教育者として
《サイド:上矢遥》
エスティア魔術学園。
ここは他の学園とは違って純粋な魔術を主とする学園だから、
ルーンや精霊のような特殊な魔術を学ぶことは出来ないわ。
でも、ね。
だからこそ出来ることがあるのよ。
それは他の能力に頼らない真の魔術の追及とも言えるわね。
この学園に蓄積された魔術の数は他の学園の十倍に及ぶわ。
どの学園でも千を超える魔術を学ぶことは出来るけれど。
万を超える魔術を学べるのはここだけなのよ。
もちろん全てが全て有用な魔術とは言えないけどね。
それでも扱える魔術の数としては他の学園を圧倒しているの。
古今東西。
ありとあらゆる種類の魔術が記録として残されていて、
正式な手順さえ踏めば全ての魔術を学ぶことができるわ。
ちゃんと許可さえ貰えれば…だけどね。
「行くわよ。」
無事に学園まで戻ってきた私達は、
真っ直ぐに校舎に向かって歩いている最中になる。
何気なく校舎の時計に視線を向けてみると。
時刻はすでに午後8時を過ぎているわね。
…とは言え。
それでも校舎が閉ざされているということはないわ。
基本的に1階部分は時間に関係なく自由に行動することが認められているからよ。
2階より上は各講義の教室が主になるから、
ほとんどの階段は通行止めになっているけれど。
一部の通路や階段だけは夜でも移動できるようになっているの。
学園の教師や各委員会の生徒達が移動できるように常に解放されているのよ。
その主要な通路を進んでいるんだけど。
私達の目的はただ一つ。
国境の救護テント内で学園に戻ると話し合っていた冬月彩花達と同様に。
私達も更なる力を求めて、
とある場所に向かうつもりでいたの。
学園1位の私と学園2位の笹倉美和子。
そして学園3位の新庄貴也と、
学園4位の秋元景子と、
学園5位の岡本渉。
5人揃って許可を得る為に校舎内を移動する。
目指しているのは『学園長室』になるわ。
捜しているのはエスティア魔術学園の日高芙美学園長よ。
共和国において最年長の108歳。
丸々一世紀を生き抜いた知識と魔術は共和国において右に出るものはいない…と言われるほどの実力者で、
初めて『大賢者』の称号を得た人物でもあるわ。
現在では各学園毎に一人ずつ選ばれているけどね。
本来なら『大賢者』という呼び名は日高学園長を示す言葉だったのよ。
だけど時の流れによって現役を引退した学園長は大賢者の名を捨てて次の世代の魔術師を育てるために教育者を目指したらしいの。
…それ以降。
共和国各地を転々としながら、
次々と優秀な魔術師を育て上げてきたそうよ。
現在の各町で学園長や理事長とか知事を務めている人達のほとんどが学園長の教え子という話だし。
かつては米倉元代表も日高学園長に師事したことがあるらしいわ。
そうした経緯を持ちながらも、
およそ20年前にエスティア魔術学園に赴任した学園長は、
現在に至るまで数千人もの魔術師の教育に努めてきたそうよ。
学園単位じゃなくて単独での教育者としては間違いなく最大の功績と言えるんじゃないかしら?
もちろん私達もその中に含まれているけどね。
ある意味で共和国の母とも言える学園長と話し合って、
学園内の『とある場所』への立ち入りの許可を得ること。
その為に私達は学園長室を目指しているのよ。




