同じ恐怖
《サイド:常盤沙織》
わ、私達が知らない間に由香里が負けていたそうです。
どういった試合内容だったのかは不明ですが、
試合が行われていた以上は彼が由香里の魔力を有しているのは明白です。
その結果として。
彼が再び多くの魔力を得ている可能性が高くなってしまいました。
それこそが私が顔を青くした理由になります。
もちろん試合である以上は魔力の消費もあったはずです。
翔子との試合によって失われた魔力の全てを補給出来るとは思えないのですが。
私との試合を想定して行動していたとすれば、
ある程度の回復は済ませているはずです。
それらの事実によって私が彼に勝てる可能性がさらに低くなったと思いました。
…予想していなかった事態ね。
心の中を不安が埋め尽くしてしまいます。
さすがにここまで話が進んでいるとなると、
常軌を逸しているとしか思えないからです。
翔子も試合前はこんな気持ちだったのでしょうか?
ふとした疑問を感じましたが、
翔子に尋ねるわけにはいきません。
私と二人きりの状況ならともかく、
彼を目の前にして翔子が話してくれるとは思いませんので問いかけるのは諦めました。
その代わり、と言えるかどうかはわかりませんが。
今は自分の心に言い聞かせることにしました。
まだ分からない、と。
私達の知らない間に彼がさらに成長しているとしても、
負けると決まったわけではないのです。
結果は始めて見なければわかりません。
それになにより、私の目的は調査です。
彼に勝てなくても調査さえ出来ればいいのです。
…大丈夫。
…怯える必要はないわ。
震える体を無理矢理抑えながら、
試合場に向かうことにしました。
その間。
彼に視線を向ける勇気がなくて黙って試合場に向かっていたのですが、
心の中を渦巻く恐怖という感情を翔子だけは理解してくれていました。
他の誰にも分からなくても彼に対する恐怖は知っている、と。
そんなふうに思ってくれたんだと思います。
翔子は私の手を握りしめながら、
精一杯の笑顔を見せてくれたのです。
「大丈夫。怖がらないで」
…ええ、そうね。
翔子のささやかな一言だけで、
心の中の不安が一気に消えた気がします。
翔子が側にいてくれると思うだけで、
気持ちが穏やかになれるのです。
「ありがとう、翔子。」
同じ恐怖を分かち合えることを感謝しました。
そして心からの感謝の気持ちを言葉にしました。
…もう大丈夫。
翔子に微笑んで歩き出します。
今の私に、迷いはありません。




