生きていくこと
話を始めてからしばらく時間が過ぎた。
…と言っても、10分くらいかな。
深海さんのご両親にとっては永遠にも等しい時間だったかもしれないけれど。
僕と成美ちゃんにとっては一瞬にも等しい時間だったと思う。
深海さんのご両親は話を聞いて悲しみに暮れているように見える。
娘を失った悲しみは忘れられるようなものじゃないから当然だけど。
どれだけ悲しくても、
これからを生きていかなければいけないんだ。
大切な家族を失っても生きていかなければいけない。
そんな二人の悲しみは永遠に消え去りはしないと思う。
「これが僕の知る全てです。」
全てを語り終えた。
二人の涙を目にしながら、
ひとまず説明を終えたんだ。
…あの日。
学園を旅立ったあの日から、
最期の時を迎えるまでの全て。
仲間と共にマールグリナを目指して国境を越えたことから始まり。
砦での激戦を乗り越えて、
軍隊と激突しながら兵器までたどり着いた。
その全てを僕は深海さんと共に経験していたからね。
覚えている限りの全てを話して伝えたんだ。
「深海さんはとても強くて…とても優しい人でした。」
今でも思うよ。
誰よりも優しい少女だったと思うんだ。
たぶん、沙織や翔子以上に周りに気を遣っていたんじゃないかな?
ただ単に魔術師として強いだけじゃなくて、
心にも強さを感じる人物だったと思ってる。
最初こそ戸惑うことが多かったけれど。
だけど沙織が亡くなって。
翔子が亡くなって。
仲間達が倒れて。
悠理が亡くなったあとでも。
深海さんは絶望を乗り越えて、
戦う意志を持ち続けていたんだ。
仲間を失う『絶望』は決して小さくはない。
僕でさえ嘆き悲しんでしまったからね。
だからこそ思うんだ。
深海さんの想いは誰よりも強かったんじゃないかな…ってね。
共和国を守る為に。
ジェノスを守る為に。
そして家族を守る為に。
深海さんは自らの命を捧げて倒れた。
その命懸けの想いだけは、
決して忘れてはいけないと思ってる。
「深海優奈さんの優しさが、この町を守り抜いたんです。」
「…ありがとうございます。」
僕の想いを伝えたことで、
深海さんのお父さんは涙を流しながら微笑んでくれていた。
「それが優奈の望んだ結果なのだとしたら…私達は全てを受け入れようと思います。」
家族を守る為に自らの命を捧げた深海さんの想いを尊重して、
ご両親は現実を受け止めてくれた様子だった。
「優奈の為にも精一杯生きていこうと思います。それが残された私達の役目ですから。」
娘を失っても生きていくことを約束してくれたんだ。
その言葉が聞けただけでも、
ここに来て良かったと思えた。
「それと…最後になりましたが、今日の午後2時頃から学園で合同葬儀を行う予定だそうです。なので、よろしければ…」
「もちろん参加させて頂きます。」
参加の意思を尋ねる前に、
ご両親は揃って頷いてくれたんだ。
「…優奈の為ですから。」
「断ることなんて出来ません。」
最初に深海さんのお母さんが答えてくれて、
次に深海さんのお父さんも受け入れてくれたんだ。
そのあとで、成美ちゃんに話しかけていた。
「成美さん。せっかく手伝って頂いたのに申し訳ないのですが…今日は店を閉めようと思います。なので、また次の機会にお願いします。」
「あ、はい…っ。」
このまま開店を見送ってお店を閉めると決めた深海さんのお父さんに、
成美ちゃんは寂しそうな表情を見せている。
…仕事がなくなったからだろうか?
…それとも悲しみを共有しているのだろうか?
僕には計り知れない部分だけど。
借りていたらしいエプロンを返してから出口に向かう成美ちゃんに、
深海さんのご両親は笑顔で声をかけていた。




