15年前の策略
もうすでに15年くらい昔の話になるんだけど。
竜の牙は天城総司を殺害するために、
『漁村フルーム』に魔術師がいるという噂を流したわ。
それは全くのデタラメで、
実際には魔術師なんていなかったんだけどね。
竜の牙はわざと偽の情報を広めたのよ。
フルームに魔術師の隠れ家がある…ってね。
その姑息な策略によって事件は起きてしまったの。
竜の牙の目論見通りに『彼等』が動いたのよ。
その頃からすでに魔術師狩りを行っていたアストリア軍が動いたの。
当時の国王だった真田照栄や陰陽師の頭首、阿久津信成は、
竜の牙が流した噂を聞き付けて漁村フルームを襲ったわ。
存在しない魔術師を狩る為に。
強引にフルームを焼き払ったのよ。
その結果として。
竜の牙の目論見通りに天城総司は朽ち果てたわ。
…まあ、その戦闘に関しては色々と不審な点が多いんだけどね。
それでもアストリア軍を怯えさせるほどの実力を見せつけた天城総司は間違いなく戦死したのよ。
もちろん天城総司が実は生きている…なんていう事態は絶対にないわ。
遺体は竜の牙が回収したし。
廃墟と化したフルームを徹底的に調査していたしね。
天城総司が死亡してアストリア軍が立ち去ったあとで、
竜の牙は『秘宝』を求めてフルームの探索を開始したそうよ。
だけど『秘宝』は見付からなかったみたい。
天城総司が所持していたはずの秘宝はどこにもなかったのよ。
もちろんアストリア軍が回収してないことは偵察部隊の情報から明らかだし。
そもそも『秘宝』の存在さえも知らなかったはずなの。
だからこそ。
『秘宝』は何者かの手に渡っている可能性が考慮されたの。
その時に候補として考えられたのが『米倉宗一郎』だったわ。
天城総司の助けによって、
米倉宗一郎だけはフルームからの撤退に成功したからよ。
だけど当時の米倉宗一郎はまだ一般的な魔術師でしかなくて、
共和国代表の座にもついていない無名の存在だったの。
そのせいで正体不明の魔術師として、
何年もの間捜索が行われていたのよ。
そうしてフルーム滅亡から数年後。
ついに竜の牙が米倉宗一郎にたどり着こうとしたその矢先に、
米倉宗一郎は先手をうって共和国の代表へと上り詰めたの。
港町ジェノスの知事としてすでに才覚を表し始めていた米倉宗一郎は、
竜の牙の手から逃れる為に代表として名乗りをあげて共和国を手中に収めたのよ。
その結果として共和国内部での活動が難しくなった竜の牙は撤退を余儀なくされたわ。
そしてそれ以降。
ざっと10年以上もの間。
竜の牙と米倉宗一郎は互いに牽制を続けて沈黙を続けてきたのよ。
だけど。
米倉宗一郎は突然の病によって体を壊してしまったことで、
代表の地位を下りざるをえなくなってしまったわ。
その隙を狙う竜の牙が再び動き出してしまったわけだけど。
何も知らない米倉美由紀は、
竜の牙に対して特に対策をとらずに放置してしまったのよ。
そこはまあ、事情を知らないから仕方がないとも思うけれど。
米倉宗一郎が秘宝の存在を口にせずに沈黙を続けていたから防衛も牽制も出来なかったのよ。
そもそも何も知らない後継者に上手く立ち回れなんて言えるわけもないし。
引退した身で指示を出せるものでもないでしょうしね。
そうこうしている間に始まってしまったアストリア王国との戦争。
その間に竜の牙は本格的に動き出してしまったわ。
秘宝を手に入れる為に。
米倉宗一郎から奪い取る為に。
共和国へと攻め込んできたの。
マールグリナが襲われたのは秘宝を得る為の下準備になるわ。
その最初の一手は私達によって失敗したわけだけど。
おそらく竜の牙は共和国の全ての町に戦力を送り込んでいるはずよ。
共和国の戦力を分散させて翻弄するために。
共和国全土に影響力を広げているはずなの。
そんな竜の牙の動き対して、
米倉宗一郎がどう対応するのか?
その辺りの駆け引きによって、
共和国の運命は変動してしまうでしょうね。




