頭の痛い悩み
《サイド:米倉美由紀》
…はあ。
本当に困ったわね。
表情にこそださないけれど、
心の中では舌打ちをしてしまったわ。
こうなることは想定外…いえ、
最悪の展開として想定していたというべきかしら。
可能性としてはあるかもしれないと考えていたけれど。
それでもその道を選ばないと信じていたのよ。
…いいえ。
この表現も違うわね。
その選択肢は選べないと思っていたの。
翔子は沙織を裏切らないから。
そして沙織も翔子を裏切らないから。
二人が親友であるからこそ。
二人が対立するような選択を選ぶことはないと思い込んでいたのよ。
それなのに。
翔子は自らの道を選んでしまったわ。
私の指揮から外れて、
沙織とも決別する道を選んでしまったのよ。
本来、天城総魔が暴走した時を考慮して翔子を配置したはずなのに。
結果として翔子が私に対立し始めた。
…いえ。
対立はすでに起きているわね。
私の指示には従わないと宣言してるわけだから。
早急に対策を考える必要がある案件になってしまったのよ。
どうしてこんなことになったのかしら?
…と、言うか。
あ〜〜〜~もうっ!!
何もかも嫌になってくるわ。
…はぁ。
本当に困ったわね。
どうするべきかしら?
確かに翔子の言葉通りであれば何も問題はないのよ?
一生徒の行動を私が気にする必要はないし、
誰がどこでどうしていようと悩む必要はないの。
だけど。
そうでなかった場合が問題なのよ。
学園の治安維持を託している翔子達がいざという時に動かないとなれば非常事態になりかねないわ。
…それでも。
学園の安定を蔑ろにする訳にはいかないの。
常に最悪を想定して対策を考えなければいけないのよ。
「一応、言っておくけど。翔子が降りても他の誰かが引き継ぐだけよ?」
「好きにしてください。妨害するつもりはありませんが、これ以上関与するつもりもありません。」
…うう~ん。
これはちょっと説得出来そうにないわね。
堂々と断言する翔子に迷いは感じられないから。
こうなるともう考えを変えてくれるとは思えないわ。
…これはもう駄目ね。
頑なな覚悟を知ってしまったことで、
私の心はさらに重くなってしまったのよ。
翔子はもう使えないわ。
普段はお気楽な性格なのに、
時々頑固な部分があるの。
こうなってしまった時の翔子は私では手に負えないわ。
意外と真面目な子なのよ。
一途って言うべきかしら?
そのせいで周りの意見を聞かない時があるの。
残念だけど翔子の説得は諦めるしかないわね。
別の対策を考えるしかないということよ。
…でも。
対策なんて何も思い浮かばないのよね。
唯一の方法と言えた沙織という足かせさえも通用しないのよ?
他にどんな方法があるっていうの?
そんな都合のいい策なんてどこにもないわ。
だからどうにか翔子を説得できないかと期待して北条君と沙織に視線を向けてみたけれど。
「「………。」」
二人もどうしていいかわからずに戸惑っている様子だったわ。
こうなると二人もあてには出来ないみたい。
…はあ。
ホントに困ったわ。
今は北条君も沙織も頼りに出来ない。
…と言うよりも。
場合によっては沙織と北条君まで離れる可能性を考慮する必要があるんじゃないかしら?
今回の事態は最悪の方向に向かっているとしか思えないわ。
着実に追い込まれていく私の心からは、
ついに安息という言葉さえも消えてしまったのよ。
…今後。
翔子という火種はどう影響するのかしら?
出来ることなら考えたくないわ。
ただただ頭の痛い悩みが増えてしまったわね。
「…はあ、まあいいわ。」
一旦考える事を止めて、ため息を吐く。
どうにもならないのなら、
どうにかできる部分で補うしかないのよ。
「元々、強制することでもなかったし、嫌なら嫌で無理をする必要はないわ。」
今は翔子の願いを受け入れるしかない。
そうしておけばすぐに敵対することはないと思うし。
打算を含めて翔子の自由を認めることにしたのよ。
その結果として。
私の許可を得た翔子の表情が少し緩んだような気がしたわ。




