ジェーンの情報整理2
「あぁ、けど、私の考えなんて、ぜんぜん的外れかもしれませんし」
慌てて言いつくろうニーナ。
「……そうね、それは、どうかしらね」
たしかに、薬物がもたらした戦争というものはある。
だがそれも、取引のある国同士だ。
没交渉のこの島とクラーク領とでは……。
いや、比較するものではない。
「ごめんなさい。否定するわけじゃないの。
けど、呪いが蔓延したとしても、治安悪化が関の山よ。
だとしたら、いくらなんでも短期戦、短絡的すぎる。
それでも……」
一理あるのかもしれない。
聖女の総本山であるクラーク領が混乱に陥れば、国として乱れることだって。
ぽつり、と、雨粒が頬を打った。
「降って来ちゃったわね」
ジェーンはフードを手繰り寄せ――そこで、ハタと気がついた。
昨晩の湯殿の前での猿芝居。
深くフードを被っていたときにリーダー格の女の子が言っていた――
「この島で、〈真の聖女〉と生きていく」
「え?」
同じようにフードを被ったニーナが小首をかしげる。
あのやり取りについて説明して、
「なら、クラーク領に撃って出るのは、矛盾してないかしら?」
と、意見をあおった。
フードの下で、ニーナはぐっと顎を引く。
「たしかに、おかしいですね。
筋が通っていない気がします。
ここの人たちは、何が狙いなのでしょう……」
「商人としての勘みたいなものって、あるのかしら?」
手詰まりを覚えて、冗談めかして言ったのだが、ニーナは即座に反応した。
「こういうめちゃくちゃで、意志の統制が取れていないときって、組織が肥大化して派閥が分かれるか、もしくは――」
組織の肥大化。予想外に多い住人に、それはあるのかもしれない。
だけど、あの老婆を中心に、この島は回っている。
「もしくは?」
「裏で手を引く、別の何者かがいるときです。
この島を駒に使って、自分に利益を見出そうとしている、別の組織や人物」
「――ッ!?」
「商いをやっていても、コロコロと意見が変わる商売相手がいるんです。
だいたい上に仕切っている人がいて、言われるままに動いているだけで……。
いわゆる下請けだったり、悪徳商人が裏で手を引いていたりするのですが……」
その言葉が、ジェーンの背骨を駆け抜けた。カリカリと脳の奥が引っ掛かれる。
唐突に、数カ月前の社交界での一幕が、染みのように頭の中に浮かび上がってくる。
その光景に、射貫くようなセドリックの冷たい瞳が重なって――。
「国の要所を、落とす」
「へ?」
「もし黒幕がいるなら、心当たりがあるけど、でも、どうやって……いったい何を……」
「ジェーン様? 心当たりって!?」
荒らげるニーナの声が、遠ざかっていく。
(つながっている? まさか……)
けれど、アルフレッドの故郷のミドルトン公爵領は、経済・軍事の要。
ここダイアナの生まれたクラーク伯爵領は、聖女の総本山であり、思想の要。
どちらも国の急所といえるだろう。
ミドルトン公爵の毒殺未遂。容疑者は、噂でしか聞いたことのない、ならず者のジョイラス氏。
もし大麻も、彼が持ち込んだとしたら――?
「規模がでかすぎる。何をしようとしているのよ」
ジェーンは顔を歪ませ、よろよろと体をしならせた。
「ジェーン様?」
ニーナの心配そうな瞳が、まっすぐに見つめてくる。
強い罪悪感が、胸の奥から喉元まで込み上げてきた。
何も知らない、純粋な子だ。
なのに、巻き込んでしまった。
ジェーンはしばし黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「島の様子を見て回りましょう。
身の危険を感じたら、いつでも逃げ出せるように」
せめて、ニーナだけでも……。




