大地の生命力
《サイド:天城総魔》
…ちっ。
これは思っていた以上に難敵だな。
大地の生命力を魔力に変換している優奈の姿を観察しながら考察を進めているのだが、
今はまだ解決に繋がりそうな糸口のきっかけさえ掴めずにいる。
『龍脈』と『龍穴』
そこに流れているのは大地の生命力と呼ばれるモノらしい。
名前や概念だけで全体を理解するのは難しいが。
魔術師にとって体内に魔力が宿っているように、
大地にとって在るべき力なのは間違いないだろう。
根本的な性質は異なるものだが、
果たすべき役割は同じものだと思われる。
目に見えるモノではないものの。
それはやはり『力』であり、
そこには必ず『流れ』があるはず。
…だとすれば。
その流れに干渉して力を操れるのなら、
兵器の発動地点を変更して共和国の被害を抑えることが出来るはずだ。
少しずつ優奈の体に流れ込んでいく龍脈の力。
大地の生命力の解析を急ぐ必要がある。
『バチバチバチバチッ!!!!!』
『バチバチバチバチッ!!!!!』と、
鳴り止まない炸裂音。
触れることさえためらうほどの炸裂音だが。
ひとまず一度は兵器に手を伸ばしてみるしかないだろう。
「直接触れてみるしかないな。」
情報を集めるために兵器に触れた…次の瞬間に。
『バチンッ!!!』と、
一際大きな炸裂音が鳴り響いて、
俺の右手は兵器から弾かれてしまっていた。
「…くっ。」
右手の痺れを感じながら小さく呻いてしまう。
流れる力は予想以上に凶暴で、
恐ろしいほどの破壊力を秘めていたからだ。
「これが『大地の生命力』なのか?」
この破壊力こそが大地震によって王都を壊滅に追い込んだ力なのだろう。
人の力でどうにかなるような生易しいものではないのは最初から分かっていたものの。
それでも予想を遥かに上回る力に驚きを感じずにはいられなかった。
「やはり、直接触れるのは不可能だな。」
考えを改めることにする。
「優奈を介して間接的に調べるべきか?」
少しずつ痺れがとれて自由を取り戻した右手を優奈の背中に当ててみる。
手の平から伝わる優奈の心臓の鼓動と体の温もり。
そして溢れる魔力と流れていく力。
それら全てを右手に感じながら瞳を閉じてみる。
………。
微かな沈黙。
必死に力に堪え続ける優奈と、力の解析を急ぐ俺による二人の無言の戦いが始まり。
ただただ時間だけが過ぎていく。
『バチバチバチバチッ!!!!!』
『バチバチバチバチッ!!!!!』
優奈の干渉によって鳴り止むことのない『龍穴の力』に意識を傾けながら、
優奈の体の中で起きている力の変換を探り続ける。
兵器と優奈の手の間でも龍穴の力は炸裂を続いているのだが、
今は優奈の心配をしている時間がない。
その時間があるのなら一秒でも早く解析を終えるべきだ。
…考えろ!
…答えを探せ!
優奈が引き込んでいる力は大地の生命力。
それは魔力とは明らかに異なる力だが、
それでも優奈は魔力への変換に成功している。
その事実が在る限り。
必ず理論は構築出来るはずだ。
…目の前の現実を把握しろ!
…そして解答を導き出せ!
優奈の力を理解出来れば、
俺も龍穴に干渉出来るはずだ。
龍穴への干渉と魔力への変換。
それを可能としている理論は何だ?
優奈の力を探りながら思考を進めてみる。
そもそも魔力とは何だ?
大地の生命力とは何だ?
幾つもの疑問が生まれ、
その疑問に対する仮説を考えていく。
魔力とは?
魔術を発動するために必要な媒介だ。
だがそれだけではなく、
少なからず人の体に影響を及ぼしている。
魔力の喪失が意識の喪失へと繋がり。
最悪の場合は死に至るからだ。
それは生命に直結する力とも言えるだろう。
…だとすれば。
魔力も命を司る一つの要素ではないだろうか?
もしもそうだとすれば、
一つの結論へとたどり着くことができる。
魔力も生命力の一部だとすれば?
本当の意味での優奈の力は生命力の吸収なのかもしれない。
だからこそのソウルイーターと考えるべきだ。
魂を喰らう能力とはつまり、
生命力を喰らう能力でもあるはず。
…そう考えるべきだろうか?
「試してみるか?」
暫定的な仮説にたどり着いたことで、
一度自分で組み上げた吸収の理論を新たに組み直してみることにした。
魔力の解析ではなく、
生命力そのものの解析を行って分解と変換を行う新理論だ。
そのための理論の構築だが、
新たな理論を組み上げる為にはどうしても足りない情報がある。
それは『生命力』の定義だ。
命と呼ぶべき力の定義が定まらなければ理論は完成しない。
直感や感覚ではなく、
計算された理論で魔術を組み上げる俺にとって不完全な理論は魔術の失敗を意味することになるからだ。
そうならないためには完璧な術式を考える必要があるのだが。
『生命力の定義』
それは何だろうか?
さらに思考を進めてみる。
生命力とは生きる為の力であり。
存在する為の力でもあるはずだ。
生命力がなければ死に至る。
…そのため。
人の身にもあり。
大地にも存在するのは当然だ。
…だとすれば?
生命力とは個別の物ではなく、
同種の力であるべきだ。
もしもそうなら、
操作は決して不可能ではないはず。
人の体を癒したり傷付けることが出来るように、
魔術によって龍穴の力を操作することも可能になるはずだ。
その為に必要な理論としての生命力の定義なのだが。
その答えに…ようやく気付いた。
それは魂ではないだろう。
そして心でもないはずだ。
だが、そこには確かな思念が存在する。
生きようと思う強い想いが生命力の根源で在るのなら。
その定義は…?
生命力の定義とは…?
存在する為の『意志』だと考えることにした。
生命力とは意志の力だ。
意志が潰えた時に死は訪れる。
肉体は器でしかなく、
心は思考でしかない。
だが意思とは生きる限り、
生き続ける限り必ずそこにある力だ。
だとすれば、意志こそが生命力の根源となる。
まずは大地の意志に同調させることが、
操作への第一歩になるだろう。
「あとは実践だな。」
優奈の背中から手を離す。
そして再び兵器へと手を伸ばしてみる。
今度は組み直した理論を用いて、
新たな吸収の理論を行使して兵器に触れてみた。
その瞬間に『バチバチバチバチッ!!!』と激しい炸裂音が地下室に鳴り響く。
…だが、今回は先程とは違った。
先程のように弾かれることはなく、
龍穴への干渉に成功したからだ。
「ここまでは成功だな。」
大地の生命力に触れること。
最初の難関は突破した。
…とは言え、問題はここからだ。
ここから兵器の力をどうやって操作するのか?
そして力の流れをどうやって変更するのか?
最大の課題が残っている。
………。
隣に立つ優奈へと視線を向けてみる。
優奈は黙々と力の変換を続けているようだ。
決して声には出さないが、
優奈の表情は明らかな苦悶に満ちている。
扱いきれない力を吸収し続けるのはやはり無理があるのだろう。
いくら魔力に変換していると言っても、
その膨大な量は優奈の限界を越えつつあるのかもしれない。
今まで以上に急ぐ必要があるだろう。
改めて兵器へと視線を戻してみる。
…さて、ここからどうする?
瞳を閉じて龍穴から龍脈へと流れる力を探ってみる。
だがその力の流れは膨大であり。
複雑なほどに分岐を繰り返して、
世界中へと広がっている。
それら全ての力の流れを理解するのは不可能だ。
おそらく一生を費やしたところで1割も解析できないだろう。
とにかく今は共和国へと続く龍脈だけを探し出すことに専念するしかない。
…とは言え。
数が多すぎる。
網の目のように広がる龍脈の全てを調べ尽くすのは不可能としか思えなかった。
…どうする?
確実に迫り来る最期の時は近い。
解析が間に合わなければ共和国は滅亡するだろう。
その時間との戦いによって焦りを感じてしまう。
…時間が足りない。
32の兵器の力の流れの全てを知るには残された時間が少なすぎる。
絶望としか言いようのない状況だ。
いつ訪れるか分からない制限時間。
それでも必死に力の流れを探ろうとしてみるのだが。
すでに終わりの時は…迫っているらしい。




