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痘痕の光  作者: 星来香文子
琥珀の忌子

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計略(一)

 月和国東宮の妃選び。

 今回は妃選びが終わる前に東宮が帝となったため、帝の妃選びということになるが、それ以外は同じである。


 琥珀領以外の各領地から二名ずつ、六名の姫の中から正室を決める。

 期間は約一年。

 様々な試験を受け、結果に応じて点数が入る。


 三ヶ月毎に合計点数が低い一名が脱落。

 三名まで絞られた後も試験は続くが、多くの東宮は三位内の姫を側室とするため、それまでの脱落者とは違って、即座に宮中から退場するということはない。最終的に残った一名が正室となる。


 試験の内容に応じて、点数を入れる審査員も変わってくる。

 基本的には帝を含む皇族が数名いて、例えば書であれば書道の師範、料理であれば宮廷料理人が審査に加わる。

 最終的に決めるのは帝ではあるが、公平な視点からよりふさわしい姫を選ぶということになっていた。

 また、最高得点と最低得点は除外された点数が加点となる。


 つまり、帝がつけた点数が低いからといって、すぐに脱落するとは限らない。

 帝以外の審査員が高得点をつければ、脱落することはないのである。

 逆に、帝が高得点をつけようと、一位で通過できるとは限らない。


 今回は、すでに瑠璃領の蘭子が朝彦の件で脱落しているため、三ヶ月期間は短縮されることになった。


「くそ……! なんなんだあの女!」


 最初の三ヶ月が過ぎた頃、脱落したのは翡翠領の花梨だった。

 晴彦は苛立って仕方がない。

 希彦から夢の調査には時間がかかるからと、睡眠を促す薬を処方されてはいたものの、やはり睡眠が足りていないようだ。


 普段なら声を荒げたり、自分の感情を強く表に出すなんてことはしない晴彦だったが、花梨が脱落したことに腹を立て、自室の文机を蹴り飛ばした。


「ど、どうされたのですか、主上。そんなに花梨様が脱落したのが残念なのでしたら、あとでご側室としてしまえば良いだけではないですか……」

「そこじゃない! どうして脱落したのが桜子じゃないのかと言っているんだ!」


 晴彦にとって、最初の印象通り桜子は最悪だった。

 晴彦に何か酷いことをしてくるというわけではないが、どうしても気味が悪いのだ。


 試験のため仕方がなく顔を合わせたり、会話をすることがあるが、なぜこんなにも嫌悪感を抱くのか、晴彦自身もわかっていない。

 とにかく、あの作り物のような顔が気持ち悪い。できることなら、一番会いたくない。


 しかし、何をさせてもほぼ一番なのである。

 花や書、歌といった芸事はもちろんのこと、武の心得まであるのだ。

 晴彦が最低点をつけようと、他の審査員が高得点をつけてしまう。

 最低点は除外されるため、桜子が一位で通過したのだ。


「なぜそんなに桜子様がお嫌いなのですか? あの美しいお顔で、芸事だけではなく剣術の才能までおありなんですよ?」


 側仕えの内官・烏丸からすまるは、晴彦が蹴飛ばした文机を元に戻しながら訊ねる。

 烏丸からしたら、桜子が一番正室としてふさわしいと思われる姫に見えているし、晴彦の兄弟である皇子や皇女からの評判もいい。

 試験の準備をしている女官や内官からの評判もだ。


「お前は気持ち悪くないのか? なんでもできるんだぞ? 芸事だけならまだしも、幼少の頃は男勝りであったという桔梗よりも剣術が強い。負けたのは馬術と弓くらいだろう。それも、かなりの僅差だった」


 一回目の結果は、一位が桜子、二位が桔梗、三位が撫子、四位が牡丹。

 桜子は平均して得点が高く、桔梗は芸事は若干弱いが上背がある分手足が長いため体を動かすのが主体の試験と幅広い知識を使うような試験で上位に。

 撫子は特に料理や裁縫など何かを作ることに関しては突出しているがそれ以外は……と、それぞれに違いがありこの結果となった。


 現時点で一位と二位は僅差で、二位と三位の間が大きく開いている状況である。

 このままいけば、次に落ちるのは撫子か牡丹であることは確実。

 正室の座は桜子と桔梗のどちらかであると言われている。


「人には普通、向き不向きがある。なんでもできるだなんて、ますます作り物のようで気に食わない……」


 いっそのこと、何か重大な欠陥があって、一発で脱落してくれないだろうか————と、考えてしまうほど、晴彦は桜子が嫌いだった。


「最終的にお選びになるのは主上なんですし、そこまでお嫌でしたら、選ばなければ良いではないですか。次点の桔梗様はどうです?」

「桔梗は……まぁ、悪くはないが……」


 桔梗は頭も良く、女ではあるが、幼少の頃は男勝りであったということもあり、晴彦にとっては一番接しやすい。

 だが、いくつか気になることがある。

「桔梗本人は別にいい。だが、瑠璃領の出身者を立て続けに正室としてしまえば、他領から反感を買うだろう……」


 おそらく、同じ瑠璃領出身の紫苑も、そういう思惑があって桔梗を推している。

 また瑠璃領から選ばれたとなれば、瑠璃領の力が強固なものとなってしまう。

 権力を一つの領地に集中させるわけにはいかないことぐらい、晴彦は心得ていた。


「それに、あの女房だ」

「……あぁ、お顔を隠している方ですか?」


 桔梗自身には問題ない。けれど、桔梗の新しい女房というのが、どうも異質なのである。


「確か、桔梗様のご親戚なんですよね? 顔に酷い痘痕があるとか」


 藤豆ふじまめという女房に問題があったとして、妃選びが再開する前に新たにやってきたのが、空木うつぎという女房だった。

 桔梗とは親戚で、上背があり目元も桔梗によく似ていた。

 鼻から下は頬に酷い痘痕があるのを隠すために薄い布で覆っている。


 女房の顔の良し悪しは、試験とは関係がないため、顔に傷があろうがなかろうが構わない。

 朝彦の妃選びの際も、同じように顔に痘痕があり顔を隠している女房はいたため、誰も咎めたりはしなかった。

 わざわざ顔を見せろなんて、そんなことをいう意地の悪い輩もいない。


「確か、空木と言ったか? 親戚のものを女房にしてはいけないという決まりはないが……似過ぎでいるなと。俺にはどちらも同じ人物に見えるのだが」


 さらに奇妙なのが、空木は他の姫の女房たちとは違って、一切、言葉を発しないのである。




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