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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
1000/1032

魔術師と陰陽師の違い

《サイド:天城総魔》



「以前の話になるが…。そう、あれはもう5年前のことだ。」



…5年前の出来事?



俺との会話を中断させた阿久津は、

何故か唐突に過去を語り始めた。



「5年前。何名かの魔術師が王都に潜入したことがあった。」



…王都への潜入か。



その話なら聞いたことがある。



阿久津の話を聞いたことで、

複数の情報の関連性を思い浮かべた。



思い当たる出来事があるからだ。



それは朱鷺田と三倉の二人の思い出話でもある。



「マールグリナからの潜入部隊のことか?」


「そう…。それはアストリアにとっては致命的な失策だった。」



俺の確認に対して、

阿久津はしっかりと頷いて答えた。



「油断していたと言っても良いだろう。我々は油断していたのだ。直接王城を狙ってくるなど有り得ないと思っていたからな。だからこそ悲劇が起きてしまった。」



『悲劇』と阿久津は言った。



その意味は不明だが、

幾つかの出来事は知っている。



朱鷺田は5年前に王都に潜入したが作戦は失敗した。



何を目的としていたのかは不明だが、

王都に潜入した朱鷺田達はアストリアに存在を気づかれてしまい撤退することになった。



そして無事に生き延びた数名の仲間と共にマールグリナへ帰還した。



…ただ。



撤退の際に多くの仲間を失ったことは朱鷺田から聞いている。



同時に三倉純の兄が作戦中に行方不明になったことも知っている。



「お前の言う悲劇とは何だ?当時の作戦は失敗したと聞いていたが、何かあったのか?」


「いや…お前達の作戦は成功した。決して失敗ではかったのだ。」



失敗ではない?


どういうことだ?



5年前なら俺もアストリアに滞在していたが、

王都にはいなかったから何の情報も持っていない。



だが、何かがあったのは間違いないらしい。



朱鷺田は何かを隠していたのだろうか?



…いや。



あるいは朱鷺田も知らなかったのかもしれない。



朱鷺田は王都から撤退している。



その時、多くの仲間を失ったと言っていた。



だが、これが間違いだったなら?



失ったのではなく、

別行動をとっていたのだとしたら?



撤退組と作戦遂行組に分かれていたのだとしたら?



朱鷺田の知らない間に何らかの作戦が実行されていたとしても不思議ではないのかもしれない。



「王都で何があった?」



改めて問いかけてみると、

阿久津は落ち込んだ表情を見せながら即座に事実を答えた。



「察するにお前は何も知らないようだが、奴らは『王族の暗殺』を成功させたのだっ!!」



力を込めて叫ぶ阿久津が当時の真実を語りだす。



「お前は潜入部隊の目的を知っているか!?いや…知りはしないのだろうな。失敗などと口走るようでは何も知るまいっ!あの作戦は調査などではない!最初から!共和国は最初から『王族の暗殺』の為に兵を用意していたのだ!!」



…暗殺のためだと!?



そんなことがありえるのだろうか?



違和感…いや、疑問を感じてしまう。



美由紀の性格なら面倒事を排除しようという考えも理解できなくはない。


必要であれば暗殺も躊躇わないだろう。



だが5年前の話なら、

まだ代表に就任していないはずだ。



…それに。



そもそも王族の暗殺は最善手とは言えない。



一時的にアストリアを混乱させることができたとしても共和国の安定に繋がりはしないからな。



それどころか今の状況のように、

戦争という最悪の局面を招く最悪の一手と言える。



そんな危険な判断を美由紀がするとは思えない。



そしてそれは米倉宗一郎も同じだ。



戦争を回避する為に和平を望み続けていた宗一郎が王族の暗殺を企むだろうか?



どう考えても不自然だ。



暗殺を指示するようには思えない。



だとすれば、マールグリナの独断か?


琴平重郎ならありえるのだろうか?



5年前に琴平重郎が知事を務めていたかどうかは知らない。



もしかすると琴平重郎とは別の人物が知事を務めていて、

独断で部隊を動かしていた可能性があるかもしれない。



いや…そもそもの前提として、

潜入部隊の一員だった朱鷺田が暗殺の事実を知らなかったからな。



真の作戦を理解していたのは

部隊の中でもごく一部の限られた魔術師だけだった可能性もある。



「あの事件で前国王の照栄しょうえい様は愛する家族を失うことになった。かけがえのない伴侶を失い。何人もの子を失った。お前が王都で殺したであろう現国王は照栄様の3番目のご子息であり、お世継ぎとしてただ一人の生存者だったのだ。そして共和国へ使者として向かったのは幸長ゆきなが様のご子息であり、第一王子の国定くにさだ様だったのだ!国定様は死を覚悟の上で共和国に向かったのだ!自らの命と引き換えに、宣戦布告を告げる為にな!」



…ああ、なるほどな。



懸命に語る阿久津の言葉を聞いて、

ようやく全てが理解出来た。



それは5年前の事件の真相だ。



朱鷺田は何も知らなかったのかもしれない。



本当の目的を…だ。



王族の暗殺という目的に、

朱鷺田は関わっていなかったのだろう。



だが三倉純の兄である三倉健一は、

本来の目的の為に王城に忍び込んだ。



おそらくは僅かな仲間と共に王城に忍び込んで王族の暗殺を行ったのだろう。



作戦は部分的に終わってしまい全滅には届かなかった。



だが数名の王族が死亡した為に完全な失敗とも言い切れない。



『暗殺が成功する』ことを実証しただけでも十分な価値はあるからな。



そしてその考えこそが、

この戦争の発端だったのだろう。



「お前達はその力で暗殺を成功させてしまった!王城の警備を突破し、暗殺を成功させたのだ!!お前達、魔術師という存在は明らかに人を越えた力を有している!!それは我ら陰陽師が束になっても敵わないほどなのだからな!!」



阿久津は魔術の危険性を指摘した。



「お前達の力は危険過ぎる!多くの人間を一瞬にして滅びへと導くその力はまさしく悪魔の力だ!!お前は何故、『魔術という力』にその名が付けられたのかを知っているか!?」



名前の由来か。


特に考えたことはないな。



問い掛ける阿久津だが、俺はまだ知らない。



そもそも魔術という力の使い方も。


その意味さえも。


ほんの2週間ほど前までは、

何も知らないような状況だったからだ。



学園で多くの事を学び。


実践で培ってきただけだ。



名前の由来までは考えてはいなかった。



「何も知らぬか…ならば教えてやろう!その名はお前達『魔術師』が付けたのではない!その名は、その力を恐れた『力無き人々』が恐怖の意を込めて名付けたのだ!人を越えた悪魔の力!その悪魔の力を使うすべを魔術と呼び。その力を使う者を魔術師と呼んだことが始まりなのだ!」



魔術の名の由来。



それは力を『持つ者』が名付けたのではなく、

力を『持たない者』が恐怖の代名詞として名付けた。



それが『魔術』



だからこそ魔術は恐怖の象徴であり、

この世界の恐怖そのものということだ。



その結果として。


魔術を使う者は悪魔に等しい存在として、

魔術師と呼ばれるようになったらしい。



…より正確に表すなら。



悪魔術師と呼ぶべきか。



それがこの『世界』の現実なのだろう。



そして同時に。



魔術師が殺されている理由でもある。



「その力は人を越えた存在だ!魔術は奇跡を起こすと同時に、世界に等しく恐怖を与えた!人の意思に応じて、あらゆる奇跡を起こすその力は、神に等しく、そして悪魔にも等しい!」



神でもあり悪魔でもある存在。



…その言葉には。



何故か悲しみが込められているように感じられた。



何か思うことがあるのだろうか?



「その力を善として使う者がいることは我等も十分に理解している。だが、その力を悪として使う者がいることもまた事実なのだ!!この世界を恐怖で支配しようとしている魔術師がいるのだっ!その事実が有る限りっ!!我等は戦わねばならん!!」



…支配を企む魔術師か。



いない…とは言い切れないのだろうな。



必死に叫ぶ阿久津の言葉には、

確かな絶望が感じられるからだ。



理由はまだ不明だが、

阿久津は何かを知っているのだろう。



絶望と呼ぶべき何かを経験しているようだ。



「お前も…誰かを失ったのか?」


「…故郷とも言うべき村を魔術師によって襲われた。愛する家族はみな殺され…。友人達もみな死んだ。魔術という名の悪魔の力に魅入られて狂った魔術師達によって…みな殺されたのだ。」



そこまで答えてから、

阿久津は悔しそうな表情を見せながら事実を告げてきた。



「男達は惨殺され、女達は…全てを奪われた。人としての尊厳も、誇りも、生きる意味も、全てだ!!お前にはこの気持ちが分かるか!?使い捨てられた娘の遺体を見せ付けられた時のこの気持ちが!お前には分かるかっ!?」



………。



必死に訴える阿久津の悔しさと絶望。



その気持ち、その悲しみには、

俺でさえ同情を感じてしまうほどだった。



だが、謝罪はしない。



俺は知っている。



絶望を生み出しているのは、

アストリア軍も同じだと知っているからだ。



「だから構わないと言うのか?だから何をしても良いのか?奪われたからといって、奪ってもいいのか?」



アストリア軍が起こしている悲劇を俺は知っている。



「お前達がしていることを俺は知っている!俺の村を襲った時に、お前達は何をした!?俺は知っている!お前達がしたことの全てをだ!!」



今度は俺が15年前の事実を突き付ける番だ。



「お前達は俺の村で何をした!?魔術師ではなく、多くの一般人を殺し尽くしたことを忘れるな!村を焼き、全てを奪った事実を忘れるなっ!!」



アストリアの掲げる『正義』



それが理解出来ないとは言わない。



だがアストリア側も自らの目的の為に不要な虐殺を行っていることも事実なのだ。



「…間違えるな。罪を犯したのはお前達も同じだ!」



本来なら俺の生まれ育った村が襲われる必要はなかった。


焼き討ちによって滅ぶ理由はなかったのだ。



「言ってみろ!?お前達は一体、誰を殺した!?」



「………。」



阿久津は何も答えない。



いや、答えられないのだろう。



犯した過ちを知っているからこそ、

反論できないのだ。



「答えられないだろう。お前達は魔術師ではない一般人を虐殺したのだからな!」



俺の生まれ育った村に魔術師はいなかった。



結果的に俺は魔術師として成長したが、

当時の俺は魔術を知らず、

扱えることにさえ気づいていなかった。



そして俺の父である天城総司も魔術師ではなかった。



俺もまだ幼かったためにはっきりとは覚えていないが、

父は剣士としては一流だったかもしれないが魔術師ではなかったはずだ。



現に村の防衛戦においても、

父は剣一本でアストリア軍と戦っていた。



魔術や陰陽術などという特殊な力は何一つ使っていなかったのだ。



それは他の村人も同様で、

魔術を使えるものは一人もいなかった。



…つまり。



あの時点で俺の村に魔術師はいなかったのだ。



もちろん母も魔術師ではない。



ごく平凡な漁師の娘でしかなかったはずだ。



少なくとも俺の知る限り、

村に魔術師は一人もいなかった。



それなのに。



突然軍隊が村を取り囲み、

魔術師狩りを宣言したのだ。



逃げ出すことも、

話し合うことも許さずに、

アストリア軍は村を滅亡に追い込んだ。



その事実を俺は身をもって経験している。



「何故、俺の村を襲った?」



問い続けたことで、

阿久津は静かに答え始めた。



「魔術師が潜伏しているという情報があったからだ。結論から言えばそれは敵対する魔術師達が流した虚言だったようだが…あの時点では、その情報を信じて動くしかなかったのだ。」


「何故、噂を信じた?」


「周辺の村にはいたのだ。魔術師の存在が確認できていた。だから今回も間違いないと判断したのだ。」


「だが、偽りだった…か。」


「ああ、そうだ。少なくとも米倉宗一郎はあの場にいたが、たまたま通りかかっただけなのだろう。あの男は各国を渡り歩いていたからな。どこにいたとしても不自然ではない。」



…宗一郎か。



確かにあの男だけは村で唯一の魔術師と言えるだろう。



だが、宗一郎は村の住民ではない。



そもそも旅の途中で立ち寄ったような存在だ。



なにより共和国以外では魔術師という情報を隠して行動しているはずだからな。


村の外へ情報が漏洩することもなかったはず。



少なくとも宗一郎が訪れた当日に情報が漏洩するなどありえない。



仮に情報が流れたとしても、

部隊を編成して派遣するまでに数日の期間が必要になるはずだ。



だが、宗一郎の訪れから僅か数時間で村が攻撃を受けたことを考えれば、

宗一郎が訪れる以前から準備を進めていたのは間違いないだろう。



何故、魔術師が潜伏しているという情報が流れたのかは疑問に感じるが。


そもそもの問題は『存在しない魔術師を殺すため』に村を壊滅させたという部分だ。



その罪は決して消え去ることはない。



「米倉宗一郎以外に魔術師はいなかった。だがそれでもお前達は村の焼き討ちを強行した。」


「ああ、そうだな。お前の言うように無駄に命を奪ったことは事実だ。それは素直に認めよう。だが我等には真偽を確かめる方法がないのだ。力付くで押さえ付けて魔術を使うかどうかを直接確かめるしかない。だからこそ、間違いも起こりえる。」



阿久津は素直に間違いを認めた。



だが、だからといって全てが許されるわけではない。



奪われた者にとっては、

その一言で許せる問題ではないからだ。



「お前達が何をしようと興味はない。俺はただ…お前達が滅べばそれで良い。」



アストリアの滅びを望み、

その為の復讐を願う。



「お前達が死ねば俺の目的は終わる。」


「いいや…終わりはしない。奪い、奪われ、殺し合う。お前もその負の連鎖にいるのだ。我らを殺したところで戦いが終わることはない。お前自身が生きている限り、お前もまた狙われる立場になるのだからな。」



…負の連鎖か。



確かにそうかもしれない。



「そんなことは分かっている。」



だからこそ俺は正義を語らない。


語るつもりもない。



「俺は俺の目的の為に戦うだけだ。」



ただ一つの復讐という目的の為だけに戦う。



…それが俺の覚悟だ。



目的さえ果たせたなら、

無理に生きながらえようとも思わない。



ここに至るまでに多くの犠牲を出しているのだ。



いまさら生き延びたいなどと思いはしない。



「全てが終わったら俺も死ぬ。それで全てが終わる。」



終焉を告げる俺の言葉を聞いて、

阿久津は深くため息を吐いていた。



「まだ分からぬようだな。その考えが危険なのだ。お前の生死など問題ではない。自らの目的の為だけに人を越えた力を扱うお前達の存在そのものが、世界を恐怖で塗り潰そうとしているのだ!」



人を越えた力だと?


だとすれば陰陽師は何だ?



「俺達の存在が危険だと言うのならば、お前にも答えてもらおう。お前達『陰陽師』の持つ力は『魔術師』と何が違う?その力は『魔術』と何が違う?」


「才能であるかどうか、という違いだ。」



俺の問い掛けに対して阿久津は才能と答えた。



「陰陽師とは才能でなりえるものではない。」



もちろん陰陽師の中でも優劣の差はあるだろう。


そこは才能の差と言えるはずだ。



だが問題はそこではない。



「陰陽術とは持って生まれた才能などではなく、厳しい修練を乗り越えて身につけられる技術なのだ。世界の『理』を知り、その力を『操る術』を学ぶ。それが陰陽術であり、その力を扱う者を陰陽師と呼ぶ。」



…技術か。



言い方を変えるなら職業といってもいい。



「決して才能だけで扱える理不尽な力などではないのだ。だが、お前達『魔術師』は根本的に違う。」



…そうだな。



願うだけで世界の『理』を塗り替え、

現実に干渉出来てしまうからだ。



「お前達のその力は無秩序そのもの。善悪の判断さえつかない子供でさえも人を殺せる力を扱えてしまえるのだからな。」



…だろうな。



事実として俺自身がそうやって生きてきた。


4、5歳の子供でさえ罪人になり得るのだ。



「その意味が分かるか?魔術という力は他者を支配出来る力であり、その存在は無秩序であるが故に制御ができない。ゆえに…力なき者にとっては恐怖の象徴でしかないのだ。」



持って生まれた才能と、

努力によって手に入る技術。



それが違いだと阿久津は答えた。



つまり。



陰陽師とは修練の積み重ねによって、

特殊な技術を扱える職業であり。


魔術師は魔力という才能によって、

願うだけで人を越えた力を扱える能力者。



それが陰陽師と魔術師の違いということだ。



そしてそれは『秩序』と『無秩序』の違いだと表現した。



組織に属する陰陽師とは違い。


魔術師は個人の判断で行動する。



ある程度の知識と想像力さえあれば、

誰かに学ばずとも魔術師は魔術を扱えるからな。



俺がそうであったように、

自身の意思に応じて発動する力。



その効果は様々だが、

魔術師は独自の理論を組み上げて自分の想う『世界』を作り上げる。



それは願うだけで瞬時に人を殺せる力だ。


それは願うだけでどんな傷も癒せる力でもある。


それは願うだけで現実に干渉出来る力であり。


それは願うだけであらゆる想いを叶える力となる。



それが魔術だ。



数千数万の命を一瞬で奪うことも出来れば、

瀕死の重傷を一瞬で治療することも出来る。



ただ願うだけで、あらゆる奇跡を起こせてしまう。



それが『魔術』



だからこそ『人を越えた力』であり。



『神にも等しい力』でもある。



…と、同時に。



『悪魔にも等しい力』でもあるのだろう。



使う者の判断一つで、

世界を揺るがすことの出来る力だ。



俺や御堂のように、

たった一人で軍を相手にしても勝ててしまう理不尽な力。



その存在に歯止めは効かず。


阻止する術もない。



だからこそ誰にも止められない力なのだろう。



それが魔術を脅威と呼ぶ理由だと阿久津は説明した。



「お前達の力は世界を支配出来る力だ。それだけの力を、お前達は個人の意思で使おうとしている。その危険性こそが、魔術師が恐れられ忌み嫌われる理由なのだ。」



…危険性か。



それは確かにあるだろう。


何を言われても反論はできない。



だが、だからこそ疑問も感じてしまう。



「確かに魔術は危険な存在かもしれない。魔術師でない者達にとっては恐怖の対象という考えも理解できる。だがやはりそれはお前達も同じはずだ。」



他者を支配できる能力は魔術師も陰陽師も同じはずだからな。



「陰陽師の中でも道を踏み外す者はいるだろう。その力は人を苦しめて支配するに足りる力だ。だとすれば、お前達『陰陽師という存在』も力無き者達にとっては恐怖であるはずだ。」



魔術師だけが恐れられる理由にはならない。



陰陽師も危険な存在であるはずだ。


その疑問を阿久津は素直に認めた。



「確かに陰陽師の中にも力を悪用する者はいる。力に魅入られて道を踏み外す者はいる。だがそれはごく一部だけだ。陰陽師という組織からはぐれる陰陽師は、それ相応の処分を受けることになる。その力を悪用させない為に、全ての陰陽師は組織として管理されているのだ。だが、お前達魔術師は違う。個人で行動して自らの考えで力を扱うお前達は誰の制約も受けない。それこそがお前達の罪なのだ。歯止めの効かない力など害悪でしかないからな。」



組織と個人…か。



確かにそういう意味では違いがあるだろう。



共和国国内においては組織的な行動が求められるとは言え、

共和国国外においての強制力は何もない。



組織に属さずに、

独自の判断で動く魔術師は数多くいるだろう。



その魔術師達が私利私欲に走り。


多くの罪を重ねているという現実がアストリア王国を狂わせてしまった原因ということだ。



「…もう十分だろう?」



呟いた阿久津の瞳には失望感が漂っている。



「これ以上話し合っても解決などしないのだ。互いの理想の為には戦うしかない。魔術師が滅ぶか、我等が滅ぶか。たどり着く答えはどちらか一つしかないのだからな。」



話し合いを放棄した阿久津が錫杖を高々と掲げる。



「力無き人々の為に我等はこれからも戦い続けるのみ!!この世界から魔術師という恐怖を取り除くその日まで!我等は戦い続けるしかないのだ!!」



力による解決を願った阿久津は、

錫杖を力強く握り締めて想いの全てを力に込めた。



「…天城の血を受け継ぐ者よ。強大過ぎるお前の力は確実に世界に影響を及ぼすだろう。だからこそ、そうなってしまう前に!被害を未然に防ぐ為に!ここでお前を殺す!!全てはこの世界の平和の為だ!悪いがお前には死んでもらう!!」



力を込める阿久津の手の錫杖が激しく輝きだした。



「この命と引き換えに…お前だけは確実に消し去る!それがこの世界の為なのだ!!」



光り輝く錫杖。


その光が収束すると同時に光が放たれる。



「この光は破邪の光!消え去るが良いっ!!秘技!不知火しらぬい!!!」



錫杖から放たれた光が、

炎となって襲い掛かってくる。



「…炎か。」



見覚えがある術だった。



だがそれは村を焼き払った炎などという話ではない。



…この炎で。



阿久津が生み出した炎で父は殺されたのだ。



「この炎だけは…忘れはしない。」



小さく呟いてから、

迫り来る炎を神剣で切り裂いた。



力を込めて振り抜く刃が炎を切る。


ただそれだけで、炎はあっさりと消え去った。



「ば、馬鹿な!?我等陰陽師の秘術がっ!?」



驚き戸惑う阿久津だが、

その間に距離を詰めていく。



「陰陽術の『理』。その力を逆算すれば相殺は簡単なことだ。『五行相剋』を理解しているのは、お前達だけではない。」



神剣構えて阿久津の体に狙いを定める。



「例えその命は失われようとも…『常盤沙織』の意思は受け継がれる。」



死してもあとを継ぐ者がいる限り!


受け継がれる意志が在る限り!



「魔術師が滅ぶことはない!!」



宣言する俺の神剣が阿久津を捉えた。



「…消え去るのはお前だ。」



手加減なしの一撃。


神剣の刃は僅かな乱れもなく阿久津の体を切り裂いた。



「ぐっ!ぐぁぁぁぁっ!!!!」



神剣の一撃を受けて叫び声を上げる阿久津の体は大きく切り裂かれて多量の血が溢れ出した。



「がぁぁぁぁっ……!」



地に伏して苦しむ阿久津。


その首元に狙いを定めて再び神剣を振り下ろす。



「これで俺の復讐は終わる。」


「くっ…終わりはしない…!お前達が存在する限り…戦いは終わらないのだ…っ!」



…戦いか。



興味がないとは言わないが、

今の俺にはどうでもいい話だ。



「お前さえ死ねばそれでいい。」



阿久津の首を切り落とす。



「………。」



切り裂かれた頭部が胴体から離れたことで、

ついに阿久津信成あくつのぶなりも死を迎えた。



…これで。



これでようやく俺の復讐は終わったことになる。



アストリアの王族は滅び。


倒すべき最後の一人だった阿久津も死んだのだ。



これで全てが終わったと言えるだろう。



俺の目的である『復讐』の全てが果たされた。



俺の両親を殺して村を焼き払ったアストリア軍の大半が失われ、

残る陰陽師達もすでに御堂の手で壊滅しようとしているところだった。



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