちゃうわ。



…だってさぁ。



ものすごく大きな食堂だけあって選択肢は結構広いのよ?



軽く300種類くらいあるんじゃないかな。



季節によっても内容が変わるから全部で何種類あるのかは私も知らないけどね。



だけどそれくらい幅広い選択肢があるんだから他の料理も頼めばいいのにって思うんだけど、

総魔は一貫して格安定食を選んでるのよね~。



それが好きかどうかは別として、

ある意味、分かりやすい食生活だとは思うわ。



…って、言っても。



もちろん私は菓子パンじゃないわよ?


夕食はちゃんとした食事を選んでる。



今日は熱々のグラタン(大盛)と向き合って、

スプーン片手に幸せ一杯な感じ。



まあ、大盛って言っても山盛りっていう意味じゃないけどね。


大きめの器っていう程度で、

総魔が食べたらお腹一杯になるかどうかは疑問を感じるくらいの量だと思うわ。



だからかな?



「それで足りるのか?」



総魔が尋ねてきたんだけど。


それこそ私が問いかけたい言葉なのよね~。



でもまあ、今はその前に。


笑顔を浮かべたままで大きく頷いてみる。



「じゅうぶんっ♪お腹一杯になるわよ♪」



グラタンにスプーンを刺す瞬間は間違いなく至福のひと時よ。



味も美味しいし。


体も温まるし。


文句なしよね。



だから私よりも総魔の定食にこそ疑問を感じるわ。



『格安』という名前の

『在庫処理詰め合わせ』って感じの定食。



見た目は悪くないけれど。


物足りない感じがするのは明らかにこっちのはずよね?


そう思っちゃったから、

素直に尋ねてみることにしたわ。



「ねえねえ、いつもこの定食を食べてない?」



まあ、いつもって言えるほど一緒に食事をした回数は多くないんだけどね。


それでも知ってる範囲内で思い出してみると、

間違いなく毎回この定食を食べてる気がするのよ。



だから他のは頼まないのかな?って思って聞いてみたんだけど。



「ああ、そうだな。」



即答だったわ。


私の疑問を肯定するかのように頷いていたのよ。



「あまり大きな声で言えることではないが、持ち合わせが少ないからな。今はこうして食べられるだけで十分だ。」



…ん?


…え?



お金がないの?


別の意味で気になる発言を聞いてしまったせいで、

もう少しだけ総魔のことを尋ねてみたくなったわ。



「お金がないって…総魔には家族とかいないの?」



普通はほら、親や家族が学費を負担してくれる事が多いのよ。


私も両親に払ってもらったしね。


入学金さえ払えば誰でも入れるこの学園の場合。


月々の寮の使用料は必要になるけど、

それ以外でいえば食事くらいにしかお金を使う事がないわ。



学園の外に出て買い物をしたり、

誰かと一緒に遊んだりすればお金を使う事はあるでしょうけど。


学園内にいる間はそれほど必要じゃないはずなのよ。



…まあ、強いて言えば。



魔導書を購入するとか?


文具をそろえるとか?


たまには必要な出費もあると思うけど。



それくらいしか思い浮かばないのよ。


それなのに。


食事を切り詰めるほどお金がないっていうのはなんだか珍しい気がするわ。



だから思いきって問いかけてみたんだけど。



「………。」



今度は無言で頷いてしまったのよ。



…うわぁ~。



もしかしなくても、

聞かないほうが良かったかもしれないわね。



これってつまり。


お父さんもお母さんもいないってことでしょ?


ふと、こみあげる疑問だけど。


これ以上余計なことを聞いちゃうわけにはいかないわよね?



まだまだ友達とも呼べない関係だし。


興味本位で話を聞いて総魔を困らせるわけにはいかないわ。



今はまだその辺りの話題には触れない方がよさそうだから。


そうなるとどう話しかければいいのか悩んじゃうわよね。



…う〜ん。


…どうしようかな〜?



話題を変えた方が良いかな?って悩んでいたんだけど。



「学園に来るまでに色々と事情があってな。」



珍しく自分のことを話してくれたのよ。



「正直に言って所持金はそれほど多くはない。おそらく、節約しても3ヶ月程度が限界だろうな。」



…えっと。



節約って寮費と食費のことよね?


食費を抑えて生活しても3ヶ月が限界ってこと?



…って、言うことは。



その先に関してはどうなるかわからないっていうことよね?


今ある資金が尽きる前にお金を稼ぐか、

あるいは卒業するしかないっていう感じなのかな?



二者択一の選択肢っぽい。


まあ、自主退学っていう選択肢も無くはないけど。


一時的な時間稼ぎながら休学っていう方法もあるけど。



どういう方法を選ぶにしても、

資金的な事情が急いで頂点を目指す理由の一つなのかもしれないわね。



…貧乏っていう言い方をしちゃうと失礼だけど。



一言で言うなら経済的な限界って感じ?


それくらいは私でも理解できるわ。



「…ということは、総魔が学園に居続けるためには、どこかでお金を稼がないといけないのよね?」


「まあ、そういう事になるな。」



ふむふむと頷いて考えてみる。


お金を稼ぐ方法ね~。


思いつく方法は幾つかあるわ。



「単純に仕事をしてみるとかはどう?」


「必要であれば考えるが、ギリギリまでは学業を優先するつもりだ。未だに講義を受けたことのない立場で言うのもなんだが、せっかく学園にいるんだからな。学ぶことを優先しておきたい」



…あ~。


…うん。



まあ、それはそうよね。


学生なんだから勉強を優先するのは当然だと思うわ。



例え図書室と検定会場を往復するだけの日々を過ごしてる総魔でも学生としての行動を逸脱しているわけじゃないしね。


少なくとも入学してからまだ一週間も経ってないんだから。


講義を受けたことがないっていうのも現時点ではまだそれほどおかしな行動だとは思わないわ。


あくまでも、現時点では、だけどね。



「う~ん。それなら、学園で募集してる委員会とかはどう?」


「委員会?」


「うん。例えばほら、美春みたいに保健委員になって救命医療班として活動してみるとかそういう感じ。それなら総魔もできるでしょ?」


「治癒魔術師として働くということか」


「そうそう、そういうこと。それなら魔術の練習もできるし、学園からの補助金も出るし、やって損はないと思うのよね。」


「…確かに、悪くはないだろうな。」


「でしょでしょ?もしもその気があるのなら手続きの仕方を教えてあげるわよ。って言っても私は保健委員じゃないから、どこでどういう手続きをするのか知らないけど、美春に聞けば教えてくれると思うから」



それほど仲がいいっていうわけじゃないけど、

話を聞きに行って邪険にされることはないはず。


これまでの態度を考えれば、

色々と不満を言いながらもちゃんと教えてくれる気がするのよね~。



「どうする?やってみる?」


「そうだな。考えてみてもいいが、今はまだいい。今すぐに資金に困るということはないからな。少なくとも明日の試合が終わるまでは余計な問題を抱えたくはない。」



…ん?



明日?



…あ~そっか。



それもそうよね。


明日は真哉との試合があるんだっけ?


すでに総魔が真哉に負けるなんて考えられないくらい信用してるんだけど。


だからこそ。


その次に行われる試合に対して慎重になるのは当然よね。



…真哉が倒れたら、次は…。



いよいよ『彼』が総魔の前に立ちはだかることになるんだから。



…だとしたら、まあ。



確かに今は余計な仕事を抱えていられるような状況じゃないわよね。



総魔が目的としてる学園の頂点はすでに手の届くところにあるんだから。



…あと2回。



たった2回だけ試合に勝てば総魔の目的は達成されるのよ。



そうなれば、そもそも学園に留まる理由がないわけで。


お金があるとかないとかそんなことは関係なく、

総魔の実力なら卒業も実現可能に思えるわよね。


たった1週間で卒業って何?って思わなくもないけど。


無理に仕事を抱えて学園に残る必要がないのよ。



…つまり。



お金を稼ぐ方法を考える必要はない、ってこと。


総魔の態度を見ていればそんなふうに考えているのは一目瞭然だったわ。



「とりあえず、お金のことは心配してないのね?」


「ああ、今のところはな。」


「じゃあ、いっか。」



考える必要のないことであれこれと相談する意味なんてないし。


今はただ、総魔が目的を達成できるように協力すればいいって思っているから。


余計な口出しはやめることにしたわ。



…家族のこととかも。



今は聞かないほうが良いし。


今みたいに総魔が自分から話してくれまで詮索しないことにしたのよ。



…今は一緒にいられるだけで十分。



とりあえずそんなふうに思えるようになったことで食事を再開することにしたわ。



「ん~、美味し〜♪」



少し時間が経っても熱々だったグラタンはまだまだ冷めない。


むしろ食べやすくなって丁度いいくらいになってるかもね。



「幸せ~」



美味しいご飯が食べれることが一番の幸せだと思うのはみんな一緒よね?



「総魔も美味しい?」


「ああ、悪くはない。」



美味しいかどうかわかりにくい返事だったけど、

一応不味くはないみたい。



もくもくと食事を続ける総魔を横目で見つつ。


私は私で幸せを感じながらグラタンを食べ続ける。



…う~ん。


…この状況って。



これって周囲の生徒達からすれば恋人同士に見えたりするのかな?


まあ、やってることはそういうことよね?


ただ一緒に食事をしてるだけなんだけど。


恋人同士であれば一般的な行動のはず。



そう思うんだけど。



…うん。



まあ、ね。


ちゃんとわかってるわよ。


総魔にそんなつもりがないってことは。


むしろ私がいないほうが良いとか考えてるかもしれないわね。



それはそれで困るというか、

寂しい気がするんだけど…。



…何て言えば良いのかな?



私としてもね。


そんなふうになりたいなんて考えてるわけじゃないのよ。


総魔と恋人同士になりたい、

なんて考えてるわけじゃないの。



今はまだ、そこまでは考えてないわ。



…ただ、ね。



ちょっとだけ、ね。



周りにそう思われたとしても悪くはないかな~?


なんて思える程度には気にしてるのも事実なのよ。



だから、かな。



そんなふうに浮ついてる私を遠くから見つめてる人がいるなんて。



最後まで気づかなかったのよ。


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