逃げるわけにはいかない
「お互いに無事で何よりだね。」
笑顔で話しかけてもらえたんだけど。
先輩の言葉には重みを感じてしまうわね。
実際に戦場を経験して多くの仲間を失った先輩の言葉には深い想いが感じられるからよ。
「え~っと…まあ、はい…。」
どう答えるべきか悩んでしまったわ。
そんな私を見ていた先輩は苦笑してた。
「…ははっ。まあ、とりあえず、きみ達はこれからどうするんだい?」
…う~ん。
どうって聞かれてもね~?
どうすればいいのかしら?
「一応、召集がかかるまでは自由行動と聞いてますので、それまでは実家でのんびりしようかな~なんて思ってます。」
「ああ、そうか。それじゃあ、またこの船に乗るかもしれないんだね?」
「え…ええ。そうですね。」
その場合、セルビナに向かうのかミッドガルムに向かうのかは知らないけれど。
間違いなく戦場に派遣されることになるんでしょうね。
「先輩はどうされるんですか?」
「んー。僕は色々とやることがあるから、あちこち動き回ってるんじゃないかな?今日はこれから会議に参加して、明日は挨拶に回ろうと思ってる。」
…挨拶?
「それって…もしかして?」
「ああ。翔子や沙織。それに真哉や深海さんに、悠理や武藤君の家族にも会って、ちゃんと話をしようと思ってるんだ。」
…うわぁぁ。
こういう時ってどう言えばいいのかしら?
上手く答えられないけれど。
私なら誰かに頼んでしまうかもしれないわ。
それなのに。
先輩は自分で行くみたい。
「亡くなったことを告げに行くんですよね?でも、それは…」
「分かってるよ。だけどこれが僕に託された役目だと思うんだ。」
辛いことですよ…と言葉にする前に遮られてしまったのよ。
「この役目から逃げるわけにはいかないと思ってる。みんなが助けてくれたから僕は今も生きていられるんだ。だからこそ…この役目だけは誰にも譲れないし、譲りたくない。気持ち的には辛いけれど…だからと言って逃げるわけにはいかないんだよ。」
先輩は全てを覚悟のうえで行動するつもりでいるようね。
…だけど。
それはとても悲しい判断だと思うわ。
生存者が自分だけだったからと言って、
死んでいった人達の悲しみを全て背負う必要なんてないわよね?
そこまで責任を感じる必要なんてないはずなのよ。
それなのに。
先輩は自分から率先して辛い役目を引き受けようとしてるみたい。
「ちゃんとみんなの想いを伝えてあげたいんだ。どんな想いで戦場に立って、どんな想いで戦い抜いたのかを…。その想いをご家族にちゃんと伝えたいんだ。」
「………。」
本当は誰よりも悲しい経験をしてるはずなのに。
それでも先輩は微笑みを浮かべていたのよ。
「家族は大切にしたほうがいいよ。戦いに参加する以上、別れの時がくるかもしれないからね。」
「…あ、はい。そうですね。」
「うん。」
私の返事を聞いてから、
先輩は離れていったわ。
そのあとで長野君達の傍に戻っていく先輩だったけど。
私達から離れたことで、
黒柳所長が話しかけていたわ。
「それでは学園へ行こうか。今後について話し合おう。」
「はい!分かりました。」
黒柳所長と一緒に学園に向かっていく先輩。
そのあとを追うように長野君達も動き出してる。
…きっと、これからみんなで色々と話し合うんでしょうね。
その会議の内容には少し興味を惹かれるけれど。
たぶん今朝の話し合いと同じような内容だと思うから、
無理に参加しようとは思わなかったわ。
「先輩も…頑張ってください。」
港の出口で米倉元代表とも合流して学園に向かっていく先輩達の後ろ姿をね。
今は見送ることしかできなかったの。




