そよ風
「くそおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」
「…まだよ!まだ諦めないわ!」
悔しさをあらわにして叫ぶ三倉さんの隣で、
必死に回復魔術を発動させてみる。
「お願いっ!!目を覚ましてっ!」
必死に願ってみたけれど。
やっぱり魔術は効果を発揮しないみたい。
その理由はもう嫌って言うくらい分かってる。
死者は蘇らないの。
すでに死んでしまった人の体にどれだけ魔術を使っても生き返らせることなんてできないわ。
だから朱鷺田さんの治療は失敗してしまうのよ。
「どうしてこんなことに…!?」
歎いてしまうけれど。
本当の悲劇はまだこれからなのよ。
突然、響き渡る爆発音。
役場の一部が吹き飛ばされて、
爆音の発生源から一人の男性が姿を現したの。
「ちっ!楽勝だと思っていたんだが、久々に怪我をしたぜ。まだまだ油断は出来ねえな」
愚痴を言いながら姿を見せた男性の年齢は30歳前後くらいかしら?
左腕を負傷している様子だけど。
出血はそれほど見られないわ。
かすり傷よりも少し酷い程度で、
簡易の回復魔術でも簡単に治療出来る程度の怪我だと思う。
そんな軽傷を魔術で治療する男性を三倉さんが強く睨みつけてた。
「何者だっ!?」
大声で怒鳴り付ける三倉さんだけど。
「それをわざわざ、お前に答える必要があるのか?」
男性はわざとらしく挑発的な態度で答えていたわ。
あまり好意的には見えない…というよりも、
あからさまに敵対姿勢を見せている感じなのよ。
現在の状況から考えて朱鷺田さんを攻撃したのは目の前にいる男性で間違いないと思う。
そんなふうに三倉さんも考えたのかな?
相手が何者なのかという話し合いを無視して魔術の詠唱を開始したのよ。
その様子を眺めてる男性は、
一歩も逃げようとせずにさらに前へと踏み込んでくる。
「…やる気満々だな。まあ、別に俺はかまわねえけどな。」
「ふん!捕獲してから尋問するまでだ!!」
余裕の表情を見せる男性に三倉さんの魔術が襲い掛かる。
「エクスカリバー!!!」
風系最強の魔術よ。
数百に及ぶ風の刃が男性に襲い掛かるはず…なんだけど。
「そんな『そよ風』で、人を殺せるつもりか?」
防御も回避もしない男性がルーンを所持してるようには見えないから、
瞬間的に圧縮魔術を展開したのかもしれないわ。
「エクスカリバー!!!」
三倉さんと同じ魔術を発動したのよ。
たまたま同じ魔術だったのか、
それとも複数の圧縮魔術の中で同じものを選んだのかは知らないけれど。
魔術の威力は三倉さんを遥かに上回っているように見える。
もしかしたら二重で展開したのかも?
真空の刃が三倉さんの放つ風の刃を切り裂いて、
三倉さんの体まで切り裂いてしまったからよ。
「ちっ!!捌き切れんか…っ。」
攻撃を仕掛けたのに押し負けているのよ。
…これはたぶんあれよね。
同種の圧縮魔術を同時展開して、
威力を2倍にしたんじゃないかな?
そうでなければ同じ魔術に威力の差なんてありえないわ。
誰が使っても同じ威力になるのが魔術だから。
相手が魔法使いではなくて、
ルーンの所持者でもないとすれば、
威力の差は魔術の数と考えるべきなのよ。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!!」
悲鳴をあげながら数メートルの距離を吹き飛ばされた三倉さんは、
後方で炎上する建物に叩きつけられてしまったわ。
「づあああああああああああああああああああぁっ!!!!!」
響き渡る叫び声はまさに絶叫。
朱鷺田知事の仇討ちを望んで対峙した三倉さんだったけど。
戦いの結果は三倉さんの『敗北』で『死』だったのよ。
男性が放った一撃によって重傷を負った三倉さんは、
そのまま火事に巻き込まれて死亡してしまったの。




