あの時のように
《サイド:長野淳弥》
…何だろうな?
…どうして俺はここにいるんだろうか?
落ち込んだ様子の御堂を見ていたせいか、
ついついそんなことを考えてしまった。
…いや。
別に不満があるとか、
そういうことじゃないんだけどな。
翔子の死を知ったせいで、
少し気力が低下してるのかもしれないな。
誰よりも守りたいと願って、
誰よりも手に入れたいと願っていた女が今はもうどこにもいないんだ。
その事実が頭の中を渦巻くせいで、
どうにもやる気が起きないでいる。
そんな状況だった。
…翔子。
心から愛した女はもうどこにもいない。
守ることが出来ず。
傍にいることさえ出来ず。
最期を看取ることさえ出来なかった。
そのせいで後悔ばかり考えている。
…俺は何をしてるんだ?
心に穴が空く思いっていうのは、
こういうことを言うんだろうな。
出来る限り悲しみに気づかれないように振る舞ってはいるが、
自分の心まではごまかせない。
翔子のいない町。
久しぶりに見るジェノスの町を眺めて俺も思ってしまう。
…翔子と共に戦いたかった。
そして叶うなら、
翔子と共に死にたかった…と。
命を賭けることが惜しくはないと思える存在。
そこまで思える女はたった一人しかいない。
俺にとって美袋翔子という女はそれほど大きな存在だったからだ。
翔子は最期に何を思って死んでいったのだろうか?
…色々と考えてしまうが。
何を望んでいたとしても、
死ねばそこまでだと思う。
例えどれほどの想いを残したとしても、だ。
翔子が死んだ世界にどれほどの意味がある?
そして翔子が死んだ世界に俺は何を望めばいい?
どうしても思い悩んでしまう自分がいる。
御堂は何も告げなかったが、
俺もすでに気付いてるからだ。
いや…違うな。
知っていたというべきか。
俺はすでに知っていた。
翔子が天城総魔を見ていたことを。
俺はすでに知っている。
それは北条真哉と同じ理由でもあるが、
翔子をずっと見ていたからこそ気付いていた。
北条が気付いたように、
俺も気付いていたんだ。
だが俺は北条とは違って想いを断ち切ることが出来なかった。
誰よりも翔子を愛しているという自信があったからだ。
だからこの想いを捨てることが出来なかった。
…それなのに。
それほどまでに愛した翔子はもういない。
もう二度と俺の前に現れることはない。
…翔子。
例え進むべき道が別れていたとしても、
翔子に生きていてほしかった。
いずれ敵対したとしても、
翔子だけは失いたくなかった。
ただそれだけを心から願っていたのだが、
その願いさえももう叶わない。
…悔やみきれない想いはある。
それでも俺は自らの役目を果たすために、
悲しみに暮れる心を押し殺すしかなかった。
…結局、俺は何も守れないんだろうな。
…結局、あの時のように。
思い浮かぶのは過去の絶望だ。
あの日の想いを胸に抱えながら、
とある人物へと視線を向けてみる。
そこにいるのは俺の目的であり、
俺に課せられた使命でもあった。
「絶望が支配する世界なんて俺には必要ない。絶望を希望に変える力を…手に入れて見せる。」
囁いた俺の声に気付いたやつなんていなかったと思う。
だが、俺の視線を不審に感じるやつはいたようだ。
「……?」
俺の行動が理解出来ずに小さく首を傾げるのは里沙だ。
相変わらず無駄に勘だけは鋭い女だと思う。
ちょっとした視線の動きに一々敏感に反応してくるからな。
…まあ。
だからと言って何かあるというわけでもないからどうでもいいんだが。
俺の視線を追って眺める里沙の視線の先にいる人物。
そこにいるのは…米倉宗一郎だった。




