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【短編版】赤子に転生したら捨てられましたが、悪役令嬢に拾われて、甘やかされてます〜恩返しに破滅フラグ回避して、王子との仲を取り持ちます!〜(長編はじめました)


短編です!

よろしくお願い申し上げます。



目を覚ましたら、赤子になっていた。


どういうことかはまったく分からない。

くたびれた仕事から帰って、狭いワンルームの玄関扉を開けたところまでは記憶にあるのだけど、そこからはなにも覚えていない。


ただはっと気づいたときには、そこにはまったく見知らぬ高い高い天井があり、夢かと思って身体を転がしたら、自分の小さすぎる手足が目に入った。


「あう」としか言えないような赤子である。



まさか、乙女ゲームでプレイしてきたのと同じ転生? 私、死んだ?


最近はかなりの過重労働をしていたから、あり得なくもないが……とか。


色々考えても結局なにもできない。


それでもがいた結果、一人であうあうやっていると、部屋の扉が開く音がした。



耳から聞こえる情報を察するに、入ってきたのは、母親とそれからその従者だろうか。


少なくとも、父親ではない。


いったいどんな母親だろうかと思っていたら、顔を覗き込まれる。


大きく立派な髪留めに、手入れの行き届いた髪、そして大きなオレンジ色の目。


これはかなりの美女だ。

これは私の容姿も期待できるかも。


なんて思っていたら、降ってきたのはため息だった。


「最悪。本当はあんたなんて産みたくなかったのに。憎々しいわ、ほんと」


さらには、憎悪のこもった目で睨みつけられて、こんな言葉が続けられる。

とても赤子に向けられていい言葉じゃないし、私にとってはなおのこと、特別に痛い。



前世というか、ここへ来る前の私は両親とほぼ絶縁状態にあった。


母は自分の理想通りに私が動かなかったらすぐに癇癪を起こすタイプで、父は無関心なうえに、別の恋人を作って家を出ていく始末。


それで私は母の元に残された。


しかし、その主張に納得がいかず少し反抗するなど、彼女の思い通りにならないときはいつも


「あんたなんて、産むんじゃなかった」


と繰り返されてきたのだ。



育ててもらっている身だと、しばらくは我慢してきた。

だが、その言葉の棘は着実に私を蝕む。


ついに耐えきれなくなった私は高校を出て派遣として仕事に就く際、家を出て、それきりだ。


住所も連絡先も知らせていない。



そんな因縁ある言葉をまた聞くことになるとは、思ってもみなかった。



その後の話を聞いていれば、どうもこの女性はかなりのお嬢様らしく、父親以外に別の婚約相手がいたそうだ。


そのうえで、どうにか隠して産んだのだとか。


相手の名前は、言ってはいけない人らしく、ずっと『あの人』と繰り返されていた。



今世もまた、なかなか厳しそうな家庭環境だ。


そう思うとため息をつきたくなる。

そしてそれは、赤子の場合、『泣く』という行為に変わってしまう。


衝動的に込み上げてきた悲しみに、私が声を上げて泣くと、ひとつ舌打ちをされた。


そののち、一度彼女らは外へと出ていく。


それで安心して私は眠りに落ちたのたが……




次に目を覚ますと、私は男の腕に抱えられて、外にいた。


なにが起きているのだろう。思わず声を上げれば、口元を抑えられる。


「くそ、静かにしてろよ」


この声、さっきの従者……そう思っているうち、意識がゆらゆら遠ざかり、声が出なくなる。



男は大通りを走り、どこか裏路地に入る。

そこはあたりから腐臭の漂う、最悪の場所だ。


もしかしなくても、ゴミ捨て場だ。



たぶん、いっそのこと捨ててしまおう、と。


そういう話になったのだろう。



私が驚いていると、口元にハンカチが押し当てられる。


「殺すだけはしないで勝手に死なせろ、なんて。うちのお嬢様も残酷なものだな」


と、彼は呟く。


転生しても、これだ。私はどうしても家族には恵まれないらしい。



そして短すぎる転生ライフも、もう終わり。


なんて世界は残酷なんだろう。

そう思っていたら、意識を失った。







自分ではなにもできない赤子だ。

もう意識を取り戻すこともない、今度こそ本当に死んだんだ。


そう思っていた私だったが、なにやら肩をゆすられる感覚があって、ぱちりと目を覚ます。



またしてもそこには、まったく知らない天井があった。

そしてそれは、相変わらずかなり高いところにある。



……え、なに。

もしかしてまた転生? それとも、ループ?


なんとなく嫌な予感が走るのに、私はまた堪えきれずに泣いてしまう。



まずい。泣いたらまた捨てられてしまうかもしれない。


そう思うのだけれど、止められないでいたら、「あら」と冷たい声がする。



背筋が自然と伸びてしまうような、透き通った氷のような声だ。


さっきのご令嬢様とは別人だが、こちらはもっと冷徹な雰囲気があって私がいよいよギャン泣きに至っていたら、その人が私を抱き上げる。


「こ、こうでいいのかしら! と、とりあえず泣き止みなさいな」


いったいどんな人だろう。

私は恐れながらに目を開けてみて、驚いた。


そこにあった顔、鋭い紫色の目、ドリル状のくるくると巻いた金色の髪には、見覚えがある。


彼女は、リディア・エヴァン。

私が前世にプレイしたことのある乙女ゲーム『花の聖女が咲き誇る』のキャラクターで、悪役令嬢だった人だ。



どうやらここは、私のしていた乙女ゲームの世界だったらしい。


残虐非道で、自分が王子の妃となるためならば、なんでもする。

権力を振りかざし、周囲を振り回す、典型的な悪役だ。


はじめは、メインヒーローたる、レイナルト王子の婚約者として登場するが、ゲームが進行するなかで、その主人公・エレナがレイナルトらと仲を深めていくと、リディアはそれに嫉妬する。


最終的には王子の身柄を拘束、監禁しようとしたことから、あえなく捕まり、処刑エンド。



とまぁ、かなり恐ろしい人…………のはずなのだけれど。


私を頑張ってあやそうとして、妙な変顔をしたり、


「眠りなさい。じゃなくて、おねむですね……、って、こんな感じでいいのかしら」


一人でぶつくさ言いながら、それでも私を泣き止ませようとするその姿は、ゲームで見てきたそれとはまったくもって異なる。


むしろ、不器用ではあるが、優しすぎるくらいだ。


その「悪役」を体現したような派手な見た目と、赤子に翻弄されて慌てふためく姿のギャップに、私はつい少し面白くなってしまう。



それで自然と笑い出してしまい、それを受けてだろう。


リディアはホッとひとつ息をつき、そして彼女自身も軽く吹き出した。


「可愛いわね、あなたは。私とは大違い。あなたみたいな子を捨てるなんて、どこの誰の仕業かしら」


私の頭を優しく撫でて、慈しむように彼女は言う。



どうやら、さっきと別の世界に来たと言うわけではないようだった。


捨てられていたところを、リディアが拾ってくれたらしい。



ゲームとは真逆の、まるで聖人のような振る舞いだ。


その手のひらはとても暖かく、リズムも心地よいので、私はだんだんうとうととしてくる。


それでそのまま、落ち着いて眠りについたのであった。






その後、何日か経って分かったことだが、どうやら今の時間軸は、ゲームの開始前らしかった。


なぜそれが分かったかと言えば、その会話だ。


『花の聖女が咲き誇る』では、主人公・エレナは未来を予知できる聖女になれる逸材として、平民の中から見出される。


それは、建国祭でのことなのだが、その準備についての話をしていたから、間違いない。


そしてなにより、だ。


「赤子を拾ったっていう話は本当だったんですね、リディア様。驚きましたよ」


まだリディアとレイナルト王子との関係が、そこまで悪くないことだ。


実際、ゲームの開始当初、二人の年齢は、十八。貴族学校を出たばかりであり、そこでも二人は同級生という設定だった。


関係は大きく悪くなかったし、レイナルトも婚約者がいる者として、エレナには節度のある接し方をしていた。


だが、あくまで政略結婚だ。


レイナルトの心は次第にエレナへと移ろってゆく。


その過程で、リディアの嫉妬深さが仇となり、その関係を、そして彼女自身を狂わせていったのだ。


「……自分でもそう思いますわ。でも、さすがに捨てられているのを見過ごす真似はできないでしょう。公爵家の人間として当たり前の行動っていう、それだけですわ」

「それならばすぐ孤児院に連れて行けばいいのでは?」

「……それは、そうですわね」


え、なに、まさかの今度は孤児院行き!?


やっとここでの生活にも慣れてきて(と言っても、寝てるばかりだが)、これからというときに大変な話だ。


私は内心焦るのだけれど、少し考えるように間を開けたのち、彼女は首を横に振る。


「いえ、一度私が預かったのですから、そう簡単に誰かにというわけにはいきませんわ。責任がありますもの」


悪役らしからぬ優しさに溢れた言葉だった。


私はそれに、密かにほっとするが、考えてもみれば、孤児院になんて入れられるわけがない。



まず立派なベビーベッドが用意され、その後には天井から吊るす式のおもちゃや、ぬいぐるみも追加された。


すぐにどこかへ引き渡すのなら、この甘やかしっぷりはないだろう。



「きちんとうちの家で育てるわよ、アイは」


それに、名前まで与えてもらったのだから。



と、そんなことを考えていたら、リディアは私を抱え上げ、左右に小さく揺らしてくれる。


リディアの赤子の扱いは、かなりうまくなっていた。

はじめはぎこちなかったが、今やプロ級だ。



これだって、彼女なりの愛情だ。

興味がなければ、彼女自身がここまでしてくれる必要はない。


適当に、使用人に任せればいい話だ。



その、上達した手つきに、またすぐに眠気が襲ってくる。



が、ここは様子を注視しなくてはならない場面だと思って、私はそれをぐっと堪えた。


「……はは。そうしていると、本当の母親みたいだね」

「それは褒めているつもり?」

「どう受け取ってくれても構わないよ」


今のリディアはとても優しく、愛情深い、素敵な女性だ。


しかし、もしゲーム本編と同じように話が進むのなら、彼女は嫉妬から闇堕ちルートを辿ってしまうことになる。



それを知っている私としては、どうしてもその展開は回避したい。



彼女には幸せでいてほしいし、自分もその一部でありたい。


たとえば他の家でなにが起こっても、主人公・エレナの行く末が狂っても構わない。



じゃあどうすれば、それを達せられるか。

その鍵を握るのは間違いなく、婚約者たるレイナルトだ。



幸いまだエレナは現れていない。


今の二人の関係は微妙なところだが、ここをうまく繋ぎ止められれば、きっとその残酷な未来は変えられるはずだ。


「あう」


私は早速行動にでる。

なにをしたかといえば、リディアの腕の中からレイナルトのほうへ手を伸ばすという、ただそれだけだ。


「あっ危ないっ!!」


それにリディアは慌てて、思いがけず、支えがなくなる。

が、しかし、私は落ちることはなかった。


「大丈夫かい!?」


レイナルトが支えに入ってくれたのだ。



まさか落ちかけるとは思わなかったが、ある意味で狙い通りだった。


レイナルトとリディアの距離は、かなり接近する格好になる。


そこで私は思うようにはまだ動かない体を彼の方へ向ける。


「……あなたの方に行きたいみたいね」

「えっと、かまわないのかい?」

「えぇ、いいわよ。させたいようにさせたいし。あなたこそいいの?」

「あ、あぁ、構わないが……。ど、どうすればいいんだい!?」


赤子に触れたこともないのだろう。

レイナルトが壊れものに触るかのごとく抱きかかえるから、リディアが「そうよ。首に気をつけて、背中を下から……」などとアドバイスを送る。


その様子が微笑ましくて、私が笑いだすと、それを見て、リディアはくすりと笑った。


「あなたこそ、本当の父親みたいね。この子も気に入ってるみたいよ」

「はは、たしかに楽しそうではあるね」


和やかな空気が場に流れる。


明らかに、ここへ来た時よりも打ち解けてくれていた。それこそ、恋人になりそうな雰囲気が漂っているようにさえ思う。


狙い通りの展開になって、私は安堵するとともに、穏やかな笑みを見せるリディアの方へと目をやった。



彼女はきっと、いい母親になってくれる。


今の彼女のもとでならば今度こそ、素敵な家族関係を築けるかもしれない。

両親との酷い思い出の数々も塗り替えられるかもしれない。


そんな素敵な未来を描くためにも、リディアの破滅フラグ回避に精を出さなければ!



そう私は決意を固めるのだけれど、その側からまた眠りに落ちていた。




「おやすみ」


という、リディアとレイナルト、二人の声を聞きながら。








【ご報告】

みなさまにたくさん「続きを!」とのご感想をいただいたので、

長編版をはじめました。


短編のみのつもりだったのでストックなどがないのですが、

頑張って執筆していきますので、

よろしければ長編版も応援いただけましたら嬉しく思います。


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(広告の下にリンクも用意しております……!)

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続きは⁈ こっから始まるよ〜で終わってる⁈ 連載お願いします。
えっ❓️ この先が楽しみで読んでいたのよ❓️
続き読みたいです! 続編、連載情報お待ちしております!
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