女性としては
急いで脱衣所を離れたわ。
相変わらず人気のない室内でソファーに腰を下ろしてみる。
…う〜ん。
髪はまだ乾ききっていないわね。
僅かに滴る水滴を気にしながら、
肩にかけていたタオルで髪を乾かし続けてみる。
しばらくそうしていると、
脱衣所から奈々香が出て来たのよ。
今は予備の制服に着替え終えて、
両手にボロボロの制服を抱えているわね。
「その制服、どうするの?」
「…繕います。」
「出来るの?」
「…はい。」
あっさりと頷いた奈々香は、
自分の鞄から裁縫道具を取り出したのよ。
小さな小物入れには針と糸が丁寧に収納されているのが見える。
…もしかして?
私が思ってる以上に奈々香は几帳面な性格なのかも?
空いているソファーに腰掛けてから、
慣れた手つきで制服を繕う動きは滑らかで、
文句のつけようのない完璧な裁縫だったわ。
僅か数分でね。
破れていた部分が完全に塞がってしまったの。
「凄いわね…奈々香。裁縫は得意なの?」
意外な才能に驚いたんだけど。
奈々香は無表情のままで頷いていたわ。
「…この程度なら、簡単です。」
針と糸を小物入れにしまった奈々香は、
制服を綺麗に畳んでから小物入れと一緒に鞄の傍に並べてる。
…うわぁ。
奈々香の様子を眺めながら思うことはただ一つ。
…料理も出来て裁縫も出来るなんて羨ましすぎるわ。
味付けはともかく。
料理としては最下位の扱いを受けている私は、
裁縫も苦手で針に糸を通すことさえ上手く出来ないのよ。
魔術師としての成績だけは勝っているけれど。
女性としては完全に負けてるってことよ。
…この敗北感は何?
全てにおいて奈々香に負けているような感覚に陥ってしまったわ。
それなのに。
そんな私を気にせずに奈々香は時計に視線を向けてる。
「時間が気になるの?」
私も時計に視線を向けてみたわ。
時刻は11時15分よ。
もうすぐ日付が変わると思った直後に暗黒迷宮への扉が開かれたのよ。
『ガチャッ』という音に気付いて扉へと視線を向ける私と奈々香。
帰ってきたのは未来だったわ。
「ただいま~!」
明るい笑顔で帰ってきたのよ。
わざわざ聞かなくても、
その笑顔を見れば結果なんて分かるわよね?
未来も無事に迷宮を突破して帰ってきたということよ。
「お帰り、未来。どう?怪我はしてない?」
一応、心配してみたけれど。
やっぱり心配する必要はなかったようね。
「楽勝、楽勝!全然、平気よ。」
余裕の表情で微笑んでいたの。
「それならいいけど。」
未来に歩み寄ってから、
迷宮の入口へと視線を向けてみる。
「やっと私の出番ね~。」
最後まで待たされたから、
さっさと歩きだそうとしてみたんだけどね。
「…気を付けて下さい。」
珍しく奈々香から話しかけてきたのよ。
「乃絵瑠さんには…危険な所です。」
…う~ん。
彩花も同じようなことを言ってたわね?
何度も忠告されたことで不安を感じながら振り返ってみる。
「ありがと、奈々香。とりあえず、出来る限り頑張ってみるわ。」
他に答えようもないしね。
やるだけやってダメならそれまでなのよ。
「行ってくるわね。」
1番の扉へと向かう。
そしてゆっくりとした手つきで扉を開く。
そんな私の姿を奈々香と未来が見守ってくれていたわ。
「…じゃあね。」
挨拶をしてから迷宮に挑む。
…こうして。
私もようやく最初の迷宮に歩みを進めることになったのよ。




