脱落か成長か
《サイド:文塚乃絵瑠》
1番目の暗黒迷宮。
視界の全く利かない暗闇の世界で道を見失ってしまったせいで途方に暮れていたんだけどね。
暗黒迷宮に挑戦してからすでに数時間が経過しようとしていたわ。
もちろん暗闇の中にいる私には時間の流れなんて分からないし。
時計が見えるはずもないんだけどね。
…そもそも迷宮に時計なんて存在しないと思うけど。
「今って何時なの…?」
時間の感覚が曖昧なせいで、
すでに『制限時間』が迫っていることに気付いていなかったのよ。
「一体、どこに出口があるのよ?」
暗闇の恐怖に怯えながらも懸命に出口を捜し続けてる。
だけど目的の出口どころか、
方向感覚さえも掴めないでいるのよ。
迷子にも似た感覚を感じながら迷宮をさ迷い続けているの。
見えない通路。
辿り着けない出口。
分からない方角。
不安に襲われる心。
「…どうすればいいのよ~!?」
戸惑っている間にも制限時間は迫っているはなのず。
「もう~っ!一体、どっちに向かえばいいのよっ!!」
キレ気味に叫んでみた丁度その瞬間に、
制限時間の8時間に達してしまったようね。
不意に冷たい風が私の体を包み込んだのを感じたわ。
「え…っ!?何?何なのっ!?」
突然のことで慌ててしまったけれど。
今の私にはもう抵抗するだけの気力さえ残っていなかったの。
迷宮の番人である『闇の精霊』に取り付かれてしまったことで、
休息に睡魔に襲われてそのまま崩れ落ちてしまったのよ。
そして徐々に意識を失っていく私を、
闇の精霊が外に連れ出してくれるみたい。
単純に考えて迷宮に挑戦してから8時間後だと、
午前7時30分になるのかな?
暗黒迷宮の突破に失敗した私は、
迷宮の入口へと放り出されてしまったのよ。
入口の鍵が解除されて、
薄暗い部屋へと投げ出されたのは感じたわ。
地味に痛かったから、
投げ捨てられたのは間違いないと思うの。
そうして闇の精霊が迷宮に消えた直後に、
動けない私に向かって一人の人物が歩み寄ってきてくれたのよ。
「やっぱり、乃絵瑠には無理だったわね。」
…彩花、よね?
上手く声が出せなかったわ。
途切れかけの朦朧とする意識では彩花に振り返ることさえ出来なかったのよ。
そうこうしてる間に私の体を抱き起こしてくれた彩花は、
意識を失いつつある私を眺めながら小さな声で囁いていたの。
「ねえ、乃絵瑠。ここで脱落するか、それとも成長するか。どちらになるかはあなた次第なのよ。」
…ええ、そうね。
反論しようがないわ。
自分でも情けないって思うからよ。
私を抱えてくれた彩花が休憩室へと戻っていく。
そして室内に並ぶベッドの一つに歩み寄って私を寝かせてくれるみたい。
「今はゆっくりと休みなさい。」
…うん。
…ありがとう、彩花。
上手く返事が出来なかったけれど。
私の体に布団を被せてくれた彩花は、
それ以上何も言わずにベッドから離れていったのよ。




