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戦闘開始とハッタリ

「案外、アッサリ見つかっちゃったわね」


 ジェーンは内心の焦りを見せないよう、ゆったりと老婆に向き直った。

 後ろに十人ほどが控えている。


「きさまら、何者だ。

 忌々しい魔法を使いおって」


「光魔法に反応して、ノコノコとお出ましというわけね」


 挑発すると、老婆は杖を振りかざした。


「危ない!」

 ニーナが防護壁を作ってくれて、老婆が放った火の玉は消失する。


「いきなりやってくれるじゃない」

 突然のことに、さすがに心臓が早鐘を打つ。それでも、けん制をとくわけにはいかない。


「あなただって、元はクラーク領の人だったんでしょう。

 なぜ、こんなふうに敵対してしまったの?」


「あの悪党どもの名を口にするな」


「悪党? クラーク領があなたたちに何をしたというの?」


 ジェーンは、老婆と後ろの従者たちを舐めるように見ていく。


 その顔触れに、脳裏に疑問が浮かぶ。


 なぜ、女しかいないの。


 世代は別れている。老婆のような高齢者もいれば、中年、若者、そして少女も。


 ならば、どうやってこの島を存続させてきたというのか。


 まさか全員が全員、さらわれた人間だとでもいうのか。


「この島には、いつから住民がいるの?」

「何が言いたい」

「聞いているのはこっちよ」


 老婆が杖を振り上げるが、ジェーンはあえて一歩前に進み出た。

 強気な様子に、老婆も思うところあるように、杖を下ろした。


「小癪な小娘だ」

 落ちた瞼の下、濁った瞳と正面から向き合う。


「五百年と答えれば満足か」

「五百……」


 想像以上の歳月に、背筋に冷たいものが走る。

「じゃあ、あなたも、本当に元はクラーク領の――」


 老婆はカツンと杖で床を突いた。

 一同が示し合わせたように息を呑み、場が整然となる。


 ジェーンもぐっと唾を飲み込んだ。

 思わず、独り言つ。


「それだけのあいだ誘拐が続いて、どうしてクラーク領も国も動かないの……」


 老婆の耳にはしっかりと届いていたらしい。気に障ったのか、間髪いれずに火の玉が飛んできた。


 檻の中の子たちが悲鳴を上げた。


 ジェーンは微動だにしなかった。ニーナの防護壁を信じていたから。


「我らはあの腐った土地から救い出された」


「あそこが嫌いなの? 恨んでいるのね、あの領地を」


「恨み? 憐れみこそすれ、恨みなどないわ」


「憐れみ……どういうこと?」


「そなたは何も知らぬようだな」


 今度は杖を高く掲げた。


 ジェーンは膝を折って下半身に力を込める。


 従者たちが一斉に杖をこちらに向けてくる。


 横目で檻を見やると、ジェーンは一足飛びに石の床を蹴った。

 自分の力では守れないかもしれない。

 それでも、動かずにはいられなかった。


 入れ替わるように、ニーナが前に飛び出す。


 にわかに目を見開くも、引き寄せられるように体は檻の前へと滑り込む。


 ――防護壁。シールド、盾……。


 実践経験なんてない。機動隊の盾をイメージして、突き出した両掌にエネルギーを送る。


(この子たちだけでも、守らなきゃ)


 耳をつんざく轟音が、広間内に木霊した。


 ドンッという衝撃ののち、足元から全身にビリビリとしたしびれが伝わってくる。


 床が割れ、片足が埋もれた。目を開けていられない。


 薄目で捉えたのは、堂々たるニーナの背中だった。


 まばゆいほどの防護壁が、こちらを守ってくれている。


 そのままニーナは反撃に出た。

 五本の指を開き、相手に向けると、指先から魔力を放つ。


 両者の力が拮抗し、バチバチとぶつかる。


 加勢にいくべきか。

 だけど、何ができるだろうか。


 咄嗟の判断ミスは命取りになる。


 ニーナは出していた手を手刀に変え、横に大きく振りかぶった。

 途端に、相手の攻撃が霧散し、従者たちは膝から崩れ落ちる。


(……何が起こったの?)


 老婆だけは、青白い壁の中で、こちらを見据えて立っていた。


「乗り込んでくるだけのことはある」


 戦闘の終了を告げる一言だった。


 ジェーンは前方に意識を向けたまま、女の子たちの様子をうかがった。


 肩を抱き合い震えているが、ひとまず無事のようだ。


 胸の中だけで安堵のため息を漏らし、ジェーンはゆっくりと進み出た。

 床も壁も、ひび割れだらけだ。


 ぽんとニーナの肩に手を置き、ひとつうなずいて見せる。ニーナは脱力して、ようやく両手を下ろした。


 ニーナの半歩前に立ち、ジェーンは改めて老婆を見据えた。


「クラーク領の娘も、ローデンベルクの王子でさえ、この島のことを何も教えてくれなかった。

 だから、教えていただけるかしら、あなたたちのこと」


 警戒しつつも、ジェーンにいつもの調子が戻ってきた。


 何かあっても、ニーナが守ってくれる。

 それが、ジェーンの背中を押した。


 老婆はしわで覆われた目をより細くし、値踏みするようにジェーンの(まなこ)を深く覗き込む。

 そのまま視線をスライドさせ、今度はニーナを捉える。


 ニーナは跳ねそうになる肩を必死で押さえた。


(肝が据わってきたと思ったのに)


 内心でジェーンは誇らしさと、おかしさが込み上げるのを感じる。


「きさまら、フードを脱げ」


 チラリ、とジェーンとニーナは視線を交わすが、大人しく命じられたとおりにした。

 ジェーンは勢いよくフードを剥がすと、赤い髪を左右に揺らした。


「お昼ぶりね。皆さま」


 うずくまった従者たちから殺意が向けられる。

 ニーナはおずおずといった具合だが、きれいな黒髪に淡い明かりが反射した。


 老婆は場を制するように、杖を横に倒した。


「やはり、お主だったか」

「そうよ。だったら何?」


「隣の者は、昼の使い手とは違うようだな」

「どう見ても違うでしょ。彼女は私より背が高い大人の女性よ。

 この子は同じ魔法学園の生徒」


「強力な魔法の使い手が二人も、一人の元に集うとは……」


 老婆は喉の奥で唸りながら、ボソボソとつぶやいた。

 これは、押せるかもしれない。


「あなたが何を悩んでいるのか、予想はつくわ。

 だったら、けんかをするのは得策かしら」

「…………」


 ハッタリだ。


 老婆の考えについては予想がついた。


 強力な魔法の使い手が集うという、〈真の聖女〉に思いを巡らせているのだろう。


 だが、当然ながらジェーン自身にその自覚はない。

 それでも、老婆だけでなく全員が押し黙った。


「私がどんな存在かなんて、どうでもいいことよ。


 ただ、この国の体制にはいろいろと不満がある。

 あなたたちに対してもね。


 だから教えなさいって言っているの」


 老婆はゆっくりと目を閉じ、しばし逡巡した。


「着いて来い」


 薄く瞼を開いたときには、その声は落ち着いていた。


 従者の中から、不安そうな声があがるが、それを右から左へと聞き流し、老婆は進んで行く。

 ジェーンは後に続こうとして……腕を引っ張られた。


「罠かもしれません」


 心配そうなニーナが見上げてくる。


「もし不安なら、あの子たちを岸辺まで連れていってあげて」

「――ッ⁉」


 大きな動揺が、ニーナの顔ににじむ。


「私は知らなきゃいけないの、この国のこと。

 それで、何ができるのか、考えなくちゃいけない」

「どうしてそこまで?」


「……性分、って言ったでしょ」

 ジェーンは困ったように微笑んで見せた。


「なら、お供します」

 ニーナの声には堅い決意がにじんでいる。


「あなたこそ、どうして?」

「私を見出してくださったのはジェーン様です。

 商人は義理人情を大切にするものなんですよ」


 見出した、とは大げさな。何かしてあげただろうか。

 ジェーンが小首をかしげていると、


「天然の人たらしですよね」

 ニーナは恥ずかしそうに唇を尖らせた。

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