悪い意味で
《サイド:米倉美由紀》
ジェノス魔導学園の理事長室。
もちろんこの部屋には理事長である私がいるわけだけど。
ついさっきまで翔子と北条君の報告を聞きながら今後の方針を考えていたところだったのよ。
だけど話し合いの途中で、
何故か突然、沙織まで来てしまったの。
…う~ん。
何かあったのかしら?
翔子からの報告で沙織は来ないって聞いていたのよ。
それなのにここに訪れたということは、
それ相応の理由があるはずよね。
…なんだか聞くのが怖いんだけど。
とはいえ、聞かないわけにはいかないわ。
「あらあら、沙織。どうかしたの?」
沙織が訪れたことで話しかけてみたんだけど。
「報告中にお邪魔して申し訳ありません」
丁寧に挨拶をしてくれた沙織は、
ゆっくりと室内に歩みを進めてから翔子の隣に並んだわ。
…あ~、うん。
これはもうあれよね?
明らかに良くない話があるって感じよね。
極力冷静な態度を見せているけど、
いつもと雰囲気が違う気がするわ。
緊張しているようには見えないけれど、
何故かぎこちなく見えるのよ。
これは間違いなく何かあったということ。
…それも、確実に悪い意味で、ね。
正直に言って、あまり聞きたくない話になりそうな気がするわ。
だからと言って聞きたくないとは言えないんだけどね。
「一つ、報告しなければいけないことができました」
色々と推測している間に、
今度は沙織から話しかけてきたのよ。
…あぁ、やっぱり聞かないとダメなのね。
出来ることなら楽しい話が聞きたいんだけど、
沙織の表情を見ればそうじゃないのは一目瞭然。
翔子も北条君も隣に並んでいる沙織を不思議そうに眺めてる。
まあ、翔子達からすれば当然の反応かしら。
用がないからという理由で別行動をしていたらしいから、
沙織がここに来たこと自体に驚いている様子なのよ。
そんな二人に事情を説明するよりも、
直接私に話したほうが早いと判断したんでしょうね。
沙織は翔子達に軽く微笑んでから報告を始めたわ。
「単刀直入に言います。先程、天城総魔と出会いました。」
…えっ!?
…出会った、って。
そのために別行動をしてたっていうこと!?
沙織の報告によって私の表情は固まってしまったわ。
それと同時に北条君と翔子の二人も、
沙織がどこに行っていたのかを理解して驚いている様子だったわね。
「そ、それで、どうだったの?」
それぞれの意見を代表して尋ねたことで、
沙織は報告すべき内容を語り始めたのよ。
「細かい説明は省きますが、結論からいえば彼に試合を申し込まれました。」
…う、嘘でしょ!?
ついさっき翔子と戦ったばかりのはずよね!?
それなのに。
どうしてもう次の試合の話になっているの!?
「試合はいつなのっ!?」
「本日午後6時です。時間を決めたのは私ですが、彼の了承は得ています。」
…はあっ!?
午後6時!?
慌てて時計に視線を向けてみる。
…あ~、もう!!
すでに時刻は午後5時を過ぎているわ。
試合予定時刻まであと1時間足らずということよ。
…って、急すぎるでしょ!!
予定時間が来てしまえば、
沙織と天城総魔の試合が始まってしまう。
その事実に気付いたことで、
室内に重苦しい雰囲気が生まれてしまったわ。
「…それで?彼に勝てそうなの?」
まっすぐ沙織を見つめる私の瞳は期待に満ちているけれど。
肝心の沙織は自信なく首を横に振ってしまったわ。
「正直に言って分かりません。ただ…」
「翔子との試合による消耗があるから、今なら弱ってるということよね?」
「はい。」
私の指摘を肯定して小さく頷いてくれたわ。
沙織もそうだと思うけど、
当然私も気付いていたのよ。
今なら天城総魔の底を知る事が出来るかもしれないって思っていたの。
もちろんその考えには翔子や北条君もたどり着いていると思うけどね。
依然として実力が未知数の天城総魔だけど。
いくら彼の実力が想定外なものであっても、
翔子に次いで沙織と立て続けに戦えばかなりの魔力と体力を削ることが出来るはずよ。
上手くいけば彼の実力を計る事が出来るかもしれないわ。
…ただ。
もしもここで沙織まで敗れるようなことになれば、
ちょっとどころではない騒動になるのは間違いないでしょうね。
翔子と沙織の二人がかりでも倒せないという事実が判明してしまうからよ。
…だけど。
天城総魔の調査という意味では沙織が最も適任かもしれないわ。
4位と3位の連戦なのよ。
それでも沙織が負ければ彼の実力は本物だと認めるしかない。
もはや手の付けられないバケモノと言えるでしょうね。
そうなってしまった時のために。
彼の限界を見定めることが必要な一手なのは間違いないわ。
…出来る限り早い段階で事前に手を打つ必要もあるから。
沙織が敗北した後のことも急いで考えなければいけないのよ。
説得か。
交渉か。
暗殺か。
様々な方法を決断する時期が近づいているわ。
「…そろそろ、最終的な決断も考えないといけないかもしれないわね。」
そんなふうに悩んでいたら。
私の言葉を聞いていた翔子が一歩前へと進み出てきたのよ。




