食い溜め
急な休みになった(仕事だと思い込んでいただけ)の海斗は、普段着に着替えて一人で考え事をしていた。
(せっかくの休みだし、どこか行くかな〜?
夜中に食べるなってだけだし、今のうちに食い溜めでも……)
「あ!そうだ、いっそのこと食べ放題で夜まで食べるとか。
うんうん、いいアイデアだ。いっぱい食べて夜まで食い溜めしとくか!」
そう言って、海斗は一人でニヤついた。
その時、ドッペルは横になったまま、感情のない声で言った。
「その考えは捨てた方がいいと思うよ。
そもそも“食い溜め”なんてものはないんだ」
安易な考えを一蹴され、海斗はムッとして言い返す。
「うるさいな。人のことなんて興味ないくせに。
いいだろ、いっぱい食べたら満足して朝まで寝れる。
ルールも守れるし、最高じゃん」
ドッペルは興味なさそうに目を閉じた。
「はいはい。どうでもいいけど、お菓子が少ないから補充よろしく。
それぐらいしか価値がない存在なんだから」
「あのな……その価値がない存在から生まれたお前は何なんだよ」
吐き捨てるように言いながらも、海斗は靴を履く。
「まあいい。俺も食べるし、買ってくる。
勘違いするなよ、お前のためじゃないからな」
玄関が閉まる音を聞きながら、ドッペルは薄く笑った。
「……いつまで続くかな」
そして、ほとんど音にならない声で囁く。
「そうやって壊れていくんだよ、君は」
⸻
海斗が食べ放題の店に着いたのは、オープン前だった。
「……14時開店?」
10時前から周囲をうろつき、気づけばかなり歩かされていた。
(まあ、その分腹も減ったし悪くないか)
開店と同時に入店し、二時間コースを選ぶ。
「野菜は後回しだな。肉とカレーでいくか」
空腹のまま、考えるより先に皿を運び続けた。
時間が過ぎ、腹を押さえながら席を立つ。
「……さすがに食ったな」
デザートを済ませ、最後にソフトクリームを口に入れて店を出た。
⸻
帰りにコンビニへ寄り、袋を提げて帰宅する。
(これだけ食べたんだ。
夜中に腹が減ることはないだろ)
玄関を開ける。
「ただいま。腹一杯食ってきたぞ」
袋を見せると、ドッペルは珍しく身を起こした。
「おかえり。ちゃんと買ってきてくれたんだ」
両手を差し出す。
「ああ、仕方ないからな」
少し苛立ちを含んだ声で、お菓子を渡す。
「……ドッペルは拒否したはずだけど?」
そう言いながら、もう袋は開いていた。
「まあ言うだけ無駄なことだよねセンスないし」
チョコを齧りながら、ため息をつく。
「ちゃんとルールは守ってね。
本当に、大変なことになるから」
「はいはい」
海斗は適当に返事をし、手を振った。
「風呂入って寝る。
起きてても腹減るだけだし」
「まだ18時だけど?」
呆れたように背中を見送る。
ドッペルは何も言わず、ポテトチップスを噛み続けた。




