友の槍
《サイド:フェイ・ウォルカ》
故郷を追われてたどり着いた共和国。
この国に対する思い入れはすでに母国以上かもしれない。
共和国がなければ俺もマリアも今を生きてはいなかっただろうからな。
この国があったからこそ、
人並みの自由を得ることが出来たのだ。
それを思えば共和国のありがたみは決して忘れることなどできはしない。
この国があるからこそ俺達は生きていられるのだ。
だからこそ。
この場に集まる全ての者達を仲間と思うこともできた。
互いに信頼してセルビナ軍と戦うことが出来ていたのだ。
その戦いが終わったこと自体は喜ぶべきことだと思う。
だがその戦いの中で犠牲になった者達がいることを忘れてはいけないとも思う。
セルビナとの戦闘による被害は少なかったが決して0ではなかった。
国境警備隊に所属する魔術師達の中で、
100名を越える犠牲者を出してしまっているからだ。
その中で知り合いと呼べる人物はいなかったが、
それでも共に戦った仲間であることに変わりはない。
だからこそ。
仲間の死を悔やむ気持ちがあるのだが、
今はそれ以上に辛い気持ちも抱えていた。
それは北条真哉に関してだ。
北条も戦場で散ったのだろうか?
魔術大会において幾度も腕を競い合い。
互いに『友』と呼べる仲となっていた男だ。
それなのに。
北条はアストリアとの戦いで亡くなってしまったらしい。
…何故、先に逝ったのだ?
悔しさを感じて涙を流してしまう。
まだはっきりと死を告げられたわけではないとは言え。
『生死不明の状況』が生存を意味するわけではないことくらいはすぐに分かる。
それに。
北条真哉が死んだ可能性を、
俺は他の誰よりも理解している。
…何故なら。
俺の手元には一本の槍があるからだ。
この手に握る『槍』こそが、
北条の死の証だと思っている。
「これはお前が残した『形見』というわけか…。」
風を纏う槍に視線を向けて小さな声で呟く。
俺の手に握られているのは『長身の槍』だ。
だがこれは俺のルーンではない。
これこそが友のルーンなのだ。
軽く3メートルは越えるであろう槍の先端の左右両方に、
切れ味の良さそうな刃が光を放って煌めいている。
先端の刃だけでも40センチほどはあるだろう。
薄く鋭い刃は直線の刃とは別に、
反り返るような幅広い刃が組み合わされている。
突き刺すことはもちろん切り裂くことも可能な槍だ。
そしてこの槍は『薄い緑色の光』を放っている。
ルーン名『ラングリッサー』
友の槍を眺めながらその名を呼んでみるがルーンは何も答えない。
…当然か。
ルーンに意志などないのだからな。
だがそれでも俺は力強く槍を握り締めた。
そしてまっすぐに向き合う。
北条の聖槍ラングリッサー。
北条は俺を守る為に、
この槍を遺したのだろうか?
亡き友に問い掛けてみるがルーンは何も答えない。
だがそれでも俺は問い続けた。
突如として大地から飛び出した北条のルーン。
この槍にどれだけの想いを込めて俺へと届けたのかは知らないが、
俺は北条を忘れはしない。
お前は俺と共に在る。
…そうだろう?
…北条真哉。
風を纏う槍。
聖槍ラングリッサー。
本来なら他人のルーンは使えないと言われているにも関わらず、
俺はラングリッサーを自在に扱えた。
その理由は不明だが、
その理由こそが北条真哉の想いだと信じている。
例え戦争が終わったとしても、俺はお前と共に在る。
その想いを込めてラングリッサーを握り締める。
そして友に誓いを立てた。
「お前が守り抜いた共和国を、今度は俺が守り抜こう。」
北条真哉の意志を受け継いで新たな一歩を踏み出す。
今は亡き…友の遺したルーンと共に。




