対戦成績
新入生や上級生など。
学年も年齢も様々なようだが、
ここにいる以上は彼らも試験を受けるつもりなのだろう。
すでに並んでいる生徒達の列に並んで順番を待ち、
外にいた係員に言われた通りに受付の女性に話し掛けてみる。
「今から試合をしたいんだが、どうすればいい?」
「はい。試合の手続きですね。それでは生徒手帳を見せていただいてもよろしいですか?」
「ああ」
「ありがとうございます。」
聞かれてすぐに生徒手帳を提出してみると、
複数の箇所を確認した係員は丁寧な手つきで手帳を返却してくれた。
「11393番の天城総魔さんですね。」
どうやら生徒番号の確認がしたかったらしい。
生徒手帳には生徒番号と氏名が印字されているからな。
それを見て生徒の判別を行っているのだろう。
そもそも1万を超える生徒の顔と名前を覚えるのは不可能だ。
生徒番号で判断していたとしてもおかしくはない。
「まずはこちらの参加者名簿をごらんください。」
笑顔もなにもないまま事務的に差し出された名簿を受け取って眺めてみる。
…この中から対戦相手を選べということか。
名簿には格上となる生徒の番号と氏名が数多く記されている。
現時点で50人以上の対戦相手がいるようだが、
どういう基準で選べばいいのかがわからない。
…普通に考えれば。
会場は開かれたばかりだ。
そして昨日は入学式で、今日からが本番になる。
昨日の時点で特に変動がなければ、
ここに記されている生徒は全て上級生になるはずだ。
すでに勝ち上がっている新入生もいるかもしれないが、
一覧表だけでは情報が少なすぎて判断できない。
…何を基準に選ぶべきだろうか?
少し悩んでしまう。
そのせいだろうか。
俺の様子を眺めていた受付員が話しかけてきた。
「ここは初心者用の会場ですが、試合に慣れるまでは無理をせずに慎重に選んだ方がいいと思いますよ。特に初戦であればなおさらです。」
…まあ、そうだな。
言いたいことは理解できる。
だがそれよりも気になる発言があった。
「初戦か、確かにそうだが試合の記録も残しているのか?生徒番号を見ただけでは分からないだろう?」
「いえ、分かりますよ。生徒手帳には白紙のページが沢山ありますよね?」
…ああ、あるな。
先程、生徒手帳を提出したときに確認されていた部分だ。
生徒手帳には20ページほど白紙の部分がある。
「試合を行ったあとに、その余白部分に試合の経歴が全て記されていきますので何も書かれていない状況だと試合経験がないのは一目で分かりますよ。」
…なるほど。
そういうことか。
そのための空欄だったのか。
「つまりここを見れば今までの試合結果が分かるということだな。」
「ええ、そうです。ですから生徒番号を偽造しても対戦記録との照合に不審な点があればすぐにバレてしまいますので、誤魔化したり、だますことはできません。」
成績の偽造か。
すぐにバレるということは、
すでに実践した生徒がいるということだろうか。
「記録の改竄を行う生徒がいたのか?」
「…いなかったとは言えませんね。」
やはりあったらしい。
「ですが生徒手帳の記録を書き換えることに意味はありません。全ての記録は学園が保持していますし、その記録を生徒手帳に書き記しているだけですので、対戦成績を改ざんしても学園の記録は書き換えられません。むしろ係員に見つかり次第、失笑の的になるだけです。ただ…校則に違反するというほどのことではありませんので、見栄を張るのは自由ですけどね。」
…見栄か。
そんなことに興味はないが、
生徒手帳の記録を改ざんするだけなら誰でもできるらしい。
だが学園の記録を変えられるわけではないからな。
偽造そのものは不可能ということだ。
それこそ他人に見られても恥ずかしくないように見栄を張る程度の意味合いしかないだろう。
もちろん試合の敗北数より勝利数が上回っていれば見栄を張る必要はない。
とはいえ敗北が続いてしまえばそんなくだらない虚勢を張る生徒も出てくるのかもしれないな。
「…あ、あと、一応言っておきますが、偽造が判明した場合はその旨を校舎の入口にある掲示板に書き出されることになりますので、恥ずかしい思いをしたくなければそういうことはしないほうがいいですよ」
「つまり、その掲示板を見に行けば恥をさらした生徒がわかるということだな?」
「ええ、新入生がやりがちなことですので」
…確かにそうかもしれないな。
詳しい事情を知らなかったり、
あるいは見栄を張って生徒手帳の記録を偽造しようとする生徒がいるとすれば、
それはほぼ間違いなく新入生だろう。
そしてこれまでの流れを考えればすでにいるということだ。
偽造が発覚して名前を公表された人物がすでにいる。
だからこそこれ以上の問題が起きないように前もって警告してきたのかもしれない。
「ちなみに偽造が発覚したのは何人だ?」
「現時点で5名ですね。」
もうそんなにいるのか。
昨日、入学式を終えたばかりだというのに。
約1000人の新入生の中で、
すでに5人の不正が発覚しているらしい。
割合的には少ないが、
入学早々恥をさらしたのだからな。
5人の生徒はすでに学園に居づらくなっているかもしれない。
そしてまだ不正が見つかっていない生徒もいるかもしれないが、
しばらくすれば偽造が無駄な努力だと気付くはずだ。
やがて偽造問題は沈静化するだろう。
「記録に関してはわかった。とりあえず試合をしたいが、名簿の中から誰を選んでもいいのか?」
「ええ、そうです。どなたでも構いません。ただ、先程も言いましたが最初は無理をしないほうがいいですよ。」
…ああ、そうだな。
直近で良い。
ひとまず係員の忠告の言葉を聞き入れて、
名簿の中で最も番号の近い
11382番の生徒を指名することにした。
「この生徒で頼む」
「はい。ご指名は柊健一さんですね。本日はまだ下位対戦が行われていませんので挑戦を許可します。試合場E-2番へお向かい下さい。」
対戦相手の名前を指差した。
ただそれだけであっさりと手続きが終わってしまったらしい。
「手続きはこれだけか?」
試合場に向かうのはいいのだが、
こんな簡単な手続きでいいのだろうか?
「ええ、そうですよ。あとは試合をしていただいて、その結果報告を受けてから生徒手帳に記録を書かせていただきますので、試合が終わったらもう一度受付に来てください。」
試合後に受付に戻ってくる必要はあるようだが、
本当に何もしなくていいらしい。
「あ、一応伝えておきますが、結果報告は私じゃなくても大丈夫ですよ。他の受付でも出来ますので、空いている受付で生徒手帳の更新をしてください。」
「ああ、分かった。」
受付は5カ所ある。
そのどれでも良いらしい。
まずは試合を行って、
試合結果を生徒手帳に記録する。
その流れさえ理解できればあとは迷うことはない。
指定された場所に向かうために、
受け付けに張り出されている会場内の地図を確認してから目的の試合場に向かうことにした。




