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ホメオスタシスは、今日も眠ってる  作者: 紅月ヨルカ


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9/12

油断

「ふぅ〜、さっぱりした〜」


髪を拭きながら、海斗はドッペルの前に戻ってくる。


「まだ寝るには早いしさ。夜中にお腹空いても困るでしょ?

一緒にテレビ見ながら、お菓子でも食べない?」


そう言って、ドッペルはチョコを差し出した。


「いや……夜は食べるなってルールが……」


一瞬迷ってから、海斗は断る。


「大丈夫。まだ18時だよ? 全然セーフ。コーヒーでも飲みながら今後について話そうよ」


こたつを軽く叩いて誘ってくる。


「今後も何も、さっさと消えてほしいんだけど……まあ、少しだけな」


やれやれと思いながら、海斗はコーヒーを淹れた。

二人でテレビを眺めながら、チョコをかじる。


「やっぱ我慢した後のお菓子って美味いな〜」


「君はまだ我慢してないよ。

食べ放題行って、帰ってきて、チョコ食べてるだけだ」


「ああ、今から我慢タイムだし。今はいいんだよ」


そう言って、海斗はドッペルの頭を軽く撫でる。


「……触るな」


鋭い視線だけ向けて、ドッペルはそれ以上何も言わなかった。


「ルールなんて楽勝だって」


余裕の笑みを浮かべ、コーヒーを飲み干す。



時計が21時を回った頃、海斗は立ち上がった。


「じゃ、そろそろ寝るかな。もう食べたら駄目な時間だし」


「随分あっさりだね今後の話もしてないよ?」


「テンポだよ、テンポ」


さっさと立ち上がり適当に手を振る。


「とりあえず寝る。おやすみ〜」


「……寝れたらいいね」


ドッペルはポテトチップスを開けた。


ベッドに横になると

隣からテレビの音と笑い声が聞こえる中、

海斗は布団でスマホをいじっていた。


気づけば、音は消えている。

部屋は静まり返っていた。


時計を見ると23時。


「……もうこんな時間か」


横になり、目を閉じた瞬間、

腹の奥で小さく音が鳴った。


(気のせいだ)


そう思い、眠りに落ちる。



目を覚ました海斗は、枕元の時計を見る。


(……まだ一時間?)


妙な違和感。

重たい。腹の上に、何かがある。


視線を落とすと、ドッペルが丸くなって眠っていた。


「おい……人の腹の上で寝るなよ」


声に反応して、片目が開く。


「うるさいな。

せっかく寝て“あげてた”のに」


ドッペルは起き上がり、部屋を出ていく。


「残りのお菓子、全部食べるから」


(……ほとんど残ってないだろ)


ため息をついた瞬間、

腹の違和感が消えていないことに気づく。


次の瞬間――


ぐぅぅ……。


静かな部屋に、やけに大きな音が響いた。


(嘘だろ……約束は守った。

食べ放題も行った。コーヒーも飲んだ……)


なのに、空腹だけが引いてくれない。


隣の部屋から、

ボリ、ボリ、と咀嚼音が聞こえてくる。


テレビがつき、

間の悪いことにハンバーガーのCMが流れた。


(……今それ流す?)


紙袋を開き、

バーガーにかぶりつく自分の姿が浮かぶ。


一度浮かんだイメージは、止まらなかった。



海斗はそっと立ち上がり、上着を羽織る。


(寝付けないだけだ。少し外の空気を吸うだけ)


玄関へ向かった瞬間、背後から声がした。


「どこ行くの?」


肩が跳ねる。


「ちょっと……寝付けなくて。すぐ戻る」


ドッペルはじっと見つめ、にこっと笑った。


「ふーん。気をつけてね」


そして、低く付け足す。


「……約束は守ってよ?」


「わかってるって」


海斗は靴を履き、外へ出た。


――玄関の扉が閉まる。

その瞬間、テレビの音が消えた。


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