後継者
《サイド:深海優奈》
光り輝く総魔さんのルーン。
ソウルイーターから流れ込む御堂先輩の魔力と私が送り込んだ魔力。
二人分の魔力を手にした総魔さんは、
迷うことなく精霊を召喚しました。
「ヴァルキリー!!!」
私達の魔力から生まれた精霊です。
何回見てもすごく綺麗な天使です
その天使に総魔さんが指示を出しました。
「御堂を守って脱出させろ。」
総魔さんは最後の想いを込めて、
御堂先輩の生存を願うようです。
精霊が自律的に行動するわけではないと思いますが、
施設の外までの脱出経路はそれほど難しくありません。
それに外に出てしまえば空をとんで移動できます。
どこまで魔力がもつかはわかりませんけれど。
高速飛翔できればこの付近からは逃げられると思います。
「御堂…お前は生きろ。お前なら俺がいなくても立ち上がれるはずだ。生きてこの戦争を止めろ…。それがお前に托された『俺達』の願いだ。」
想いを告げた総魔さんは、
御堂先輩の制服のポケットに『ある物』を入れました。
「俺に用意出来るのはこんな物でしかないが、いずれ役に立つ日が来るだろう。」
最後に託す思い。
そこにどれほどの意味があるのかは私にもわかりませんけれど。
ここで失ってしまうわけにはいかないと思います。
「それと…。」
総魔さんは翔子先輩の鞄を御堂先輩に預けました。
「悪いがこれは御堂から返しておいてくれ。」
翔子先輩のお家に…ですよね?
その意味に気付いた私も、
自分の鞄を御堂先輩に託しました。
「私の荷物も…お父さんとお母さんに…お願いします。」
もう二度とお家に帰れないのであれば、
せめて遺品だけでも…と思いました。
すでに御堂先輩は意識がありませんので、
私達のお願いが聞いてもらえるかどうかは分かりませんけれど。
それでも今は御堂先輩にお願いすることしか出来ません。
「御堂先輩…。」
「もう思い残すことはないか?」
「は…はい。」
「そうか…。」
精霊にあとを託して、
総魔さんは御堂先輩から離れるようです。
「受け継がれる意志が在る限り決して終わりは訪れない。御堂…お前の本当の戦いはここから始まる。俺達の意志を受け継いで生き残れ。それがお前に托された、ただ一つの願いだ。」
別れを告げた総魔さんは、
再び精霊に魔力を送り込みました。
光り輝く天使の翼。
御堂先輩と総魔さんの二人の魔力を併せ持つ精霊は、
神々しささえ感じさせるほどの光を放ちながらその翼を大きくはためかせました。
「行け!ヴァルキリー!!」
総魔さんの指示を受けた天使は、
御堂先輩の体を抱え込んで出口に向かって羽ばたいていきます。
『バサッ!!』と純白の翼の放つ微かな輝きを残して、
天使は地下室から飛び去りました。
そしてそのまま御堂先輩は施設を去っていくようです。
総魔さんの願いによって、
御堂先輩は天使と共に施設を脱出しました。
…その結果として。
最後に残ったのは総魔さんと私のたった二人だけです。
天使に魔力を分け与えた為にルーンを維持するのが精一杯の総魔さんは、
次に私へと振り返りました。
「………。」
とても真剣な表情です。
それはまるで、
御堂先輩を攻撃した時のような…?
「…優奈…。」
「い、嫌っ…!?嫌です…っ!!」
呼びかけてくれた総魔さんの声を聞いて、
私は逃げるように後退しました。
「私まで…私まで、追い出すんですかっ!?」
御堂先輩と同じように、
施設の外へ追い出されると思ったんです。
…ですが。
どうやらそうではないようでした。
「いや…。そのつもりはない。」
涙を浮かべながら距離をとる私に、
総魔さんは首を左右に振ってから答えてくれたんです。
「残念だが今の俺に残された魔力では優奈を押さえ込めないだろう。」
私の疑問を否定してから、
ルーンを解除してくれました。
「無理に斬り掛かってもルーンを吸収されて、魔力を吸収されて終わるだけだ。今の俺の力では優奈を攻撃することは不可能だからな。だから御堂だけを精霊に委ねた。」
………。
本当にそうなのでしょうか?
私を油断させるための演技ではないでしょうか?
疑いは晴れません。
ですが総魔さんは、
私と向き合ってから頭を下げて謝罪してくれたんです。
「すまない優奈。本当ならお前も逃がしたい所だが、ここにある兵器を止める為にはお前の力が必要になる。俺一人では全ての兵器を止めることは出来ないが、お前がいれば…優奈の力があれば龍脈の流れを変えることが出来るはずだ。」
私の力が必要だと言ってから、
頭を上げた総魔さんは私に右手を差し出しました。
「最期に優奈を巻き込んだことだけは心残りだが他に手段はない。もう一度だけ…お前の力を貸してくれないか?」
………。
問い掛ける総魔さんの言葉を聞いて、
私も問い返してみました。
「本当に…何もしませんか?」
「優奈を追い出すつもりがあれば、御堂に荷物を預ける必要はなかった。」
…それは、そうかもしれませんけれど。
だからと言って私を追い出さないという理由にはなりません。
総魔さんが本気になれば、
私を封じることも出来るはずです。
「俺を信じるかどうか…ただそれだけの話だ。」
…あうぅぅぅ。
それはずるいです。
そんなふうに言われてしまったら、
疑うことなんてできません。
例え信じられないとしても、
疑うことはできないからです。
だから今は…信じるしかありません。
もしも裏切られることになったとしても、
総魔さんを疑って後悔するよりはマシです。
「信じます。総魔さんは決して嘘をつかないと…信じています。」
信じることで、
差し出された右手を握り返しました。
その瞬間に右手に力を込める総魔さん。
…その一瞬だけ。
本当に一瞬だけ恐怖を感じてしまいました。
ですが総魔さんは優しく微笑むだけで、
私を攻撃しようとはしませんでした。
…大丈夫、ですよね?
総魔さんの笑顔を見て、
ほっと息を吐きました。
「ありがとうございます。」
「いや…礼を言うのは俺のほうだ。」
警戒を解いて安心する私に、
総魔さんはこれからの方針を教えてくれたんです。




