謝るのは
《サイド:美袋翔子》
…はあ。
どうして、こうなったのかな?
自分でもよくわからなかったのよ。
沙織が総魔に話しかけるとも思ってなかったし。
私の状況を説明するとも思ってなかったのよ。
だから、どうして良いか分からなかったの。
だけど。
だけどね。
沙織の言葉を聞いた総魔が、
そっと目を伏せた気がしたわ。
…そして。
初めて、私に頭を下げたのよ。
「…すまない。迷惑をかけたようだな。」
…えっ?
私に謝罪してくれたの?
総魔は何も悪いことなんてしてないのに?
本当なら総魔が謝ってもらう立場なのに?
それなのに。
私に謝ってくれたのよ。
「ち、ちが…っ。」
総魔の言葉を聞いた瞬間に。
私の瞳から涙が零れ落ちてた。
「違うの…っ!!」
謝って欲しかったわけじゃない。
そんな言葉が聞きたかったわけじゃないの。
…だって、そうでしょ?
総魔は謝ることなんて何もしてないんだから!
総魔は何も悪くないわ!!
迷惑だなんて思ってないし!
思いたくもないっ!!
…全部。
全部、私が勝手にした事だから…っ!
だから謝ってもらうようなことなんて何もないのっ!!
…悪いのは、私なんだから。
私の都合で総魔を追跡して。
私の都合で総魔を観察して。
私の都合で総魔の情報を流して。
私の都合で総魔の邪魔を続けて。
私の都合で、総魔を困らせていたのよ!!
だから悪いのは全部私で!
総魔は何も悪くないのにっ!
むしろ。
私のわがままに付き合ってくれただけで…。
総魔が謝るようなことなんて何一つなかったのに…。
それなのに。
…どうして総魔が謝らなきゃいけないの?
「総魔は…何も悪くないよ…?」
次々と溢れ出す罪悪感が止まらない。
決別の道を選んでもまだ消える事のない過去が私の心を苦しめるから。
我慢しようと思っても、
涙が止まらなかったのよ。
…私。
何をしてるのかな?
総魔を困らせ続けた挙げ句の果てに、
総魔に謝らせてしまったのよ。
正々堂々と戦って敗北して。
意地を張って死にかけて。
命さえ救ってもらう結果になったのに。
…それなのに。
私にとって命の恩人であるはずの総魔が謝罪しているの。
そのことが、とても…。
とても辛かった…。
総魔の謝罪を聞いただけで。
ただそれだけのことで。
胸がすごく、苦しくなってしまったのよ。
「…違うよ?総魔…。悪いのは、私なの…。謝るのは、私なのよ…?」
謝るのは私だから。
総魔は何も悪くないから。
謝る必要なんて何もないの。
…それなのに。
心では思えるのに。
上手く言葉には出来なかったの。
「だから、ね…っ。ち、がうの…っ!」
込み上げてくる悔しさと悲しさ。
何も出来ない自分に怒りさえ感じてしまうけれど。
伝えたい想いがどうしても、
上手く言葉にできないの。
「…私…が…」
何かを言おうとしてみるけれど。
何を言えばいいのかがわからない。
想いが、言葉に出来ないの。
そんな私に…。
「翔子。」
総魔は微笑んでくれたのよ。
「…気にするな。」
たったそれだけの言葉。
それなのに。
その一言だけで私の心は満たされてしまった気がしたわ。
これまでのことを。
これまでの全てを。
ちゃんと許してもらえたような。
そんな気がしたの。
「ご、めん…なさい…っ!」
総魔は私を許してくれてる。
その想いがちゃんと理解できたから。
そのことが何よりも嬉しかったの。
総魔は怒っていないし。
私を責めるつもりがないってわかったから。
だから。
たった一言の言葉を聞けただけで、
とても幸せな気持ちになれた気がしたの。




