共和国の敵
《サイド:文塚乃絵瑠》
…ん~。
どうやらクイーンの特性には、
支配という能力が含まれているみたいね。
具体的なことは分からないけれど。
その可能性はどう考えても否定できないのよ。
だってそうでしょ?
ウィッチクイーンは私達の放った魔術を支配していたんだから。
その事実はゆるぎない真実なの。
私達の放った複合魔術。
『奈落の断罪』をあっさりと反射してみせたわ。
…それはまるでね。
あたかも自分自身の力であるかのように。
私達の魔術を反転させたのよ。
そのせいで多くの仲間が倒れてしまったの。
ヴァルセム精霊学園の生徒とエスティア魔術学園の生徒は奈落の断罪を受けて倒れたのよ。
その事実は今でも覚えてる。
でもね?
それよりも何よりも、
今はもっと気になることがあるわ。
「特性に関してはともかく、私達『全員』で襲い掛かっても傷一つ付けられませんでした。」
実力に差がありすぎるのよ。
だからね。
ウィッチクイーンとの戦闘を思い出しながら話を続けることにしたの。
「魔術に関しても圧倒的な実力でしたけど、彼女の使う精霊にも…手も足も出ませんでした。」
ウィッチクイーンが操る精霊。
それはブラックドラゴン。
大塚義明のレッドドラゴンでさえも霞んで見えるほど強力な精霊だったのよ。
【特性】【魔術】【精霊】
どれをとって見ても私達には手が届かない圧倒的格上の存在だったの。
…彼女は一体何者なの?
頭を悩ませてしまう私に、
黙って話を聞いていた学園長が尋ねてきたわ。
「ウィッチクイーンの精霊を見たのね?」
「あ、はい。巨大なブラックドラゴンでした。」
「…うわぁ。」
私の報告を聞いた瞬間に、
学園長は言葉を失っていたのよ。
「…どうやら本当にウィッチクイーンと遭遇したようね。」
20代前半の『女性』
圧倒的な実力を持つ『魔術師』
そして『ブラックドラゴン』
それらの情報から導き出される結論として、
『ウィッチクイーン』としか考えられないみたい。
「共和国に忍び込んでいたなんてね。一体、何が目的なのかしら?」
首を傾げてしまう学園長だけど。
私の疑問はまだ何も解決していないわ。
「そもそもウィッチクイーンは何者なのですか?」
「う~ん…。」
もう一度尋ねてみたことで、
学園長は知ってる範囲の情報を教えてくれたのよ。
「詳しいことは不明だけど。共和国の外で暗躍する組織の一人らしいわ。」
「組織ですか?」
「ええ、そうよ。詳しく説明すると長くなるから省略するけれど。和平を目指す共和国と意見を対立させる魔術師の組織が国外には存在するの。武力によって魔術師の自由を勝ち取ろうとする組織。通称『竜の牙』と呼ばれる戦闘集団なんだけど。彼女はその組織に所属する一人なのよ。」
…竜の牙?
…戦闘集団?
「それはつまり、敵ですか?味方ですか?」
「難しい質問だけど敵のはずよ。少くなくとも共和国にとってはね。」
共和国の敵?
だとしたら余計に分からない部分があるわ。
「クイーンは争うつもりはないと言っていました。それに私達が攻撃を仕掛けても反撃をためらっていたように思います。」
思い返してみればね。
クイーンは何度も戦闘を避けようとしていたのよ。
だけど彼女の意見を聞かずに戦闘を始めたせいで、
仕方なく応戦していた感じなの。
その様子を今でも覚えてる。
「本当に敵対してるんですか?」
「ウィッチクイーンに関しての詳しい話は知らないけれど。竜の牙という組織と共和国は何度も戦闘になっているわ。個人の意思は別としても、組織として対立してることに間違いはないはずよ。」
…なるほど。
共和国と竜の牙は対立関係なのね。
だとしたら。
なおさら納得出来ない部分があるわよね?
組織として対立しているのなら、
私達を見逃す必要なんてないはずよ。
少なくとも私達を全滅させて口を封じたほうが都合が良いに決まってる。
…それなのに。
私達は生き残ったわ。
それも死者は一人もいないうえでの全員帰還。
なおかつ無傷の状態で?
「私達の治療をしたのが学園長達でないとするとウィッチクイーンとしか思えないんですけど…?」
「う~ん。問題はそこなのよね~?どうして全員の治療を行ってまで乃絵瑠達を見逃したのかしら?それが分からないのよ。」
学園長にも分からないみたい。
だけど本来なら潜入の事実を隠す為に発見者を始末するはずよね?
なのに。
そうはならなかったわ。
戦闘を避けるような行動をとっていたし、
私達の治療までしてるっぽいのよ?
これはどう考えても敵対する組織がとるべき行動じゃないわ。
自分達の存在を知られる危険を侵してまで見逃す必要なんてないはず。
…そんな行動に意味はないわよね?
そう思うからこそ疑問だけが残ってしまうの。
そして最後に残るもう一つの疑問。
それはウィッチクイーンが最後に告げた言葉よ。
『…今は眠りなさい。そして次に目覚めた時から高みを目指しなさい。自分の限界を乗り超えて強くなるの。それが出来なければ…私達のいる舞台には立てないわ。』
何かを伝えてから戦いを終了させたのよ。
クイーンの言葉を思い出したことで、
話のついでに学園長に相談してみることにしたわ。
「彼女は『強くなりなさい』と言いました。『強くならなければ私達の舞台には立てない』と。それはどういう意味でしょうか?」
「…さあ?今は分からないとしか言いようがないわね。さっきも言ったけど、私だって噂程度でしか知らないのよ。ウィッチクイーンが何を考えているのかなんて分かるはずもないわ。」
…ですよね。
幾つもの疑問を残したウィッチクイーンの言葉の意味は学園長にも分からないみたい。
「とりあえず聞きたいことは聞けたから、今はもう少し休みなさい。その間に出来る範囲内で調査を進めておくわ。」
「…お願いします。」
「ええ。」
話し合いを終えたことで学園長は立ち上がったわ。
「あとのことは任せておきなさい。」
テントを出て行く学園長。
取り残された私は再び横になってから天井を見上げてみる。
考えたいことが沢山あるからよ。
やらなければいけないことも沢山あると思う。
だけどね。
…それでも今は。
今だけはゆっくりと体を休めたいって思ったの。
「おやすみ…みんな。」
もう少しだけ、眠ることにしたのよ。




