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痘痕の光  作者: 星来香文子
琥珀の忌子

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禁忌(三)

 聖人君主、生涯側室は持たず、愛妻家として有名な先帝には、東宮時代に瑠璃領出身の妃がいたものの帝となる前年に彼女は病で命を落とした。

 たった二年の出来事であったが、夫婦の仲は睦まじく、可愛らしい双子の皇子が誕生。


 しかし、母親の後を追うように、程なくして二人とも幼くして病で命を落としたのだった。


 愛する妻と我が子を失い、すっかり気落ちした帝であったが、世継ぎのために再び行われた妃選びで、中宮となったのが朝彦の母である皇太后・けやきだった。


 昌彦は欅との間に三人の子供を儲けたものの、皇子は生まれなかったのだ。

 そんな中、生まれたのが朝彦である。


 しかし、実は希彦の本当の母親は欅ではなく、当時の琥珀の忌子ある。

 忌子の一族と帝の血が混ざることは、決して許されない禁忌。

 その禁忌を犯したせいか、欅が孕った正統な血族の皇子は死産。

 奇しくも同じ日に生まれた昌彦と忌子の間に産まれた皇子こそが、朝彦である。


 昌彦は、朝彦のあまりの美しさに、朝彦を東宮とする事を決めたのだ。

 欅とはまるで違う、明らかに忌子の血筋である容姿をしていたのに。

 欅は反対したが、医師からもう自分が子を産めないことを聞かされ、仕方がなく受け入れるしかなかった。


 しかし、昌彦が自分を裏切り、更には禁忌を犯して産まれた朝彦がこのまま東宮となり、やがては帝となる事に不安を感じていた。

 そこで、朝彦の正室に選ばれた紫苑を騙し、朝彦ではなく、昌彦の子を孕ませた。


 初夜での習わしであると、紫苑に目隠しをさせ、その上、瑠璃領の一部の家に代々受け継がれてきた、子を成しやすい媚薬を使って昌彦をその気にさせたのだ。

 同じように朝彦にも目隠しをして、別の女をあてがった。


 つまり、昌彦と紫苑の子供が晴彦なのだ。


 欅はいずれ中宮となる紫苑に忌子の血が入っていない昌彦の子を産ませ、朝彦に流れる忌子の血を断ち、正統な血筋に戻すことに成功した。


 産まれてきた晴彦の顔を見て、紫苑はとても驚いた。

 いくら昌彦の孫とはいえ、あまりにも朝彦とは似ておらず、琥珀の忌子を呪術の師と仰いで慕っていた紫苑は、朝彦の子ではないと悟ったのだ。


 紫苑は、琥珀の忌子の生き写しのような美しい朝彦の子を産むことを強く望んでいのに。

 欅に騙されていたことを知り、最初は欅を恨んだが、欅によればこれは忌子も望んだことだという。


 すでに当時の琥珀の忌子は他界しており、その真意を確認することはできなかった。

 それに自分が腹を痛めて産んだ晴彦に罪はない。


 思い返せば、琥珀の忌子は帝の血を引く皇子を産むようにと言っていた。

 朝彦の子供とは言っていない、と無理やり自分を納得させ、晴彦を立派な帝に育てる決意をする。


 呪術で晴彦の邪魔になるものはとことん排除し、ありとあらゆる不安から晴彦を守ってきた。


 一方で朝彦も産まれてきた皇子があまりに昌彦に似ていた為、自分の紫苑が自分を裏切り、舅の子を産んだ裏切り者だと思っていた。

 その腹いせのように、側室を増やし、晴彦の誕生から二年後に産まれたのが希彦である。

 希彦の母親は、琥珀の忌子の実妹だった。


 そういう事情もあり、紫苑と朝彦の夫婦仲は最悪であった。

 完全に上辺だけの関係である二人とは裏腹に、幼少の頃、事情を知らない子供たちは、とても仲が良かった。

 晴彦は特に歳の近い希彦を弟のように可愛がり、成長するに連れてますます美しくなっていく希彦に心惹かれて行く。


 晴彦が希彦に対して抱いている感情が、決して叶わぬ恋だと気づいた頃には、極度の女嫌いになっていた。


 そんな晴彦が、女を抱けるはずもなく、帝になっても世継ぎを残せない。

 年の離れた異母弟を東宮にする方法もある。

 しかし、愛しい希彦の為に何か残してやりたいと思った。


 一時的でも東宮になれば、歴史書に名が残る。


 このまま、琥珀の忌子として表舞台に立つことごなければ、希彦という美しい名前が、自分の愛しい人が確かに存在したという証拠がなくなってしまうのが惜しいと考えてのことだった。


「お前から俺たちの出生の秘密を聞いた時から、ずっと考えていたことだ。希彦、お前は朝彦の皇子として、本来あるべき姿に戻るべきだ。確かにお前は琥珀の忌子だが、正統な皇位継承者でもあるのだから」

「本当に、兄上は妙なところにこだわりますね。私は地位や身分などどうでもいいのに……」

「これは、俺がお前の兄として、やってやれる重要なことなんだ。わかってくれよ」


 希彦は本当に東宮の座なんてどうでもよいのだが、晴彦があまりに推すので、はいはいと軽くあしらった。


「————ところで、私を呼んだのは東宮の話をしたかったわけではないのでしょう?」

「あぁ、そうだったな……」


 晴彦は希彦に相談事があり、秘密裏に話すつもりだったのだが、そこへ突然紫苑がやって来た為、希彦が屏風の後ろに隠れる羽目になったのである。

 その紫苑が去ったのだから、もうその相談事をしても良い頃合いだった。


「実は、この数日、奇妙な夢を見るのだ」

「奇妙な夢?」

「もしかしたら、俺は誰かに呪われているのではないかと……そう、思ってな」


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