違和感
くそ、上司。
昼に寝ていたのは悪かったかもしれない。
でも、あんな言い方をされるほどのことか?
心配の一言くらいあってもよかっただろ。
胸の奥がざらついたまま、海斗はコンビニへ向かった。
歩幅が妙に大きくなっているのを、自分でも分かっている。
止める理由も、戻る理由もなかった。
「今日はヤケだ。全部買ってやる」
弁当を二つ。
デザート。
唐揚げを六個。
冷たい炭酸と、甘いラテ。
レジの電子音がやけに軽快で、腹立たしかった。
袋を受け取った瞬間、もう家の玄関を思い浮かべていた。
帰るなり、箸を取る。
唐揚げを一つ口に入れた時点で、数を数えるのをやめた。
噛んでいるのか、飲み込んでいるのかも曖昧になる。
味はしていた。
でも、満足した記憶はない。
最後にラテを流し込み、甘さが口の中に残ったまま歯を磨く。
泡の向こうで、鏡の中の自分がこちらを見ている。
(昼に寝たから今日は眠くない。大丈夫だ)
(明日も……いや、明日はちゃんとやる)
そう言い聞かせた、その瞬間。
鏡の中の自分が、
ほんの一瞬だけ、
妙に作られたような笑みを返した――気がした。
目を逸らせば消えそうな違和感だった。
だから、確かめなかった。
海斗は振り返らず、そのまま洗面所を出る。
歯磨き粉の匂いだけが、やけに長く残っていた。
まだ何も、始まっていない。
少なくとも、海斗はそう思っている。




