真のソウルイーター
《サイド:天城総魔》
…徹まで逝ってしまったか。
出来ることなら徹は無事にマールグリナに帰還させたかったのだが、
俺達の到着は遅かったようだ。
すでに徹は死んでいた。
一体、どれほどの炎を浴びたのだろうか?
全身が焼けただれて原型すら失いかけている遺体は、
見ているだけで痛々しい思いを感じてしまう。
だが、だからこそ分かることもある。
王都で愛里を失ってしまった徹は、
おそらく愛里の面影と似た優奈を守ることで果たせなかった想いを果たそうとしたのだろう。
愛里を守れなかったという罪の意識を乗り越える為に。
自らの運命を受け入れて、
自らの罪への罰として、
優奈を守ることで果たせなかった約束を果たそうとしたのだ。
その思いを感じ取り。
徹の遺体へと近付いた俺は、
その場に膝をついて徹の体に手を伸ばした。
冷たく冷えきった体。
全身に及ぶ火傷によって焼けただれた体は血と体液でドロドロになっている。
だが、その表情だけは、
満足だと訴えるかのような優しい微笑みを残していた。
「すまない、徹。」
お前まで死なせてしまった。
愛里だけではなく、
お前まで死なせてしまったのだ。
「お前の死は…俺の責任だ。」
状況的に難しかったとは言え、
戦力として乏しい二人を先行させたのは俺の失策だったと思わざるを得ない。
戦う力のない徹を先行させてしまったのだ。
こうなることは予測できることだった。
「言い訳はしない。お前の死は俺の責任だ。」
謝罪をしてからゆっくりと立ち上がる。
そして周囲を見回してみる。
周囲に転がるアストリア軍の死体を見て、
徹が命懸けで優奈を守ったことが感じとれた。
自らの命と引き換えにしてまで優奈を守り抜いたのだろう。
…徹。
お前の想いも決して無駄にはしない。
心の中で誓いながら徹の死も受け入れようと思ったのだが、
その前にこの状況に僅かな違和感を感じてしまった。
これはどういうことだろうか?
何かがおかしい。
間違っているというほどではないが、
違和感が拭えない。
周囲の死体の山に視線を向けてみる。
優奈と徹の『周辺』に転がるアストリア軍の死体と、
『地下室』に広がる死体の山を見て更なる違和感を感じた。
「どういうことだ?」
室内の遺体の多くは焼け死んだ兵士達や朽ち果てた陰陽師達の遺体だ。
だが、周囲に転がる遺体は全くの無傷だった。
何の外傷もないまま死んでいる。
その違いに気付いて優奈に問い掛けることにした。
「ここにいた兵士達は全滅したのか?」
俺が感じた疑問。
それは生存者がいないということだ。
優奈が生きている為に敵の生存者がいないのは当然なのだが。
徹が優奈を庇って死んだのであれば、
当然、敵対者がいるはずだ。
だが、どこに視線を向けても生存者は存在しない。
百に及ぶ死体の山。
生存者は0だ。
「優奈が全滅させたのか?」
再び問い掛けた俺の質問に優奈が答えるその前に御堂が『ある物』に気付いた。
「これは…!?」
驚く御堂が拾い上げた物。
…それは。
それは御堂にとっても、
俺にとっても驚くべき物だった。
「それはまさか…?」
御堂が拾い上げた物。
それは優奈のルーンなのだろう。
見た目だけで言えば見慣れた形の弓だからだ。
だが、優奈のルーンが放つ気配は全く異質な存在感を放っている。
明るくもあり。
暗くもあり。
冷たくもあり。
暖かくもある。
そんな不思議な光を放つルーンの光と威圧感を俺と御堂は良く知っている。
「優奈もたどり着いたのか?」
それは俺が最初に手に入れた力であり。
初めて御堂が敗北を経験した力だ。
その力だけは決して見間違えることはない。
その力だけは決して忘れることはない。
震える手でルーンを握り締める御堂が、
涙を流し続ける優奈に問い掛けている。
「これは…深海さんの…?」
「ぁ…はい、そうです。」
優奈は小さく頷いて答えた。
「どうしてそうなったのかは分かりませんけど…。栗原さんが亡くなったあとにルーンが変わったんです。見た目は同じなのに、力は…」
力は変質した。
魔力を奪うだけではなく、
あらゆる力を奪う能力に進化を遂げた。
その変化を見た俺達は即座に理解した。
これは優奈の成長だと。
徹の死をきっかけとして、
優奈の心が大きく変化したのだろう。
それは潜在能力などではなく自分の限界を超えた力だ。
かつて沙織が気付いたように。
そして北条が乗り越えたように。
優奈も自分で自分を押さえ付けていた限界という言葉を乗り越えた。
その結果として吸収の能力が一段階成長したのだ。
人を傷付けることを恐れていた優奈は無意識の内に心が攻撃を恐れていたと思われる。
自分でも気づかないうちに。
魔術の詠唱を遅らせることで、
敵対する相手を傷付けないようにしていたのだ。
そして誰かの死を恐れるが故に、
精霊の力を重力という曖昧な力にした。
全ては優奈の『優しい心』が生み出した束縛だ。
周りの人々を傷付けない為に、
直接的に魔力を奪うことを自らの心で封じていたのだろう。
それが優奈に触れても魔力を奪われなかった理由だと思われる。
…学園に入る遥か以前から。
誰も殺さない為に。
誰も傷付けない為に。
自らが傷付く事を望んだ優奈の心は、
やがて吸収という力へと変化を遂げた。
誰も傷つけることなく制圧するための能力だ。
それこそ優奈の心が選んだ力なのだろう。
俺とは違って戦う為に望んだ力ではない。
優奈は誰も傷付けない為に。
そして自身も傷付かない為に。
無意識の内に吸収という理論を組み上げたのだ。
そして段階的に成長してきた吸収という力は、
『魔力』だけに留まらずに『命』すら奪う力に成長した。
それは俺でさえ理論が組み立てられない優奈の力だ。
これこそが本当の意味での『ソウルイーター』と言えるだろう。
魔力だけではなく、魂を喰らうルーン。
それは俺でさえまだ扱えない力だ。
仲間を失う絶望を知り。
数え切れないほどの悲しみを知り。
自らの限界を乗り越えた優奈がたどり着いた力こそが真の『ソウルイーター』だと判断した。
そしておそらく。
優奈は新たなルーンを使って残存する陰陽師と兵士達を全滅させたのだろう。
それが無傷で倒れている遺体の原因だと推測した。
「優奈」
呼び掛ける俺の声を聞いて、
優奈は俺を見上げている。
悲しみが消え去った様子はまだ見えないが、
それでも確認しておくことが幾つかある。
「精霊はどうした?」
「ぇ…っ?」
猫の精霊が見当たらないことで尋ねてみると、
優奈は俺の言葉を聞いてから初めてミルクがいないことに気付いた様子だった。




