制御不能
「申し訳ありませんが栗原さんには馬車をお願いします。私は敵を迎撃しますので…」
…えっ!?
突然、手綱を差し出してきた学園長だけど。
馬車を動かしたことなんて一度もないのよ?
「むりむりむりむりっ!!私には無理ですっ!!」
やったことがないのに。
緊急時にいきなり馬車を預かるなんて、
無茶を通り越して無謀でしかないわよね!?
「手綱の握り方なんて分からないですっ!!」
必死に断ってみたの。
だけど学園長は笑顔を崩さなかったわ。
「以前。グランパレスからの帰りに指導したことがあったと思いますが?」
…いや、まあ、確かにね?
聞いたことはあるわよ。
特にすることもなくて暇だったから、
雑談のつもりで説明を受けたことはあるわ。
でもね?
それって指導じゃないわよね?
単なる説明よね?
それだけでいきなり実践なんて、
どう考えても無理があるわよね?
「…本気ですか?」
「もちろんです。」
学園長は半ば強制的に手綱を預けてきたのよ。
…と言うか。
あっさりと手綱を手放して荷台に移動してしまったの。
そのせいで暴走状態になる2頭の馬。
決して暴れたりはしないけれど。
速度の調整が狂い始めたことで、
徐々に加速してるように思えてしまう。
それなのに。
荷台に移動してしまった学園長は元には戻ろうとせずに積み込んでいた武器を取り出し始めたのよ。
「街道を進むだけです。ただそれだけのことですよ。」
…いや、だから、それが難しいんですけど?
「やってみれば何とかなるものです。」
…うわ~。
それってもう精神論とかそういう問題じゃなくて運頼みってことよね?
「せ、せめて、もう一度、説明を…っ!」
まずは何から気を付ければ良いかとか?
その説明を求めてみたんだけど。
「麻酔と毒薬。それと、煙玉…。」
箱から取り出した武器を確認する学園長は、
すでに私の話なんて聞いてなかったわ。
「まともな武器が用意出来ないのが残念ですが、そもそも弓や剣の扱い方など知りませんので、これが精一杯ですね。」
医療用の麻酔と鎮静剤を改良した毒薬。
それと煙を巻き起こすだけの煙玉。
それが学園長に用意出来た武器みたい。
「上手く風を操れれば、この程度の薬品でも十分に役立つと思うのですが…どう思いますか?」
何故か逆に尋ねられてしまったんだけど。
でもね?
今の私はそれどころじゃなかったのよ。
「ちょっ!?えっ…あぁ〜〜〜〜っ!」
初めて経験する作業なのよ?
手加減さえ分からずに、
適当に馬を操る私のでたらめな指示によってどんどん加速してしまう二頭の馬。
現在の速度は今まで一度も経験したことがないような最高速度に達してると思うわ。
「無~理~っ!?学園長!やっぱり私には無理ですっ!!」
暴走し始める馬車を制御しきれずに慌てふためく。
それでも必死な表情で馬車を走らせる私を見た学園長は小さく笑ってた。
「いえいえ、十分ですよ。おかげで追撃部隊は引き離されていますので…。」
十分だと言ってくれた学園長の視線の先。
暴走する馬車の後方では、
謎の部隊との距離が広がってるみたい。
「このまま振り切れれば良いんですが…」
戦闘にならないことを願う学園長だけど。
その思いは期待ハズレに終わるみたいね。
馬車に追いつくことが出来ないと判断したのか、
追撃部隊が魔術の詠唱を開始したからよ。




