娘の友達に
…あう~。
「どうしよう?お母さん。私、お友達じゃないよ?」
困り果ててしまって、
お母さんに助けを求めてみると。
「ふふっ。大丈夫よ。」
お母さんは笑顔で答えてくれました。
「成美は知らなくても、沙織はお友達みたいだから心配はいらないわ。ちゃんと本当のことを言えば分かってもらえるはずよ。」
…そうでしょうか?
不安になってしまうのですが、
お母さんがそういうのなら大丈夫なのかもしれません。
それにお母さんも深海優奈さんの名前は覚えているようです。
学園での詳しい話は知らないみたいですけど。
それでも毎晩の食卓での会話の中で、
お姉ちゃんと翔子さんが話していたことは覚えているみたいです。
「素直にお姉ちゃんの友達です、って言えば良いのよ。」
…あ~、そっか!
そうだよね。
「うん♪そうする~♪」
どうすればいいのかが分かって笑顔を取り戻せました。
一安心出来たからです。
「ちゃんと言うね。」
「ええ。」
これからどうするかをお母さんと話していると。
「お待たせしました。」
お茶の準備を整えた様子の深海さんのお母さんが近づいてきました。
「大した物じゃありませんけど、よろしければどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
用意していただいたお茶を受け取ってから、
優しく微笑んでくれる深海さんのお母さんに正直に話すことにしました。
「でも、あの…。私、優奈さんのお友達じゃなくて…。私のお姉ちゃんがお友達なんです。」
「あら、そうなんですか?」
「は、はい。」
正直にお姉ちゃんのお友達だと伝えました。
…なのに。
それでも深海さんのお母さんは私に微笑んでくれたんです。
「でも、娘のことを知ってるんですよね?」
それはもちろんです。
「はい。お話はお姉ちゃんから何度も聞いていましたので…」
全くの他人とは思っていません。
お姉ちゃんのお友達なら、
絶対に良い人だと思うからです。
「とても優しい人だって聞いてます。」
そんなふうに言ってみると。
「…だったらそれで良いんです。」
深海さんのお母さんは笑顔のままで、
今度はお茶菓子を差し出してくれました。
「娘のことを知っていて、それでも『お友達』と呼んで頂けるのなら、それだけで良いんです。」
何故か深海さんのお母さんに見つめられてしまいました。
もしかしたら深海さんのお母さんは知っているのでしょうか?
深海さんにお友達がいないことを…です。
以前、お姉ちゃんが言っていました。
深海さんは特別な能力を持っているせいで、
学園の外では誰一人として理解してくれる人がいなかったそうです。
学園に入ってからはお友達ができて、
お姉ちゃん達とも仲良くなったそうなのですが。
学園の外では心を許せる人がいなかったそうです。
だからそのことを深海さんのお母さんも知っているのかもしれません。
持って生まれた魔力という力。
その力による特性。
魔力を吸収するという特殊な能力によって周りの人々から嫌われてしまい。
友達どころか助けてくれる人さえ見つからない孤独な日々を過ごしてきたことで、
お友達がいなかったこと。
学園に入学してからお友達が出来たかどうかは知らないのかもしれませんけど。
少なくとも学園の外にいないことは知っているのではないでしょうか?
だから、だと思います。
「まだそうじゃないと思うのなら…。もしもよろしければ優奈とお友達になって頂けませんか?」
深海さんのお母さんにお願いされたんです。
…でも。
…私が?
…お友達に?
「無理にとは言いませんけれど…。」
「あ、いえ…っ。」
断る理由なんてありません。
「私でよければ…」
お友達になりたいです…と答えたことで、
深海さんのお母さんは幸せそうに微笑んでくれました。
「そう言って貰えるだけで十分です。もしも出会うことがあれば、娘の友達になってあげて下さい。」
深海優奈さんの幸せを願う優しさは愛情と言うのでしょうか?
それは私のお母さんと良く似ていて、
不思議と心が温かくなるような心地よさを感じてしまいます。
だから。
私も精一杯の想いを込めて応えることにしました。
「あの、私でよければ、お友達になりたいです♪」
笑顔で宣言してみると。
「…ありがとう。」
深海さんのお母さんは微笑みながら涙を流してくれました。
嬉しさで溢れる涙だと思います。
深海さんが孤独じゃないと思うことで、
喜んでくれたのかもしれません。
「…ゆっくりしていってね。」
最後に一言だけ伝えてから頭を下げた深海さんのお母さんは、
そのままお店の奥に行ってしまいました。




