つかの間の平和
「…どうかしたの?」
…えっ!?
千夏に話しかけられたことで慌てて振り返ってしまったわ。
気を抜いていたわけじゃないんだけど。
ちょっとびっくりしてしまったのよ。
「…ううん。何でもないわ。」
考えたところで今の私には何もできないし。
先輩達を追いかけようとも思わない。
「それよりも千夏はどうするの?隣町の実家に帰る時間はないと思うし…。どうする?家に来る?」
「え?いいの?」
「いいわよ。どうせまた集合するんだから、わざわざ学園で待機する必要はないでしょ?」
「あ~、まあ、そうかもね~。」
私の意見に賛同してくれたようで、
千夏も私の家に向かうことになったわ。
「美春の家って久しぶりよね~。」
「ええ、そうね。でも、一度は千夏の家にも行ってみたいと思うわ。」
「ん~。私の家って結構遠いのよね~。」
「隣町だから仕方ないわよ。」
「まあね~。」
千夏は何度か私の家に来たことがあるけれど。
私が千夏の家に行ったことは一度もないわ。
その理由はただ一つ。
千夏はこの町の出身じゃないからよ。
わざわざ隣町からジェノス魔導学園に入学してきたの。
その理由はジェノスが大きな学園だからということらしいわ。
…まあ、確かにね。
隣町の学園はジェノスと比べると規模が小さいらしいし、
そういう理由で別の町からジェノスに来る生徒も少なからずいるみたいなのよ。
決して珍しいことじゃないらしいわ。
…まあ、さすがに天城総魔みたいに他国からっていうのは珍しいけどね。
家族でジェノスに移住してきた御堂先輩とか常盤先輩のような人達は結構いるけど。
単独で他国からジェノスまでっていうのは珍しいんじゃないかしら?
他にはいないっていうほどでもないけれど。
極々少数でしょうね。
さしあたって千夏の場合で言うと、
わりとよくある出来事だと思うわ。
だけど千夏の実家はジェノスにはないから、
千夏の家に泊まろうと思うなら隣町まで行かなければいけないのよ。
それが面倒だから今はまだ千夏の家を知らないの。
「学園を卒業したら千夏の家に遊びに行こうかな?」
「いつでも良いわよ~。」
何気なく呟いてみると、
千夏は笑顔で歓迎してくれたわ。
あっさりと受け入れてくれるお気楽な千夏に微笑みながら、
ひとまず私の家に向かって歩き出す。
「お父さんとお母さん。元気にしてるかな?」
「ジェノスはわりと平和だったから心配いらないんじゃない?」
「…たぶんね。」
実際に平和だったかどうかは知らないけれど。
千夏と二人で話し合いながら歩く帰り道で久々のジェノスの町並みを眺めてみる。
いつもと同じ光景と、
いつもと同じ海の匂い。
こうしていると本当に戦争があったのかどうかさえ疑問に感じてしまうわね。
それくらい平和なジェノスでの時間を楽しむかのように、
私達はのんびりと海沿いの通りを歩き続けたのよ。




