ジェーンの情報整理1
「当初は、あの亡くなった女の子のように、無体を強いられている子がいるなら、助けたいのだと思っておりました」
「それは、そうね」
答えつつも、ジェーンはあらためて頭の中を整理し始めた。
「ですが、この島の問題は、私たちの手に余ると思うのです」
「…………」
言われてしまうと、その通りだ。
遺体を発見して、ほかに被害者が生存しているなら、救出する。
それだけを考えて突き進んでしまった。
前世の記憶を取り戻してからの、本能のようなものだ。
だけど、国と島の一族との戦い。そんなのは範疇外。
ジェーンは額に手を当てて、どうすべきか、いま一度考え始めた――
ここに来る前の情報。
あの溺死体となった女の子が誘拐されたのは昨年。
遺体はきれいな状態だったから、約一年は生きていた。
そのあいだに何があったのか。なぜ彼女が母体として殺されたのか。
それは気になるところだ。
老婆の妄言。
もうすぐクラーク領、もしくはローデンベルクが滅びるという話は、どこまで信ぴょう性があるものなのか。
まったく信じていなかったが、ここ五年で、誘拐事件は急増している。
何かしらの言い伝えが、この島の住人を追い立てているのかもしれない。
それに奇妙なのは……。
ハンカチに包んだ、麻の燃えカスをスカートの上からぎゅっと摘まんだ。
麻……もとい、大麻はなぜここで栽培され、あちこちで焚かれているこの状況。
こんなもの、百害あって一利なし。
いや、たしか抽出方法によっては、毒物となる成分を取り除けたような気もするが……この世界に、そんな技術があるとは思えない。
長年使われ続けてきたのなら、もっと依存者や精神に異常をきたす者がいてもおかしくない。
なのに、この島の住人は、それが万能薬であるかのように、重宝している。
「複雑すぎて混乱してきたわ」
「では、相手の情報を調べるのはいかがでしょうか?」
「情報を?」
「はい。わからないままでは、商談の席についても、実りのない時間になってしまいます」
なんとなく、その説には共感できる気がした。
取調だって、証拠固めがすんで逮捕令状を突きつけた被疑者を前にするのと、そうでない任意同行からから犯行の証言を引き出すのとでは、雲泥の差がある。
どっちも楽とはいえないが、前者のほうがずっとやりやすい。
「刑事と商人なんて、まったく違う世界だと思っていたわ」
ふっと、微笑が漏れた。
「ケイジ?」
「なんでもないわ、ひとり言」
実際のところは、民間企業で働いたことも、商売に関わったこともないから、イメージとはかけ離れているのかもしれないけれど……。
「ねえ。ニーナさんは麻が毒になるってこと、知ってた?」
「毒?」
あぁ、そうだった。
「呪いになるってことよ」
ニーナはぷるぷると小刻みに首を横に振る。
「まさか、ぜんぜん知りませんでしたよ! びっくりしましたし、怖いくらいです!」
「やっぱり、一般的には知られてないわよね……」
「むしろ、ジェーン様はよくご存じでしたね」
「……まあ、呪いにはちょっとだけ詳しいの」
言い訳がましいが、それしか言いようがない。
「呪いが横行するなら……」
自信なさげに、ニーナはうなった。
「この呪いを、クラーク領に仕掛ける、ということも、考えられるのではないでしょうか?
それが、長老さんの言っていた、土地を取り戻す秘策……とか?」
「…………」
ジェーンはその説を検証するため、スッと瞼を下ろした。




