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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
114/185

出来る人間の言葉

右手で杖を持って、左手を天にかざす。


まるで祈るような仕種だ。


気品と美しさを兼ね備えた沙織の姿は神聖な巫女のようにさえ思える。



「大賢者の名の下に…」



ついに沙織の攻撃が始まる。



「全ての力を今ここに!!」



魔術の詠唱を終えた沙織が惜しみなく魔力を開放した。



…っ!



杖から放たれる魔術の嵐。


空を流れる流星のように振り注ぐ様は最上級魔術の流星群とでも言うべきだろうか。


数十種の魔術が次々と生み出され、

連続展開した魔術が次々と解き放たれる。



…魔術展開が速すぎる!



魔術の高速展開には少なからず自信を持っていたのだが、

沙織の技術は俺を大きく上回っていた。



…ちっ!



魔剣で防御を試みるが、

すべての攻撃には対処しきれない。


致命傷を避けるのが精一杯で、

ジワジワと追い詰められている。



「全ての『属性』をもって、あなたの力を見定めます!」



掲げた左手と構える杖の先端から流星群のように放たれる数々の魔術。


そのどれもが驚異的な破壊力を持っているのは間違いない。



並の魔術師なら即座に崩れ落ちるであろう威力を感じさせる凄まじい乱撃だ。



翔子の光の矢と同様か、あるいはそれ以上。


一つでも攻撃を受ければ致命傷は避けられないだろう。



…だが。



放たれる攻撃がどれほど強力であろうとも、

それが魔術である限り対処は可能だ。


どんな魔術が襲って来ても魔剣で斬り裂けばいい。



今はまだ霧すら必要ないだろう。



破壊力は翔子よりも上。


魔術の精度も申し分ない。



ありとあらゆる点において翔子よりも格上だと認めよう。



だが、一点だけ翔子に劣る部分がある。


それは『速度』だ。



速射能力においては翔子が大きく上回っている。


だからこそ翔子の攻撃は回避できなかった。



魔剣による迎撃が追いつかなかったからな。


だが沙織の魔術は違う。



どれほどの高威力であっても、

当たらない攻撃に意味はない。


この程度の攻撃速度であれば十分に対応できる。



だから現時点ではまだ霧を生み出す必要がない。



…とはいえ。



次から次へと魔術を発動させて、

あらゆる属性を使いこなす才能は賞賛に値する。



魔術師としての格は間違いなく最上位だ。


これまで対戦した相手の中で最も手ごわい相手といえるだろう。


大賢者と呼ばれる沙織の実力は決して伊達だてではない。



「恐ろしいほどの構成力だな。」



全ての魔術に無駄がない。


ありとあらゆる魔術が次の攻撃へと繋がっている。


ただの連撃ではない。


力任せの乱撃でもない。


全ての攻撃が俺の行動を抑制し、

俺の自由を奪うように責め立ててくる。



…これが大賢者の才覚か。



単独で発動しているにも関わらず、

複数の連携を感じさせる技量はまさしく賢者の才能というべきかもしれない。


秒単位で魔術を発動し続ける沙織の実力は間違いなく翔子以上と認めるべきだろう。



「魔術の技術に関してはそれなりに自信を持っていたのだが、この状況ではあまり偉そうなことは言えないな。」



魔術の技量においては沙織に負けるだろう。


その事実を素直に認めたのだが、

沙織は異なる感想を抱いたらしい。



「羨ましいほどの反射神経ですね。今まで沢山の人達と戦ってきましたが、ここまで魔術が通じないのは初めてかもしれません。」



そうだろうか?



「慣れればそうでもないだろう?」


「いえ…私には無理そうです。」


「できないと思えばできない。ただそれだけだ。」


「…それは出来る人間の言葉ですよ?」


「その言葉を、お前は誰にも言われたことがないのか?」


「………。」



大賢者という称号を得た沙織も十分すぎるほど平凡を逸脱しているはずだ。


俺の反応速度を羨ましく思うのは勝手だが、

沙織の才能を羨ましく思う者達も数多くいるだろう。



「俺からすればこれほど多彩な魔術が使いこなせることのほうが羨ましいと思うがな」


「そうでしょうか?当たらない攻撃に意味はありません」


「そこを工夫するのが戦いというものだ」


「それこそ強者の発言ではないですか?」


「余裕を見せているのはお互い様だろう?」



羨ましいと言いながらも次々と大魔術を発動する沙織の攻撃に一切の手加減は感じられない。


試合前に宣言していた通り。


全力で魔術を展開しているのだろう。


それでも魔力が減少しているように思わせない沙織こそ、

余裕を見せているように思えてしまう。



「話しかけて油断させる作戦か?」


「…いえ。ただ純粋に悔しいと思うだけです。」



圧倒的な威力を込めた魔術を惜し気もなく連発する沙織だが、

それでも直撃されられないことを悔しく感じているらしい。



「ここまで悔しいと思えたのは初めてかもしれません。」



試合開始からすでに2分は経過しているだろう。


その間に放たれた魔術は有に100を超えると思われる。


それでも何一つとして当たらないとすれば悔しがるのは当然かも知れないな。



「こんなにも歯がゆい思いは初めてです。」



沙織の体に秘められた魔力は翔子を大きく上回るだろう。


正確な差はまだ分からないが、

北条と比べても沙織のほうが上に思える。


魔力の内包量だけを見るなら、

これまで見てきた誰よりも上だ。


それほどの魔力を持つ沙織だが、

どれほどの魔力を持っていたとしても魔術の能力は変わらない。



誰が使ったとしても、

等しく同じ効果を生み出すのが魔術だからな。


使い手によって魔術の効果が変わることはない。


だからこそ今までありとあらゆる魔術を切り裂いてきた魔剣には、

いかなる魔術も通じないと言える。



どんなに強力な魔術を使ったとしても、

魔剣を破壊することは出来ない。



「やっぱり、魔術戦では不利ですね…。」



沙織が徐々に焦りを見せていく。


今はまだ魔力に余裕はあっても、

それはあくまでも今の話だ。


無駄に魔術を放ち続ければ、

いずれ必ず魔力が底をついてしまうことになる。


その瞬間が訪れた時、

沙織の敗北は決定するだろう。



それに問題はそれだけではない。


沙織は魔術を使うほど魔力を減少させるが、

俺は吸収した魔術で魔力を増すことができる。



この差は大きい。


長期戦は圧倒的に沙織が不利だ。



だからこそ状況を好転させなければならないと考えるはずだが、

なかなか決定的な一手が打てないでいる様子だった。



「正面突破が無理ならこの魔術で!ヴァジュラ!!」



一瞬の閃光。


沙織の杖が輝きを増した直後に杖の先端に生まれた光の塊が炎のようにうねりながら直進し始める。


そして魔剣の射程圏内に入った瞬間に、

広範囲に拡散しながら俺の体を包み込んだ。



「これならどうですか!?」



おそらく沙織にとっての切り札だったのだろう。


この魔術なら通じると考えていたのかもしれない。


今までの流れを変えて、

変則的な動きによってかく乱攻撃に出た沙織の魔術は、

魔剣の迎撃をすり抜けて確かな一撃を与えてきた。



…ちっ!



油断していたつもりはない。


だが、俺の予想を超えた魔術の動きに反応しきれずに沙織の魔術を受けてしまった。



今の攻撃は翔子が初手に放ったチェックメイトと同質の攻撃だったように思える。



拡散ではなく変則。


速度は劣るが能力は同等だろう。


いや、動きを読ませない不規則な軌道は翔子以上に厄介だったかもしれない。



「なるほどな。それがお前の力か」



沙織の能力を甘く見ていたらしい。


防御特化だと思っていたが、

それは間違いだったようだ。


沙織の力は『無効化』だけではなかったことを証明して見せた。



「もっと早く気づくべきだったな」



すでに情報は揃っていたにもかかわらず、

それでも答えにたどり着けていなかった。


これまでの言動によって沙織の能力が防御特化だと思い込んでいたからだ。


だが、実際にはそうではなかった。



「ようやく気付いたようですね。」


「ああ、やっと理解できた。」



あらゆる魔術を『相殺する力』とは、

逆転させればあらゆる魔術を『発動できる力』ということだ。



相手の魔術を相殺しながら相手の弱点を突く。


的確に攻守を切り替えながら対戦相手を翻弄する。


それが沙織の戦い方なのだろう。



「つまり、それが大賢者の力か」


「ええ、そうです。ありとあらゆる魔術を使える者。それが大賢者の絶対条件です」



防御の才能があるだけでは足りない。


攻撃の才能があっても足りない。


両方の才能があってようやく得られる称号。


それが大賢者なのだろう。



俺が能力の意味に気づく前に先制攻撃を狙った沙織の一撃は確かに有効な一手だった。



幸い致命傷には至らなかったものの。


あと数秒、対応が遅れていたら敗北していたかもしれない。



今回は耐えしのげたが次もうまくいく保証はどこにもないからな。


今の一撃によって沙織が無効化だけに頼らずに攻撃力も兼ね備えている事が証明された。



「なるほどな」



これなら3位も頷ける。


翔子が勝てないのも当然だ。


万能型には安定した強さがあるからな。


攻撃特化の翔子では相性が悪すぎるだろう。



揺らめきながら消え去る光の炎。


その内部に俺はいるわけだが。



火傷を負いながらも炎の影響から耐えしのいだことで、

軽傷ですんだ俺を見ていた沙織は唇を噛み締めている様子だった。



「これでも、倒せないのですね…。」



今まで何人もの生徒達を戦闘不能にしてきたであろう魔術が通じなかったことを悔しく思っているようだ。



…いや、その程度ではないか。



おそらく魔力を吸収された可能性が高いことを理解しているのだろう。


最悪の可能性に気づいている沙織は焦りをあらわにしている。



…これで打つ手なし、か?



実際にどうかは分からないが、

実力を出し切った可能性がある。



「そろそろ限界か?」


「う…っ。」



図星だったようだな。


明らかな動揺。


嘘をつくのは得意ではないらしい。



切り札さえ通じなかったことで攻撃手段が限られてきたのだろう。


先程まで見せていた余裕が今では完全に消え去っている。



「お前の実力は認めるが、戦いの相性が良くないようだな。」



現時点での俺の能力は防御特化だ。


魔剣は攻防一体ではあるが、

どちらかと言えば防御能力を重視している。



根本的に魔力の吸収を主軸としているからな。



だからこそ。


あらゆる魔術に対して防御性能が高いということになる。



特に沙織の場合。


俺との相性は最悪と言えるだろう。



沙織の攻撃は強力だが単発系が多い。


翔子のように連射するような攻撃は得意ではないように思える。



広範囲、高出力、高威力。


どれも素晴らしい才能だが、

魔剣の前では本来の能力を発揮できていない。



吸収の能力に対抗できていないからだ。


その事実が互いの差として表れてしまっている。



おそらくこのまま試合を続けても俺の運動能力を上回る連続攻撃で攻撃を続けた翔子のような戦い方は沙織には出来ないはずだ。



俺の隙を突いて背後や側面から攻撃を当てるという作戦が沙織には出来そうにない。


運動能力において、

沙織は人並みの実力しかないようだからな。



そうなるとかく乱や奇襲はできない。


もっと別の方法で攻撃する方法を考える必要があるのだが、

その方法を探るために沙織は頭を悩ませている様子だった。



「どうした?諦めるか?」



ゆっくりと接近しながら問いかけてみると、

沙織は逃げるように距離をとろうとする。



「いえ!戦うと決めた以上、最後まで諦めたりしません!」



悩んでいる暇はないと気づいたのだろう。


とにかく攻撃を続けようとして魔術を展開している。


そうしてなんとか逆転の方法を探し出そうと模索しているようだ。



「攻撃が通じないわけではないのです。だから諦めるのはまだ早いわ!」



必死に頭の中で作戦を練りながら、

体は次の攻撃に向けて動き続ける。



思考と行動。


二つの意識を並行させながら、

さらなる魔術を発動させている。



「グロウヴィル!!」



沙織の杖から影が伸びて一気に襲い掛かってきた。


足元から迫り来る影の動きを目で追いながら、

ソウルイーターを構えて斬り裂こうとしてみる。


だがその前に沙織がさらなる魔術を発動した。



「リフレクション!!」



杖の先端で輝く五紡星が輝いて小さな光を放った瞬間に突如として金属音が鳴り響く。



…何だ?



何かにぶつかったような音だった。


現に魔剣の刃が弾かれてしまっている。


魔剣の動きが止まると同時に、

苦痛が全身を駆け巡る。



「ぐぅっ!?」



それはほんの一瞬の出来事だった。


杖から放たれた光が魔剣をほんの一瞬だけだが受け止めていたのだ。



もちろん沙織が放った光は魔剣に喰い破られたが、

最初から一瞬だけでも魔剣を抑えることが目的だったのだろう。



魔術の効果はただそれだけの事だったのだが、

一瞬だけでも動きを止められてしまったことで動く影が容赦なく襲い掛かってきた。



影に足を取られ。


体内を侵食されていく痛み。


全身に感じる苦痛によって、

ようやく沙織の力の危険性にも気付いた。



…間違いない。



魔剣だけでは戦えない相手だ。


全力を尽くす必要のある相手だと認める必要があるだろう。



…そうでなくてはな。



戦う意味がない。


沙織も俺に攻撃を与えるだけの力を備えていることが確認できた。


その事実を認めたことで、

持てる全ての力を解放することにする。



「…ここからが本番だ。」



『ホワイト・アウト』と『エンジェル・ウイング』を展開する。


二つの魔術を発動したことで霧と翼の影響を受けた影が消え去り、

体内でうごめく苦痛も消え去った。


そして影に込められていた魔力も吸収したことで、

再び魔剣を沙織に向ける余裕が生まれた。



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