揺れない地面
《サイド:鈴置美春》
…う~ん。
…やっとジェノスに帰ってきたわね~。
停泊した船から降りて行く人達の様子を眺めてみる。
私達を含めて100人くらい乗っていたんだけど。
下船する人達の中に御堂先輩の姿も見えたわ。
港に降り立つ御堂先輩の傍には、
長野君と芹澤さんと矢野さんの3人が付き添ってる。
もちろん先輩達のあとからも次々と船を下りていく人達がいるんだけど。
その大半が魔術師なのよ。
だけど。
船大工とかの一般人も乗船していたから、
全員が魔術師というわけじゃないんだけどね。
ごく普通に調理担当のおばちゃんとかもいるし。
魔術師じゃない一般の医師もいたから、
そういう人達もジェノスに戻ってきたことでそれぞれのお家に帰っていくみたい。
また何かあればここに集まることになるみたいだけど。
ひとまず私と千夏も船を降りることにしたのよ。
「久々の陸地!揺れない地面ってすごくない!?」
…ああ、うん。まあね。
改めて大地の有り難さを実感する千夏に苦笑いを浮かべながら頷いてみる。
「確かに船酔いから解放されるのは嬉しいわ
ね。」
私と千夏は船酔いとは無縁だったけれど。
海軍以外の乗組員の中にはね。
船酔いによって苦しんでいた人達が結構いたのよ。
最近は慣れた様子だったけど。
船に乗り込んだ当初は後輩の瑞希ちゃんも船酔いに苦しんでいたから。
みんなの処置や看病のために、
医療班はそれなりに忙しい日々を送っていたの。
100隻を超える海軍の船の中でジェノスに戻ってきたのは米倉元代表が指揮をとる旗艦だけで、
他の船は今でもまだ共和国周辺の海域で活動してるみたいだけどね。
旧アストリア王国で生存者の捜索を行っている船が19隻。
セルビナ方面の警戒を行っている船が30隻。
共和国周辺海域で漁業を行いつつ海域の防衛を行っている船が約50隻。
そして遠海まで他国の調査活動を行っている船が10隻近くあるらしいわ。
各船に配備された救急班と医師は一隻当たり10名程度だから、
他の救急班の仲間達は別の船に乗って行動してるはずよ。
私と同じ船に乗っていたのは千夏と瑞希ちゃんを含めて5人の救急班と3名の医師だけなんだけど。
基本的に主力が集まっているからか、
それほど治癒魔術師を集める必要はないっていう判断だったみたいね。
ちなみに私が旗艦に所属していたのは米倉元代表の指示だったからなんだけど。
どうしてなのかは朝の会議でようやく理解できたわ。
要するに私を傍において実践を経験させようとしていた…ということよ。
そこまではっきりとは言われなかったけどね。
状況次第では単なる話し合いだけじゃなくて前線に同行させられてたんじゃないかしら?
まあ、結果としてそこまでの出番はなかったわけだけどね。
「本格的な戦闘が発生しなかったから良かったけれど。もしも海戦が起きていれば、医師と私達5人だけじゃ全く作業が追いつかなかったでしょうね。」
「そこはほら、その時はその時って感じじゃない?」
…う~ん。
さすがにその考え方は気楽すぎない?
戦闘にならなかったからこそ言える台詞だと思うわ。
もしも本格的な戦闘が発生していたら、
その台詞は言えなかったはずよ。
「結果的に戦闘にならなかったんだから、気にしない気にしない!」
お気楽な態度な千夏と会話をしながら船を降りてみる。
そうして港を歩き出そうとすると、
御堂先輩が近づいてきて声をかけてくれたのよ。




