宣言通り
《サイド:天城総魔》
午後6時になった。
ついに予定時刻になったことで、
検定会場で待ち続けていた俺に対戦相手が歩み寄ってきた。
時間を守る性格なのだろう。
沙織は約束通りに6時丁度に現れた。
「待たせたかしら?」
「いや、それなりに有意義な時間は過ごせたからな。特に問題はない。」
ここまでは予定通りだ。
不満なんてあるはずもない。
「そう。それじゃあ、先に手続きを済ませてしまうわね。」
「ああ。」
受付に向かう沙織の背中を見送って手続きが終わるのを待つ。
その間。
沙織の隣には復帰した翔子が付き添っているのだが、
俺に向けて笑顔で手を振ってくる辺り、
すでに調子は良さそうだ。
もはや怪我の心配をする必要はないだろう。
それに医務室では殺気を放っていた北条も今では楽しげな笑顔を浮かべているように見える。
それぞれの笑顔から察するに、
二人とも俺を恨んではいないようだ。
話しかけてくることはなかったが、
友好的な雰囲気は以前と同じように思えたからな。
そんな中で、
沙織だけは真剣な表情を見せている。
冷静さを装ってはいるようだが、
それが見せかけなのは間違いないだろう。
緊張を隠し切れていないことは付き合いのない俺でも感じとれるほどだった。
とはいえ。
これから対戦する相手に指摘しても嫌味にしか聞こえないだろうからな。
あえて気づかないふりをして、
手続きを終えた沙織に話しかけることにした。
「準備は出来たか?」
「ええ、心の準備なら出来ているわ。貴方こそ、疲れを言い訳にはさせないわよ。」
…疲れか。
翔子との試合に続く連戦だからな。
ここで俺が負けたとしてもそれが当然の結果だと考えているのだろう。
だが。
その考えは少しだけ間違っている。
連戦なのは間違いないが、
順番が異なっているからだ。
…黙っておく必要はないだろう。
隠すようなことでもないからな。
沙織の間違いを正すために、
事実を伝えておくことにする。
「つまらない言い訳をするつもりはない。さっきも言ったはずだ。すでに準備運動は済ませておいた、とな。」
「…準備運動?」
戸惑う沙織を見かねたのだろうか。
近くにいた係員が静かに歩み寄る姿が見えた。
さきほど受付で沙織の手続きを行っていた女性の係員なのだが、
戸惑う沙織に顔を近づけてそっと耳打ちをしている。
「………です。」
「…えっ?う、うそっ!?」
係員からの説明を聞いたのだろう。
沙織の表情が瞬間的に青ざめた。
「なになに?どうしたの〜?」
沙織の隣にいても翔子には聞こえなかったのだろうか。
係員から何を聞いたのか尋ねる翔子に沙織は震える声で答えていた。
「ゆ、由香里が、負けたみたい…。」
「…えっ?は?え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ほぼ同時に驚きの声をあげる翔子と北条。
その後、3人の視線が俺に集まった。
「…ほ、本当なの?」
沙織はまだ信じきれていないようだが、
ここで嘘をつく理由はないからな。
事実を答えておくべきだろう。
「ここで待っている間に向こうから挑戦してきたからな。準備運動をかねて戦っただけだ。」
驚く程のことではないと思うのだが、
3人にとってはそうではなかったらしい。
「う、嘘でしょ!?それって準備運動って言える相手じゃないわよね?」
翔子としては信じる信じないの問題ではなく、
俺の発言そのものに対して疑問を感じている様子だった。
「…マジで蹂躙だな。」
北条としても驚く内容だったらしい。
沙織も最初に驚いていたが、
3人にしてみれば驚異的な出来事だったようだ。
待ち時間の間に戦った対戦相手の名前は『和泉由香里』
生徒番号は5番だったな。
数時間前まで4番だった翔子と接戦を繰り広げるほどの実力者だったそうだ。
たった1つ違いだからな。
実力があるのは当然か。
実際、翔子との差は微々たるものだったと思う。
戦闘技術においては翔子が上回っているものの。
魔術師としての実力はほぼ同格だっただろう。
だからこそ。
翔子とほぼ同程度の実力を持つ由香里はたやすく勝てる相手ではなかったはずだと考えているのだと思う。
…実際。
圧勝とは言えない試合だったかもしれないな。
翔子の治療にかなりの魔力を消費していたこともあって、
由香里を倒すまでに10分以上かかってしまったからだ。
万全な状態だったら翔子同様に追い詰めることができたと思うものの。
魔力が低下している状態だったこともあって全力で戦えなかったために苦戦したのは事実になる。
もちろんその試合で受けた怪我に関してはすでに治療を済ませているのだが、
由香里も確かに強敵だった。
それでも沙織と戦うために、
俺はここで待ち続けていた。
無謀と言われても仕方のない連戦を行う俺に対して
それぞれに思うことはあるかもしれないが、
俺としては大した問題だとは思っていない。
1時間前の沙織への『宣言通り』
堂々とこの会場で待ち続けていただけなのだから。




