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ホメオスタシスは、今日も眠ってる  作者: 紅月ヨルカ


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3/12

黒猫

部屋に戻り、テレビの前に座る。

リモコンを手に取り、意味もなくチャンネルを変える。バラエティの明るい声が流れているのに、内容はまるで頭に入ってこなかった。


画面を見ているはずなのに、視線はどこにも定まらない。

気づけば、テーブルの上にあったポテチを掴んでいた。歯磨きをしたばかりだということは思い出したが、どうでもよかった。口に放り込み、無意識に噛む。


ボリ、という音だけがやけに大きく感じられる。


別にテレビを見たいわけじゃない。

ポテチが食べたいわけでもない。

ただ、何かをしていないと落ち着かなかった。


しばらくして、それが急に馬鹿らしくなる。

海斗はテレビを消し、袋に残っていたポテチを一気に口へ流し込んだ。そのまま立ち上がり、寝室へ向かう。


電気を消し、ベッドに横になる。

目を閉じると、部屋は驚くほど静かだった。


――と思った。


暗闇の中で、ボリボリという音が聞こえる。

自分のものじゃない。そう思った瞬間、腹の奥がずしりと重くなった。胃が沈むような、不快な感覚。


音が、止まる。


海斗はすぐに目を開けなかった。

ほんの一拍置いて、うっすらと瞼を持ち上げる。


視界の端に、黒い影があった。


ベッドの脇。

そこに、見知らぬマスコットのような黒い猫が座っている。丸く、太っていて、こちらをじっと見ていた。


息を吸おうとして、体が動かないことに気づく。

腕も脚も、鉛を流し込まれたみたいに重い。


黒猫が、口を開いた。


「お疲れ、海斗。とりあえず、ポテチ食うか?」


短い前脚で、袋を差し出してくる。


「うわぁぁ!! なんだお前!!」


声は出た。

それだけで、少し安心してしまう。


「落ち着いて。ほら、薄塩だよ?」


「いや……何を言ってるんだ……?」


「食べたいなら食べなよ。我慢は良くない」


「待て。そもそもそれ、俺のじゃ……? って、は? ふざけんな。明日食べようと思ってたやつなんだけど!?」


「好きだよね、薄塩。まだストック、いっぱいあるよ?」


「好きだから買ったんだよ! つーか誰なんだよ! まさか願いを一つ叶えてくれるやつか? じゃあ……願いを無限にしろ!」


「それは無理だね。君にそんな力があったら、もう使ってるでしょ」


「なにぃ? じゃあ何しに来たんだ。金欠だし、養う余裕もないぞ。よそに行け!」


黒猫は袋を抱えたまま、首を傾げる。


「そんなに警戒しなくていいのに。ほら、君と一緒で太ってるでしょ?」


「はぁ!? 太ってねぇし! 俺は普通だし!……でもお前の方は太ってるな。マスコットなら、その方が可愛いけど」


「自分に“可愛い”って言うの、わりとキモいからね」


「俺にじゃねぇ! お前に言ってんだよ!」


黒猫は返事をせず、にやりと笑った。

その笑みが、なぜかやけに腹に落ちた。


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