龍脈と龍穴
《サイド:御堂龍馬》
「待て、御堂。今ここで兵器を破壊しても発動は止まらないらしい。それに兵器を破壊すれば本当に制御不能になる。まずは別の手段を考えるべきだ。」
…くっ!
確かにそうかもしれない。
破壊することで兵器が止まってくれればいいけれど。
もしも止まらなかったら兵器の制御はもう二度とできなくなる。
その事実に気づいたことで破壊は思い留まった。
「だけど…どうするんだっ!?このまま放っておけば兵器が発動するんだ!急いで対策を考えなければ共和国が…っ!!」
「…ああ、そうだな。」
焦る僕の気持ちは総魔も気づいていると思う。
だけど焦っても解決しないから…かな?
総魔は静かに兵器と向かい合っていた。
…僕も落ち着くべきだろうか?
そんなことを考えている間に、
再び歩き出した総魔が平松に歩み寄っていく。
「もう一度確認するが、兵器は止まらないのか?」
「言ったはずだ!一度起動した兵器は決して止まりはしないとな。例えこの部屋を破壊しても、動き出した力は止まりはしない!!」
「…そうか。」
はっきりと宣言する平松の言葉を聞いた総魔は再び室内を調査し始めた。
…だけど。
僕達には何もできそうにない。
兵器は操作を受け付けないし、
破壊するわけにもいかないからだ。
「「「「………。………。」」」」
多くの職員が僕達の様子を眺める状況の中で、
総魔は操作出来ない兵器をただ静かに眺めている。
「32の兵器。その全てを停止させるのは時間的に考えて不可能だろうな…。」
…総魔でも無理なのか。
残された時間は不明だけど。
間に合わないと判断したらしい。
「諦めるつもりなのか!?」
「…いや。」
問い掛ける僕に視線を向けることもなく、
総魔は再び平松に問い掛けていた。
「兵器の発動まで、どの程度の時間がある?」
「…教えると思うか?」
総魔の問い掛けに答えない平松。
その返事を聞いた総魔は周囲の職員にも問いかけていた。
「…答える気のある者はいるか?」
職員全員に問い掛ける総魔だけど。
誰も何も答えない。
誰もが固く口を閉ざしているんだ。
「…ならば仕方がないな。」
呟いた総魔は深海さんに振り返った。
「…優奈。お前の魔力を俺に分けてくれないか?」
「え?あ…はい。それは良いですけど…どうするんですか?」
「答えない職員を殺す。情報が得られないのなら生かしておく価値はないからな。」
「………。」
はっきりとした宣言。
総魔の脅迫とも言える発言によって、
職員達は誰もが体を震わせていた。
だからだろうか?
総魔は周囲の様子を眺めながら、
恐怖で怯える職員達に向けて死を宣告したんだ。
「一人として逃がしはしない。この場にいる全員を殺す。」
皆殺しを宣言する総魔。
だけど職員達は何も話そうとはしない。
死を目の前にしても、
口を閉ざし続ける職員達の勇気は認めるべきかもしれないね。
「優奈。魔力を…」
「…いえ。」
魔力を求める総魔の言葉を遮ってから、
深海さんは自らルーンを発動させた。
「私がやります。総魔さんにばかり辛い役目を押し付けたくはありません。そうしなければいけないのなら…私がします!」
殺害を引き受けた深海さんが弓を構える。
そして…職員達に願ったんだ。
「お願いします。どうすれば良いのかを教えてください。」
職員達に問い掛ける深海さんだけど。
それでも職員達は答えない。
殺害が予告されても、
誰も口を割ろうとはしなかったんだ。
「………。」
訪れる静寂。
その静寂を深海さんの力が切り裂いた。
勢いよく放たれる光の矢。
その矢は複数に別れて、
数名の職員に突き刺さった。
「「「……っ!?」」」
体を突き抜ける光の矢に射ぬかれた職員達は、
悲鳴さえあげられないまま絶命したらしい。
文字通りの即死攻撃だ。
おそらく痛みも何もないだろうね。
突然、命を刈り取られた職員達は無傷のまま死亡している。
その攻撃によって深海さんの体が光を放った。
…たぶん。
この光は職員達から奪い取った命だ。
心や魂。
それら全てが魔力として吸収されたんだと思う。
「…お願いします。残された時間を教えて下さい。」
人の命を奪うという行為に罪悪感を感じながも懸命に問い続ける。
出来ることなら殺したくないと願いながらも、
それでも深海さんは自らの手を汚すことを選んでいた。
総魔や僕に任せるのではなくて、
自らの意志で立ち向かうことを選んでいたんだ。
「…教えてください!」
何度も何度も問い掛ける深海さんだけど。
それでも職員は答えなかった。
「…どうしてっ。どうして誰も教えてくれないんですか!?」
必死に問い続ける。
それでも職員達は答えようとしない。
死の恐怖に怯えながらも何も答えないんだ。
そんな職員達の表情を眺めていた深海さんが再び矢を放った。
「…ごめん…なさい…っ!」
謝る深海さんの手から新たな矢が放たれる。
勢いよく放たれる光の矢は先ほどよりも多く拡散して、
一斉に職員達の体を貫いていった。
「「「「「!!!」」」」」
一撃で絶命する職員達。
今の攻撃によって平松を除く全ての職員の命が消え去った。
バタバタと倒れ込む職員達の命を奪い取ったことで深海さんは魔力を肥大化させていく。
「お願いです…。教えて下さい。」
必死に願う深海さんだけど。
それでも平松は答えない。
最後の一人になっても、
決して口を割ろうとはしなかったんだ。
「殺したければ殺せ。最初から死ぬ覚悟は出来ている!」
堂々と答える平松はすでに死を覚悟している。
…こうなると聞き出すのは難しいかな?
そう思ったのは僕だけではなかったようだ。
今度は総魔が話し掛けていた。
「その前に一つだけ聞かせてもらおう。兵器の力。その力は何を利用している?ここにある物が起動の為の装置であるなら、力そのものは別の何かを利用しているはずだ。」
「兵器の力か…。まあ、その程度のことであれば答えても良いだろう。力の原理を知った所で、どうせお前達には理解など出来ないだろうからな。」
僕達には理解できないことが前提として、
平松は兵器の力を語り始めた。
「この世界には人の想像を遥かに超えた力が存在する。それは大地の生命力と言っても良いだろう。陰陽師が考える風水における理論の一つでもあるが、大地に流れる生命力。それを我々は龍脈と呼んでいる。」
…龍脈?
それこそが研究所の存在理由であり、
この兵器の秘密でもあるのだろうか?
「大地を流れる膨大な生命力。その力の流れを龍脈と呼んでいるのだが、それはただ一つの流れではなく、人の体の中を繋ぐ血管と同様に世界中に流れているのだ。そしてそれら複数の龍脈が交わる部分を龍穴と呼び、世界で最も力の溢れる場所と定義している。つまり、この施設も王都の研究所も龍穴の上に立てられているということだ。」
龍脈と龍穴。
どちらも魔術師である僕達には馴染みのない言葉だけれど。
陰陽師達にとっては一般的な考え方らしい。
「結論から言えば兵器とは龍穴に干渉して龍脈に影響を与え、地震を起こす為の装置だと思えばいい。」
大地に流れる生命力。
その流れを操作して災害を巻き起こす。
その為に兵器があるようだ。
だからこそ兵器そのものには力がなくて、
あくまでも操作の為の装置でしかないらしい。
龍穴に干渉して龍脈を暴走させる。
その為の装置だと平松は答えた。
「なるほどな。では、その龍穴に干渉して操作出来れば、兵器の発動を止められるということか…。」
兵器を止める方法を考える総魔だけど。
平松は即座に否定してしまう。
「それは人の身では不可能なことだ。例え魔術師が人にあらざる力を持っているとしても、膨大過ぎる龍穴の力は人の手では扱えはしない!」
魔術師でも制御できない力。
本当にそんな強力な力が存在しているのだろうか?
「…信じていない様子だな?ならば聞くが、お前達は潮の満ち引きを制御できるのか?あるいは噴火活動を起こした火山を制御できるのか?」
…それは。
さすがに無理だ。
波の動きを制御するなんて出来るはずがない。
それに火山や地震。
雷といった災害にも対処できない。
数万人規模の魔術師を集めたとしても、
対応出来るとは思えない。
「出来るはずがない。そんなことは不可能だ!!だからこそ断言できる。龍脈を制御するなど人の手では不可能だとな。我々でさえも暴走させるだけで精一杯なのだ!兵器を用意したところで自在に操れるわけではない。」
「…なるほどな。」
制御不可能断言する平松の言葉を聞いた総魔は、
最後にもう一度だけ問い掛けていた。
「もう一度聞く。兵器は止まらないのだな?」
「ああ、そうだ。兵器は止まらない。破壊は必ず起きる。それだけは決して変わりはしない!」
自信を持って答える平松の返事を聞いて、
総魔は覚悟を決めたようだ。
「優奈。」
「…はい。」
呼びかける総魔の声を聞いた深海さんが最後の一撃を放つ。
静かに放たれる光の矢。
三度放たれた光の矢は、
平松の体を貫いて命を奪い取った。
これで…職員は全滅したことになる。
深海さんの手によって、
兵器を管理していた職員達が全滅したんだ。
総魔と僕と深海さん。
生存者はたったの3人だけ。
ついに僕達だけになった室内だけど。
32の兵器は振動を続けていて、
いつ発動してもおかしくない状況が続いている。
『兵器は止まらない』
そのたった一つの事実によって途方に暮れる僕と深海さん。
そんな僕達を眺めながら、
総魔は静かに動き出そうとしていた。




