母娘の悲しい再会
女性はセドリックの姿に驚いて膝をついたが、立つように促され、棺のもとへと歩みを進めた。
ジェーンたちは場所を譲るように、壁際へと移動する。
女性は棺に納められた顔を見ると、悲し気に首を振った。
祈りをささげて講堂をあとにする背中は、入って来たときよりも、小さく見えた。
ジェーンの隣に立つダイアナは、ポケットから折り畳んだ書類を取り出した。
書類の束。
それをめくっていき、一枚のところで手を止める。
一カ月前、失踪。
「それが、報告書ね」
「えぇ」
「あの女性の子どもは、見つかっていないのね」
「見つからないわ」
断定的な答えが返ってくる。
ジェーンは歯噛みした。この子は、棺に眠るこの子は見つかったではないか。
断続的に、同じような女性がやって来ては、力なく帰っていく。
失踪時期は、十二カ月前、二週間前、一週間前――
こんなに被害者遺族がいることに、全身が熱くなる。
女性がやって来るたびに、怒りと悔しさが、濁流のように駆け巡った。
一人の女性が棺にしがみついて、声を上げた。
ジェーンは顔を上げる。
女性は嗚咽をもらし、ヒステリックに叫びながら、髪を振り乱した。
講堂の静寂の中に、痛々しく木霊する。
(こんな悲しい再会なんて……許せない)
女性から視線をはずさないまま、ジェーンは低い声で告げた。
「その書類、見せて」
「え?」
「いいから」
奪うように、ダイアナから被害者の報告書を取り上げる。
――セリーナ・ライアン、失踪当時十三歳。朝起きると、窓が開いていた。神隠しと思われる。失踪時期は、十三カ月前。
「何が神隠しよ、バカバカしい」
押し殺した声で吐き捨てた。
被害件数は、五年前から各段に増えている。
女性はひたすらに泣き叫び続けていた。
他にもいるのだ、こういう母娘が。
全身がわななく。
せめて、犯人を捕まえなくては……。
「お嬢様」
メアリーの冷静な声で、ジェーンはハッと顔を上げた。
何か言いたそうなメアリーに、小首をかしげる。
「お許しください」
それだけ言って、メアリーは女性のもとへと歩み出た。
膝を折って、厳粛に告げる。
「どうか、お顔をお上げください」
女性は吸い寄せられるようにメアリーに顔を向けた。ひきつけを起こしているようで、短い呼吸を繰り返している。
「このたびは、とても残念に思います。
きっとこの子には、新たな道が与えられます」
メアリーの言葉で、女性はぼとりと大粒の涙をこぼし、何度か大きく息を吸って吐く。それが整ってくると、深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございます。どうかこの子を、セリーナを、お導きください」
メアリーは答えず、ただうなずいた。
それが引き金となったのか、女性の呼吸がまた浅くなる。
「いいえ、いいえ。申し訳ありません。この子は既に悪魔にされてしまいました。
セリーナの魂は――!」
発狂したように、叫んで胸元をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
「この子は帰ってきました。きっとお導きはあります」
女性は顔をゆがめながらも、縋るようにメアリーを見つめた。
「どうか……どうか……」
もう一度、メアリーはしっかりとうなずく。
「ありがとう……ございます」
セリーナの母親は、混乱状態がひどく、ダイアナの手配で教会内の一室へと案内されることになった。
娘の亡骸と離れようとしなかったが、何度もメアリーに救いを求めるように頭を下げると、案内係に付き添われて講堂をあとにした。
メアリーは肩の荷が下りたように、肺いっぱいにたまった空気を吐き出した。
「メアリー・ディランだったな」
そのメアリーの背後に、セドリックが立つ。
鋼製の小刀を、メアリーの肩に当てて。
メアリーは動かない。動揺もしていない。こうなることを予想していたかのように。




