暴動の鎮圧
校門前で一人になってから数分後。
女性のあとを追うのは手遅れで、
すでにその姿は見えなくなっていたわ。
この状況でどうするべきかしら?
燃え上がる町の各所から響く悲鳴は今でもまだ聞こえてくる。
学園はまだ戦場になっていないみたいだけど。
多くの生徒や教師達が救助活動を行っているせいか、
校庭はすでに大勢の人で溢れかえっているように見えるわね。
苦痛の悲鳴をあげる男性や、
恐怖を感じて泣き叫ぶ子供達。
意識を失う老人達や、
怯えて震える女性もいるわ。
多くの人々が学園に避難していて、
校庭の各地で魔術による治療が行われているのよ。
…そんな中で。
ほとんどの負傷者は魔術によって治療出来ているけれど。
すでに手遅れの人達も大勢いるみたい。
ここへ運び込まれるまでに力尽きてしまった人達がいるのよ。
あるいは治療が間に合わずに、
そのまま長い眠りについてしまう人もいるの。
見える範囲内だけでも数百人規模の死者がいるわ。
その惨状を目にしたことで、
抑えきれない悲しみを感じてしまう。
「どうしてこんなことに…?」
絶望しか感じられない状況なのよ。
結局何もできないまま立ち尽くしてしまった私に、
琴平学園長が歩み寄って来てくれたの。
「栗原さんはご無事でしたか。」
「…あ、はい。」
疲れきった表情を見せる学園長に頭を下げて挨拶してみる。
「私は無事に戻ってこれました。でも…」
突然起きた惨劇に何もできなかった悔しさは捨てきれなかったのよ。
「多くの人達が亡くなってしまいました。」
「…ええ、そのようですね。詳しいことは現在も調査中なのですが、謎の一団の潜入によって町が攻撃を受けているようです。敵は小数の魔術師のようですが、戦闘能力が高く、町の防衛力では迎撃が追いついていないようですね。」
…そう。
そこが問題なのよ。
主戦力とも言える傭兵部隊をアストリア王国に派遣したうえに、
治安維持部隊を国境の調査に回していたことで防衛力を失ったマールグリナには抵抗出来るだけの戦力がなかったのよ。
そもそも医療の研究を最優先していたマールグリナでは軍事活動を考慮していないわ。
もともと少なかった戦力なのに、
そのほとんどが町を出た瞬間を狙っての奇襲だったせいで、
マールグリナは驚くほどあっさりと敵の制圧に屈しつつあったのよ。
「アストリアが滅んだことで敵はいないと思い込んだ油断を突かれたのかもしれませんね。あるいは…町の中に内通者がいる可能性も否定出来ませんが…」
…確かに。
その可能性もあるわけよね。
思い悩む琴平学園長にかける言葉が思い付かずに沈黙してしまったわ。
でもね?
そんな私達に朗報が届いたのよ。
「学園長!!」
大声で琴平に呼び掛けたのは学園の生徒の一人よ。
名前は覚えてないけれど。
見覚えはあるような気がするわ。
「どうかしましたか?」
「各地で暴動を起こしていた魔術師達の鎮圧が終わりました!数名の捕獲に成功しましたが、大半の魔術師は逃亡したようです。」
「…は?戦いが終わった?」
戦闘終了の報告を受けたことで、
学園長は疑問を感じてるみたい。
私が戻ってきたことで、
治安維持部隊が戻って来たのは当然だけど。
町を制圧寸前にまで追い込んでいた襲撃部隊を短時間で鎮圧出来るかどうか?
そこに疑問を感じている様子だったわ。
だから私も報告内容を補足することにしたのよ。
「襲撃部隊とは別に、町の中に潜入している魔術師と遭遇しました。もしかしたらその魔術師の部隊が敵を迎撃してくれたのかもしれません。」
「別の部隊?」
私の報告を聞いたことで、
学園長は更に深刻な表情を浮かべていたわ。
もしかして何も言わない方が良かったのかな?
なんて。
そんなふうにも思ったけれど。
どうせ報告するのなら後先は関係ないわよね?
「私が遭遇したのは二人だけですけど。話の流れからすると他にもいるようです。」
「ふむ。断片的な情報だけでは判断出来ませんね。三倉信造か朱鷺田知事に連絡をとって…」
相談をしたいと呟いた学園長の言葉を聞いてしまったことで、
もう一つの報告を告げなければいけなくなったのよ。
「それと、朱鷺田知事と三倉さんは…どちらも敵の攻撃によって亡くなりました…。」
「な…っ!?」
私の報告に戸惑う様子の学園長。
この町において数少ない実力者の朱鷺田直道さんと三倉信造さんの死亡報告を受けて、
学園長は絶望を感じている様子だったわ。
「まさか…あの二人までが…?」
学園長にとっては親友とも呼ぶべき仲間だったらしいから。
長年、共に町を支え守り抜いてきた親友の死を知ったことで静かに涙を流していたの。
「一体、どれほどの涙を流せばこの争いは終わるのでしょうか?」
………。
悲しみにくれる学園長にかけられる言葉なんて…私には思い浮かばなかったわ。




