初めての笑顔
《サイド:文塚乃絵瑠》
…ん?
…あれ?
…今、何か聞こえたような?
何となくだけどね。
周りが騒がしくなってきたような気がして目が覚めたのよ。
静かに起き上がって大きく背伸びをしてみると、
隣にいた彩花が話しかけてくれたわ。
「おはよう、乃絵瑠。」
「ん~、おはよ~。」
いつもと変わらない微笑みを見せる彩花の雰囲気はいつも通りね。
何て言うのかな?
『優しさ』よりも『妖しさ』が漂ってる感じ?
良い意味で言えば余裕が感じられる笑みだし。
悪い意味で言えば何を考えてるのか分からない感じなのよ。
まあ、害はないからどっちでも良いんだけどね。
「今って何時くらい?」
「3時を過ぎたところよ。」
「あ~、もうそんな時間なんだ?」
彩花の笑顔を眺めながら私も笑顔を返しておく。
それから思い浮かぶ限りの質問をしてみることにしたの。
「…で、改めておはよう、彩花。もう起きてたの?調子はどう?動いて平気なの?」
立て続けに質問してみたんだけど。
「平気よ」
彩花は一言で答えてくれたのよ。
「そっか、良かった…。」
愛想がないのはいつものことだしね。
微笑んでくれるだけましだと思う。
とりあえず。
ほっと息を吐いてから何気なく周囲を見回してみたわ。
『冬月彩花』
『矢島奈々香』
『宮野あずさ』
『雨音未来』
カリーナのみんなは全員無事みたい。
私が最後だったのかな?
みんなすでに目覚めていたのよ。
だけどさっき学園長と話をした時とは違って、
救護用のテントに運び込まれていた生徒達の多くがすでに目覚めて行動しているようね。
隣の列に並んでいたはずのグランバニアの生徒は一人も残ってないし。
エスティアの生徒も同様で、
すでに全員が目覚めてテントを出てるみたい。
今のところテントに残ってるのは私達カリーナの生徒と、
大塚義明が所属するヴァルセムの生徒だけ。
今だに目覚めない大塚義明が心配なのかな?
『鳴瀬智久』
『宮野晃』
『金田敦子』
『八木真奈美』
4人の生徒は大塚義明の傍に集まっていたのよ。
その様子を眺めていたら、
私の視線に気付いた未来が状況を教えてくれたわ。
「大塚義明だけは魔力の使いすぎによる昏倒で当分の間は目覚めないらしいわ。」
…ああ、やっぱりそうなんだ。
クイーンとの戦いで一番無理をしてくれていたから何となくそんな気はしてたけど。
実際に目覚めない姿を見てしまうと何だか申し訳ない気持ちになってくるわね。
「他のみんなは大丈夫なの?」
「…らしいわよ。私が起きた時にはすでにエスティアの生徒はいなかったけれど。グランバニアの生徒はついさっき出て行ったところだから、たぶん大丈夫なんじゃない?」
…ふ~ん、そうなんだ?
私が寝ていた間の出来事を説明してくれた未来に振り返って向き合ってみる。
いつもと変わらない表情で、
いつもと変わらない雰囲気。
一度死にかけたはずなのに。
未来の態度はいつもと何も変わらないわね。
ついでに他の仲間を見てみると。
彩花は相変わらず隣で妖しく微笑んだままだから、
何を考えているのかさっぱり分からないわ。
そしていつの間に移動したのか、
彩花に寄り添ってべったりとくっつくあずさの行動もいつも通りよ。
「お姉様ぁ♪」
甘えた声で彩花に懐く姿は普段通りで幸せそうな表情に見えるわ。
まあ、それはそれで自由にしてもらえばいいんだけど。
最後に奈々香に視線を向けてみると。
「………。」
無表情で沈黙していたのよ。
何を考えているのか分からないという意味では断トツ1位なんだけど。
私の視線に気付いたのかな?
奈々香と視線が合わさった一瞬だけ。
本当に一瞬だけだったけど。
微笑んでくれたように見えたのよ。
…なっ、奈々香が微笑んだ!?
滅多に…と、言うか?
初めて奈々香の笑顔を見た気がするわ。
…そういう表情も出来るんだ?
なんてね。
ちょっぴり失礼なことを考えていたら奈々香が一言だけ話してくれたのよ。
「無事で何よりです。」
…あ~、うん。
…まあね。
言ってることは間違ってないんだけど。
すぐに沈黙しちゃうから話が続かないのよね~。
…うぅ~ん?
でもまあ、普段は何を考えているのか一切不明だけど。
私の心配をしてくれていたことだけは実感出来たわ。
…と言うことは?
もしかして?
…意外と会話が可能なの?
必要最低限の会話しかしないと思っていたけれど。
実はそうじゃないのかも?
ちょっぴり気になったことで奈々香に話しかけてみようかな~なんて考えていると。
今度は彩花が話しかけてきたわ。
「動けるなら外に出るわよ。いつまでもテントの中だと息苦しいでしょう?」
…え?
…ああ、うん。
それもそうね。
彩花が立ち上がったことで寄り添っていたあずさも慌てて立ち上がってる。
そして急いで彩花の腕を掴もうとしていたけれど。
その前に彩花が私に手を差し延べてくれたのよ。
「立てるかしら?」
「…あ、うん。」
いつもと変わらない表情で怪しく微笑み続ける彩花の手をとって立ち上がる。
「ありがとう、彩花。」
性格的についつい自然とお礼を言ってしまうんだけど。
よくよく考えたら、
こんなにのんびりと話してる場合じゃないわよね?
「…って、言うかっ!?」
この時点でようやく私は『ある事実』を思い出したのよ。




