表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホメオスタシスは、今日も眠ってる  作者: 紅月ヨルカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

変化

あのしんどい状況からなんとか抜け出して、ようやく普通の日常が戻ってきた。


風呂上がり、曇った鏡をタオルで拭うと、少しだけ引き締まった自分の腹回りが映る。

以前は目を逸らしていたその鏡を見るのが、最近はちょっとした楽しみになっていた。


ベルトの穴も一つ縮んだし、階段を上っても息が切れにくい。

それが嬉しくて、帰り道に遠回りして歩いたり、部屋で軽く筋トレをするのも習慣になりつつある。


玄関を開けると、夕方の冷えた空気と一緒にテレビの笑い声が聞こえてくる。


「ただいま〜……」


仕事終わりの疲れをそのまま引きずりながら部屋に入ると、


「ああ、おかえり。ポテチは買ってきたかい?」


当たり前のようにコタツに寝転がっているドッペルが、テレビを見ながら言った。


「なんか回想してるところ悪いけどさ、ポテチある? 他のお菓子でもいいけど。まさかないのか?」


言うが早いか、ドッペルは尻尾を揺らしながら近づき、勝手にエコバッグを漁り始める。


袋の中から目的のポテチを見つけると、満足そうに鼻を鳴らしてそのまま部屋へ戻っていった。


「あるなら最初から言いなよ。ちょっと痩せたからってケチだなー」


嫌味を残しながら。


でもその言葉は、全然嫌味には聞こえなかった。


むしろ――


「ドッペル〜やっぱりそうか!俺、痩せたよな〜!」


嬉しさのあまり背中に抱きつき、腕や肩をベタベタ触りながら聞く。


「な、なんだその反応は……気持ち悪いな〜」


若干引きながらも、


「うん、まあ痩せてきたんじゃない? だけど油断したらダメだよ。こういう時が――って聞いてないのか……」


とポテチを齧る音だけが静かに部屋に響く。


テレビのバラエティの笑い声と、袋を擦る音が混ざる。


「最近さ〜、自主的に筋トレとかしてるけど、何があったんだい?」


ドッペルが口いっぱいにポテチを詰めたまま聞く。


「うん?聞きたいか? 実は職場でさ――」



数日前


「えっ! 相沢くん最近痩せてきたんじゃない?」


職場の休憩室。

コーヒーの匂いとコピー機の音が混ざる中、急に声をかけられて思わずむせそうになる。


「い、いや〜そんな事ないと思うよ? 何もしてないし」


慌てて誤魔化すが、


「ううん、絶対痩せたって。やっぱ健康診断で何か言われたんでしょ? 気にしなくていいのに、みんな引っかかったし」


と笑われる。


「まあ……健康でいたいから歩いたりはしてるかな」


そう答えると、彼女は少し考えてから言った。


「じゃあさ、今度フットサルやりに来ない? 職場の人たちで作ったサークルでさ。前の相沢くんはちょっと誘いにくかったけど、今ならいいかなって」


その言葉に一瞬固まってから、


「それって暗いやつだから? それとも太ってたから動かないだろって決めつけた……? 当たり?」


と笑って返した。



「ってドッペル、人が話してるのにちゃんと聞いてるのか?」


現実に戻ると、ドッペルは背中を向けてスマホをいじっていた。


悪びれもせず、


「ああうん、ごめんごめん。次のルール考えててね。最近ちょっと痩せたからって調子に乗ってるからさ。休日は家でのんびりする、運動しないってどうかな?」


さらっと言いながらポテチを食べる。


「何を聞いとったんじゃお前は! 可愛い女性社員に誘われてフットサルに参加するの! そんなルール守れるか!」


ドッペルはスマホ画面を見せる。


「それなら心配いらないよ。ほら、“仕事終わりに軽く運動しましょう”って書いてる。休日じゃない」


「ああ! 人のメール勝手に見るな! ……まあ休日じゃないならいいか。問題ない!」


「うん、じゃあ契約するなら握手ね」


差し出された手を、海斗は迷わず握る。


「元々休日は動かないからな!」


「うん……絶対守ってね。今回は」


わずかに声の温度が下がる。


ドッペルはテレビに視線を戻し、ポテチを齧る。


「たまに怖くなるよな〜」


そう呟きながら、海斗も弁当のフタを開けた。


温め直した唐揚げの匂いが、静かな部屋に広がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ