表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE WORLD  作者: SEASONS
4月19日
1103/1212

交渉の鍵

…え〜っと?



全く状況が理解出来ないのよ。



そのせいで走り去っていく少女の後ろ姿を見送ることしか出来なかったんだけど。


二人きりになったところで、

ようやく女性が話し掛けてくれたわ。



「とりあえず学園まで送るわね。そっちはまだ被害が出てないみたいだから安全なはずよ。」



…え?


…そうなの?



「学園は無事なんですか?」


「ええ、今のところはね。」



…なるほど。



今はまだ学園は無事みたい。



私を保護してくれた女性は、

私の手を掴んでから学園に向かって歩きだしたわ。



結局、詳しい説明はないままなんだけど。



…でも、ね?



状況を理解出来ない私の足取りはちょっぴり遅かったりするの。



…だってそうでしょ?



三倉さんはもう手遅れだとしても、

他にもまだ苦しんでいる人達がいるかもしれないのよ?



そういう人達を残して立ち去ってしまうのはどうかと思うのよね。



だからそんなふうに悩んでいると。


私の様子に気づいた女性が、

ホンの少しだけ困ったような表情を浮かべてから話し掛けてくれたわ。



「周りが気になる?」


「…え?あ…はい。」



どう見ても手遅れだとは思うけれど。


それでも助けられる人だっているかもしれない…なんて思ってしまうのよね。



だけど私一人でどうにかできる状況じゃないし。


わがままを言えるような立場でもないわ。



「できれば助けてあげたいと思います。」



そんなふうに控えめに言ってみると。



「ふふっ。優しいのね。」



微笑んでくれたのよ。



「でもね?まずは自分自身が生き残ることを最優先にしなさい。この町はすでに戦場になってるんだから、安全圏に避難することが当然の判断よ。」


「助けられるかもしれない人達を残してでも…ですか?」


「ええ、そうよ。一人残らず救出できるほどの実力があるのなら好きにすればいいけどね。だけどそんな神業は私にはできないし、貴女にも出来そうにないわよね?」



…それは、まあ。



「確実に救出できるのなら手を差し伸べるのは構わないと思うけれど。そもそも生存者がいるかどうかもわからない状況で可能性を信じて行動するというのは賢い選択だとは思わないわ。」



………。



「それでもどうしてもと言うのなら手を貸してあげてもいいけれど。無償で奉仕活動をしてあげられるほど私は暇じゃないわよ?」


「それは…お金の問題ですか?」


「いいえ、時間の問題よ。私がここにとどまれる時間は限られているの。だからさっさと貴女を安全圏に避難させてから次の目的地に向かう必要があるの。」



…なるほど。



時間がないと言われてしまったら無理は言えないわよね?



「そうですか。」



一応、とどまりたいって言えば自由にさせてもらえるみたいだけど。


結局、私一人だと救助どころか災害に巻き込まれてしまうだけでしょうね。



「何かを成し遂げるためには力が必要なのよ。だけど今の貴女には力が足りていないわ。」


「…はい。」



それは自分でもわかってるつもりなのよ。



悔しいけど。


今の私には何もできない。



「誰かに頼らなければいけないのなら、一人で無理をするよりも協力し合える人達と手を組んで自分に出来ることをやりなさい。そのために一時的に撤退するの。」



人命救助を放棄するんじゃなくて、

体制を整えるための一時的な撤退。



それは言葉のあやというか言い方の違いだけど。


女性の指摘は十分すぎるくらい納得できる意見だったわ。



「まずは避難よ。そのあとのことは仲間を集めてから自由にしなさい。」


「…はい」



何かをやりたければ、

それを成し遂げられるだけの戦力を集めること。


そんな当たり前の方針を示されたことで、

ようやくこの場から離れる決心ができたような気がしたの。



「学園に戻ります。」


「ええ、それで良いのよ。」



学園に向かって歩きだした私を見て微笑んでくれてる。



その優しさは嬉しいけれど。


どうして私を守ってくれるのかがわからないままなのよね。



「どうして私を助けてくれたんですか?」


「…あ~、ごめんね。今はまだ何も言えないの。だけどいずれ知る日が来るはずよ。だからそれまでは気にしないで。」



…うわ~。



気にするなって言われてもね~?



疑問がなくなるわけじゃないわ。


気になることが沢山あるのよ。



だけどそのどれにしても、

答えてくれそうにない雰囲気があるのよね~。



それでも一応もう少しだけ尋ねてみようかな?



「あなたは…?」


「私は『ウィッチクイーン』よ。」



何者なのか?という問い掛けをする前に、

女性は迷うことなく答えてくれたの。



「通り名だけどね。みんな私をそう呼ぶわ」



ウィッチクイーン?


さっきの戦いでも名乗っていた名前よね?



…名前というか。



通り名?


それって通称ってこと?


役職…ではないわよね?



「あの…。私のことは知ってるんですか?」



今までの発言から察するに私を守りに来たっていうことよね?


だとしたら知り合いっていうことよね?



「あなたは今後行われる交渉の為の『鍵』らしいわ。私も詳しいことは知らないけれど。そう聞いているのよ。だから今はまだ貴女に死なれると困るの。」



…交渉の鍵?



それもよくわからないわね。



「交渉って何ですか?」


「ん~。まあ、何て言うか。この事件とは関係のない話だから、気にしなくていいわよ。」



今回の事件とは関係がないの?


それってつまりこの町が襲われてることとは別の問題ということよね?



「どういうことですか?」



追求してみたけれど。



「どういうことかしらね?」



微笑んでもらえただけで、

答えてはもらえなかったのよ。



「教えて頂けないんですか?」


「今はまだダメね。まずは自分の存在意義を知ることから始めなさい。そして自分の気持ちを考えなさい。」



…存在意義?


…自分の気持ち?



「その先で貴女がどんな決断を下すのか?全てはそこから始まるのよ。今の貴女には何を言っても意味がないし、それだけの価値もないわ。私達が貴女を必要とするかどうかは貴女のこれからの行動次第だしね。」


「私の行動次第?」


「ええ、そうよ。だから貴女には価値がないと判断したら、その時はさっさと見捨てるわ。」



………。



「使えない鍵にこだわるほど私達は暇じゃないの。だけど今の貴女にはまだ可能性があるから…だから今回は手を貸してあげているのよ。」


「可能性…ですか?」


「ええ、そうよ。だからまずは貴女自身の力で立ち回りなさい。今よりも更に成長して、本当に『鍵』としての価値を持ったら…その時にまた『迎え』に来てあげるわ。」



迎えに来る?


その言葉には重要な意味を感じてしまうわね。



「一体、何が起きているんですか?」



もう一度問い掛けてみるけれど。



「さあ?何かしらね?」



女性は何も教えてくれないみたい。



「『牙』って何のことですか?どうして町が襲われているんですか?誰が、何の為に?」



次々と思い浮かぶ疑問だけど。



「ふふっ」



女性は何も教えてくれなかったのよ。



…そして。



何も解決しないまま町を移動した私達は、

ついに学園にたどり着いてしまったわ。



「さあ、おしゃべりはここまでよ。ここから先は自分で真実にたどり着きなさい。『御堂龍馬』とも『常盤成美』とも違う結末に辿り着けるかどうか?それが貴女に託された『希望の価値』になるわ。」



…え?



どういうこと?



「どうして…っ?」



女性の言葉を聞いた瞬間に、

私の心は大きく動揺してしまったのよ。



どうしてこの女性は二人の名前を知っているの?



それも魔術大会で名を馳せる『御堂龍馬』の名前だけじゃなくて。



沙織の妹ではあるけれど、

全く無名の『常盤成美』の名前まで知ってるのは不自然よね?



「どうして常磐成美の名前を…?」


「さあ、どうしてかしらね?」



どうあっても教えてくれるつもりはないみたい。



…なのに。



「天城総魔が残した5つの希望。その想いに『貴女』は応えられるのかしら?」


「え…っ?」



次々と疑問だけは残してくれるのよ。



女性の言葉が理解出来ずに戸惑ってしまったわ。



それなのに答えを告げることはしないまま。


女性は私に背中を向けてしまうの。



「次に出会う時までに、少しは『真実』に近付いておくことね。」



多くの疑問を残したまま。


女性は立ち去ってしまったわ。



結局、それ以上何も聞けなかったのよ。



ただただ立ち尽くしてしまった私を残して、

女性は燃え上がる町の中へと消えてしまったの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ