男子寮
「…ふう。」
今日はかなり歩き回った気がするが、
ひとまず男子寮にある自室にたどり着いた。
検定会場を離れてから、
すでに1時間以上が経過しているだろう。
先に夕食を済ませてから寮に向かったために時間がかかったのだが、
食事のあとは寄り道せずに12棟ある男子寮の一つに用意されている自室に入った。
…ここが俺の部屋か。
当然だが他には誰もいない。
すでに監視者の気配も完全に消え去っている。
寮に入った直後に気配を感じなくなったことを考えると、
内部まで追ってくるつもりはないらしい。
学園の寮は全て個室だが、
風呂とトイレは各階毎に共同だからな。
監視する機会はいくらでもあるはずだが、
そこまで徹底するつもりはないようだ。
直接干渉してこないことを考えると、
人間性の確認よりも実力の調査と考えるべきだろうか。
俺の過去や人間性を知るための監視ではなく、
新入生首席の実力を探るためだと考えた方が良いかもしれない。
必要に応じて追跡するかもしれないが、
基本的には検定会場での試験内容の調査が優先だと思われる。
だとすれば検定会場に先回りされていた理由も説明がつくからな。
俺が試合をした場合に備えて待機していたのだろう。
ということは。
当然、明日もあの会場で監視される可能性が高い。
俺と監視者。
両方の目的地が共通しているからな。
24時間追跡する必要はないと判断されているのかもしれないな。
だから室内での盗聴も必要ないという判断だろうか?
自室に入ってからすぐに上下左右に隣接する各部屋を警戒してみたのだが、
壁や天井の強度を考慮すると盗聴の危険性はなさそうに思える。
絶対にないとは言い切れないが、
調べても気づきにくいほど特殊な仕掛けがあるとは考えにくい。
そこまで神経質になって気にする必要はないだろう。
学園の寮は各階100人ずつの6階建て。
俺の部屋は8番目の男子寮の3階になっているのだが、
そもそも部屋割りは学園が決めたものだからな。
意図的に罠を仕掛けることは容易だと思うが、
そこまでするくらいなら
もっと別の方法があるはずだ。
ひとまず罠はないと考えることにした。
それに数千人もの生徒が利用する寮だからな。
部屋そのものは小さめだが、
騒音による騒ぎを回避するために防音効果は万全のように思える。
実際に感じる範囲で言えば隣の部屋の物音一つ聞こえないからな。
わざわざ自室内で息を潜めて行動しているとは考えにくい、
しっかり防音機能が働いていると考えるべきだろう。
適当に荷物を置いてから、
改めて室内を見回してみる。
あるのは備え付けのベッドと引き出し付きの簡易的な机だけだ。
そんな質素な部屋でやるべきことは特にない。
部屋の隅にある机に手荷物を並べ、
明日のための着替えを用意しただけでやることがなくなってしまった。
…さすがに初日はこの程度だろう。
良くも悪くも出来ることは限られているからな。
最低限の情報を得られただけで良しとするしかない。
…今日の調査は十分だ。
そっと目を閉じて今後の方針を考えてみる。
まずは肝心の試合に関してか。
検定試合において自分よりも格下との試合は1日1回限り強制力を持つらしい。
相手から試合を申し込まれれば断る事が出来ないため、
無条件で試合を組まれてしまうことになる。
この制度は長所でもあり、短所でもあるだろう。
もしもこの制度がなければ格下が格上に挑むことが難しくなるからな。
上位を目指したくても対戦相手に嫌だと言われて相手にされなければ試合にならない。
その状況を回避する為に。
この制度を利用することで強制的に上位の生徒と生徒番号をかけた試合ができるようになる。
とはいえ、強制は一戦だけだ。
何度も格下を相手にする必要はない。
おそらく連戦による虐めまがいの試合が起きないようにする為の措置だろう。
反対に格上との試合は何度でも出来るようになっている。
敗北しても失うものはないが、
敗北直後に格下から挑戦を受けた場合、
さらに敗北して番号を奪われる可能性はある。
もちろんその程度なら翌日に再戦して番号を取り返せばいいだけだ。
あまり難しく考える必要はないだろう。
問題はどの程度の試合が出来るかだな。
格上に挑戦しようとしても先に誰かが挑戦してしまったら格下1日1回の条件により挑戦を回避されてしまうかもしれない。
かといって、より上位の生徒に挑んで勝てるかどうか。
そのあたりは一度でも試合をしてみないと
どの程度の実力差なのかを想像するのは難しいな。
…実際に戦ってみるしかないか。
そこまで考えてから、今日は早めに眠りにつくことにした。




