お礼
サイド:美袋翔子》
う~ん。
…あれれ?
なんだろ〜?
手続きはすぐに終わるはずなのに、
受付に向かった総魔は係のお姉さんと何か話をしていたわ。
…何の話なのかな?
総魔が他人と話をするのって結構珍しい気がするのよね。
…って。
こういう言い方はちょっと失礼かな?
でも、ね。
普段ならそんなに話をすることってないはずなのよ。
いつもなら必要なこと以外は話さないって感じだしね。
でも話が終わらないっていうことは、
もしかして明日の予定に関して相談してるのかな?
真哉との試合に関して私は何も聞いてなかったけど、
他に考えられることなんてないし。
なんとなく、そうじゃないかな?って思うのよね~。
だから今は大人しく待つことにしたの。
そもそも真哉との試合に関する話なら私が行っても仕方がないし。
余計な口出しはしないでおこうと思ったのよ。
まあ、べつに真哉と喧嘩したわけじゃないんだけどね。
それでも一応、真哉達とは別行動をとっているわけだから、
下手に割り込むのは気が引けるのよ。
もちろん全ての立場を捨ててきたわけじゃないから戻ろうと思えばいつでも戻れるんだけど。
だからと言って、
いままで通りに接することはできないと思うわ。
しばらくはみんなのもとに戻れないし、
戻っちゃいけないって思うの。
色々な覚悟を決めた上で総魔に協力するって決めたんだから。
今は胸を張って堂々と総魔を応援できればそれでいいの。
…余計な口出しはしないわ。
そんなふうに考えながら総魔の行動を眺めていると。
話を終えた総魔が戻って来てくれたのよ。
「心配をかけてばかりで悪かったな。」
…ん?
突然、総魔がお礼を言ってくれたんだけど、
何に対してのお礼なのかがわからなかったわ。
だから何のことかを聞き返そうとしたんだけど、
その前に総魔が教えてくれたのよ。
「守ってくれたんだろう?」
あ~。
うん。
そのことね。
総魔に言われてようやく理解できたのよ。
私としては隠してたつもりなんだけど、
総魔は気づいてたみたい。
だからそのことを確認してたんだと思う。
受付で時間がかかっていたのは私のことを聞いてたみたいね。
…って言うか。
やっぱり気づかれてたんだ。
私が受付に走った理由に総魔は気付いてたってことよ。
「べ、別に、そんなふうにお礼を言われるようなことじゃないわよ~」
照れ笑いを浮かべながら軽く手を振って謙遜してみる。
「結局、何もしてないしね」
実際にそうなんだけど。
「いや、その気持ちだけで十分だ」
それでも総魔は感謝してくれたわ。
滅多に笑ってくれない総魔が微笑んでくれたのよ。
その笑顔が見れただけで、
私も自然と笑顔を浮かべてしまったわ。
「あ、あははは…。」
総魔の笑顔を見てるだけで
照れくさく感じちゃったのよ。
誰かに感謝されるのって気恥ずかしいわよね。
…でも、ね。
これで良かったんだって思うことは出来たの。
「喜んでもらえたなら良かったかな。」
結果はともかくとして、
私がした事はあれよ。
受付の妨害ってやつね。
弱り切ってる今の総魔なら相手がどんなに弱い生徒であっても、
簡単に敗北してしまうんじゃないかなって思ったのよ。
現在3位の総魔よりも上の生徒は当然2人しかいないんだけど。
この会場でいえば総魔の下には96人が在籍しているのよ。
すでに由香里との試合によって格下一回の試合義務は終わらせてるから強制力はないんだけど。
それでも格下の生徒達が総魔の存在に気付いて試合を挑んだとすると、
逃げる事を望まない総魔は疲れていても絶対に挑戦を受けると思うのよね。
そうなれば総魔の敗北はほぼ自動的に確定しちゃうでしょ?
そうなる事を防ぐ為に。
受付に立て篭もって他の生徒が受付に来るのを妨害しようとしたのよ。
…まあ、必要なかったんだけどね~。
結果からいえば、
すでに時刻は午後7時に近い事もあって誰も来なかったのよ。
それでも一応。
午後8時までは会場を出入りできるから誰かが来る可能性を考慮して受付に駆け付けていたんだけど。
私の努力が活躍する場面はなかったわ。
それなのに、総魔は感謝してくれるみたい。
「感謝する」
その一言が聞けただけで、
私は満足な気持ちになれたの。
「どういたしまして♪」
いつも通りの笑顔を浮かべながら総魔に話しかけてみる。
「とりあえず、お腹が空いたからご飯食べに行かない?」
「ああ、そうだな。」
私の誘いに乗って、
総魔が食堂に向かって歩きだす。
その隣に並んで私も歩く。
…とりあえず、これで良かったのかな?
総魔への心配がなくなったわけじゃないけど、
試合の結果そのものは私の願いに限りなく近い展開になったと思うから。
親友の沙織が無事に試合を終えられたんだから、
その一点においては悲しい思いをしなくて済んだのよ。
だからもうこれ以上の願いは考えても仕方がないから。
晩御飯は何にしようかな~?なんて、
考えを切り替えてみる。
「お腹すいたね〜。」
二人並んで歩く道。
「総魔は何を食べるの?」
いつもと同じ光景。
「また定食?」
あまりしゃべらない総魔とひたすら話し続ける私。
目的の食堂は、まだまだ遠いわ。




