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痘痕の光  作者: 星来香文子
紅玉の祭壇

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18/59

嫌疑(五)

「これだから、紅玉領の女は恐ろしいと噂されるんだ!! お前は、母親と同じことをして、恥ずかしいと思わないのか!?」


 叔父は私にはそうまくし立てたかと思うと、今度は急に方向を変えて希彦の方に駆け寄った。

 そして、まったく別人になったかのような、低姿勢でへこへこと頭を下げる。


「申し訳ありません、ミコ様!! うちの姪が馬鹿なことをしたようで……ですが、ついこの間裳着を終えたばかりで、まだ、子供なのです。どうか、寛容なお心でお許しいただきたい! どうか、どうか、我が家の冠位剥奪だけは————ご勘弁ください!!」


 それどころか、頭を下げながら私の方を睨みつけるようにぎろりと見て、「お前も頭を下げてお願いしろ!」と言われた。

 本当に意味がわからなかった。


 なぜ私が希彦に頭を下げなければならないのか……

 私は何もしていないのに、何を必死になっているのかわからない。

 冠位剥奪……?


「まぁまぁ、落ち着いて。頭を上げなさい。何か誤解があるようだが……」


 希彦は立ち上がり、叔父の後頭部を見つめながら続ける。


「私の名前は希彦。ミコではないし、冠位を剥奪をしに来たわけでもない」

「え……?」


 叔父は顔を上げ、自分よりはるかに上背のある希彦をまじまじと見上げる。思ったより背が高かったことに驚いたようだ。


「みこ様では、ないの……か?」

「ああ」

「姪が何かしでかして、咎めに来たのでは?」

「違う。私はただ、その何かをしでかしそうな人物に心当たりがないかを聞きにきただけだ」

「し、しかし、その……お顔が————みこ様と」

「似ているか? それならばおそらく、あなたがいうそのミコ様は、私の一族の誰かだろう」


 やはり叔父は、希彦をその人だと勘違いをしていた。


「失礼した。てっきり、ミコ様かと……では、撫子が何かしでかしたというわけではないのですね?」

「先ほどから、そう言っているだろう? くどいぞ」


 * * *


 叔父は何度も私が何かをしでかしたのではない事を確認し、ようやく納得したようで私たちを屋敷の奥へ通した。

 誤解は解けたが、叔父から私に謝罪の言葉はない。


 希彦が帝が犯人探しの為に直々に派遣した男だとわかると、叔父はとにかく希彦の機嫌を損ねないよう、気を遣っているようだった。

 私のことはほとんど無視だ。


「姉が問題を起こし、宮中から追い返された時、みこ様が言ったのです。次に同じことをすれば、我が一族の冠位を剥奪すると……」


 もし次にみこ様がこの屋敷に来るということは、そういう事だと、当時のことを知る叔父も叔父を呼びに行った下男も把握していた。

 だから、そのみこ様という人にそっくりな希彦の顔を見て、私が何かやらかしたのではと決めつけてしまったらしい。


「東宮の妃選びに、問題はつきものと聞きます。みな、自分の姫を正室にしようとあらゆる手を使うと……ですが、まさか姉が呪詛で追い返されるとは思っておりませんでした」


 廊下を渡りながら、叔父が希彦に話しているのを見て、私はほとんど母からしか、当時の詳しい状況を聞いていなかったことに気がついた。

 母は「あの女のせいで」と自分を正当化していて、父もそんな母を信じている。

 女房たちも、本当はどう思っていたかまではわからないが、母が被害者であるかのように、少なくとも母の前ではそう振る舞っていた。


 でも、私は母に思い込みが激しい部分があることを知っていたから、呪詛のことは本当だったと思っている。

 本当だったから、屋敷にいた女房や下女、下男たちは私に優しかった。

 呪詛なんて恐ろしいことをやった女の娘であるからこそ、私を無下に扱いでもしたら、母に呪い殺されるかもしれないからだと思う。


「姉は妃選びから外され、強制的に屋敷に戻されました。その時、父と私が話を聞いたのが、当時の皇太后様が激しくお怒りになったそうで……」


 その時、朝廷から皇太后の使いとしてやって来たのが、希彦によく似た顔の女性だったらしい。

 希彦と同じような鈍色の狩衣を着て、男装をしていたそうだ。

 叔父はそのミコ様と希彦が同一人物だと勘違いし、私が何かやらかしたのだろうと思った。


 もう一度、ミコ様がこちらへ訪ねてくるようなことがあれば、この家の冠位は剥奪され、貴族ではなく平民に身分を下げられるという話だったそうだ。


「確かに、我が家には代々伝わる呪法は存在していますが、それは決して人を呪い殺すために作られたものではありませんでした。しかし、ミコ様のお話によれば、それは使い方次第であると……そのため、呪法は私たちの子供の代には継がせないことになったのです。姉も、もし子供が生まれても決して継がせないと父と約束していました」


 そうして、案内された部屋の襖を開けると、そこには壁一面に作られた大きくて立派な祭壇が置かれていた。


 その中央に置かれていたのは、しめ縄を巻かれた、人の頭ほどの大きな紅玉だった。


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