可能性は二つ
「あまり事前情報を教えるのは良くないから詳しい説明はしないけれど。」
余計な説明はしないって前置きをしてから、
話を聞かせてくれたのよ。
「暗黒迷宮という場所はね。乃絵瑠が思っている以上に危険な所なのよ。」
…えっと。
「危険って…どれくらい?」
「光の射さない迷宮だから、乃絵瑠が乗り越えられる可能性は限りなく0%に近いわね。」
…はあ?
…0%?
…冗談でしょ?
「だから乃絵瑠を最後にしたのよ。」
…いやいや。
だからって言われて困るんだけど?
「もしもそうなら私が参加する意味なんてないじゃない!?」
絶対に攻略出来ない迷宮に行く意味なんてあるの?
「意味はあるわ。不可能を可能に変えること。その程度のことが出来なければ、あのウィッチクイーンには勝てないのよ。」
…それは、そうかもしれないけれど。
それって普通の成長では辿り着けないっていうことよね?
「もしもあの女に追いつこうと思うのなら普通の努力では話にならないのはわかるわよね?だから限界を超えた先にある力に辿り着けるかどうか。それが私や乃絵瑠に必要な成長なのよ。」
…う~ん。
私達に必要な成長って言われてもね~?
どうすればいいのかさっぱり分からないわ。
「乃絵瑠が『今』以上に成長する為に考えられる可能性はおそらく二つよ。」
「えっ?二つもあるの?」
「あくまでも可能性よ。」
…ああ、うん。
そうよね。
可能性よね。
「…で?どうすればいいの?」
「一つは暗黒迷宮の闇を払えるほどの光を身につけること。もう一つは光を超える闇の力を身につけること。そのどちらかでしょうね。」
…ああ、まあ、ね。
言いたいことは分かるわ。
学園が総力を結集した闇の力を超えるほどの光の力を身につけるか。
今現在、私が得意とする光の力を超えるほどの闇の力を身につけるか。
選択肢は二つに一つ…ってことよね。
もちろん他の方法がないわけじゃないけれど。
最も確率の高い可能性がその二つなのは私にも理解できるわ。
だけどそれが難しいから今の実力なわけで。
言われて「はい、そうですか」なんて出来ることじゃないと思うのよね。
「結構、難易度高くない?」
「だから言ったでしょう?限界を超えられるかどうか、それが私達の試練なのよ。」
………。
暗黒迷宮に挑んで成長を願うのなら可能性は二つ。
「光か闇か。乃絵瑠はどちらを選択するのかしら?」
どっち…なのかな?
問い掛けられても私はまだ何も答えられないわ。
今はまだ暗黒迷宮に挑戦していないから。
彩花の問い掛けには答えられなかったのよ。
でも、ね?
それでも思うの。
「光でも闇でも構わないわ。」
みんなの足手まといにだけはなりたくないの。
「私は今の私を超えて、みんなを守れる力が欲しい。その為なら…どんな力でも構わないわ。」
「ふふっ。」
素直な気持ちを答える私に、
彩花は微笑みを向けてくれてた。
「大丈夫よ。乃絵瑠なら辿り着けるわ。限界を超えた先にある力。それは決して不可能なんて言い切れない。そのことはもう…乃絵瑠も気付いているはずよね?」
「ええ、そうね。」
彩花の指摘を受けて小さく頷いてみせる。
何だかんだ言ってもね?
私も気付いているのよ。
何度も試合をしてきたから。
他の誰よりも『あの子』の実力を知っているから。
その『可能性』も知っているの。
前回の大会において圧倒的な実力差で私を倒した人物。
彼女の名前は『美袋翔子』
私と同様に光属性を主とする魔術師だったのに、
翔子は光に匹敵する闇を身に付けて私の実力を一気に上回ったわ。
それまでは全くと言って良いほど互角の実力だったはずなのに。
前回の試合で翔子は私を上回ったのよ。
そんな翔子の成長を見た私は恐怖さえ感じてた。
翔子がどれほどの苦労を重ねてその力にたどり着いたのかなんて私には分からないわ。
…だけどね。
翔子は実践して見せたのよ。
『光』と『闇』の両立。
相反する力の融合。
その力で翔子は私達を超える遥かな高みに辿り着こうとしていたの。
突如として大会に現れた最強の魔術師。
天城総魔に近付こうとしていたのよ。
その事実は私も知ってる。
魔術大会を最後まで観戦していたから。
大塚義明を打ち破った翔子の実力を最後まで見届けていたから。
今の私の実力では足元にも及ばないと感じるくらいの強敵になってしまった事実を知っているの。
私では絶対に勝てない大塚義明を乗り越えた翔子の実力。
その『力』と『成長』を羨ましく感じていたのよ。
「どこまで出来るかは分からないけれど…諦めなければ必ず辿り着けるはず。翔子はそれを証明してみせたわ。」
私もその事実を知っているから。
だから絶対に諦めない。
「翔子が辿り着いたように、私も辿り着いてみせる!」
今はただ、彩花が示してくれた方向性を信じて進んでみようと思うの。
「まあ、同じ結果になるかどうかは分からないけどね〜。」
私が進むべき道は翔子が示してくれたわ。
だから私は迷わない。
「私も翔子と同じ道を歩むだけよ。」
強くなることを願いながら彩花に夕食を差し出してみる。
「もしかしたら彩花を超えるかもしれないしね?」
…なんて。
ちょっぴり調子に乗ってみると。
「ふふっ。」
彩花は微笑みを浮かべたままで殺気を放ってきたのよ。
「言うじゃない、乃絵瑠。その言葉…あとで後悔しても知らないわよ?」
…うわあぁぁぁぁ。
…こっわ。
背筋が凍りつくほどの笑顔だったのよ。
冗談抜きで殺気を放つ彩花の迫力に恐怖を感じて、
無意識のうちに逃げるように後ずさっていたわ。
「あぅぅ…。ごめんね…。」
彩花の威圧感に負けて即行で謝罪してしまったのよ。
…余計なことを言っちゃったわね。
本気で反省して頭を下げた直後に。
再び入口の扉が開かれる音が聞こえてきたの。




