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毎年起こる神隠し

「本当に、あなたって不思議な子ね」

「何が?」


 アルフレッドも去ったところで、ダイアナは机にしなだれかかるようにして、ジェーンを見上げた。


「直球で聞くけど、殿下もアルフレッド様も、あなたを取り合って仲が悪くなってるんじゃないかしら?」

「……は?」


 意味がわからない。


 監視対象を取り合うなんて、そんな面倒くさいことするだろうか。


 いや、手柄欲しさだったり、持ち場争いだったりは、元刑事として共感しよう。

 だけど、王族とほかの貴族では、そもそもの立場がまるで異なる。


 ジェーンが考え込んでいると。


「お二人ともご身分がご身分だけど、別に恋する気持ちに制限なんてないと思うわ」

「……コイ?」


 聞き間違いだろうか。


「自覚ないの? アルフレッド様なんて、ほかの女の子に見向きもしないじゃない。

 あなただって、手を取られてぜんぜん気にしてなかったし、みんな、恋仲だと思っているわよ」


「え、コイって……はぁ!!??」


 思わず大きな声が出て、講堂に、わぅん、と響いた。


「ち、ちょっと待って。

 いつ、どこで、誰が、どういう話でそうなってるわけ?」


 こっちは、常に監視下にあって肩身の狭い思いをしているのに、そんな酒の肴にされるなんてたまったもんじゃない。


 たしかに嫌がらせはあった。

 アルフレッドの信奉者に、ねたまれるのも覚悟の上だ。

 だが――


「恋仲は、ないでしょ、どう考えても」


 心の中が急激に冷めていく。


「信っじられない!」

 ダイアナは天井を仰ぎ見た。

「いろいろと事情があるのよ」


 さすがに自分の置かれた立場のことは言えないが……。


「もう、本当に面倒くさい。いっそ退学して田舎に帰りたい。

 でもそれも、あとあともっと面倒くさいことになるか……」


 ここで帰ったら、逃亡と取られかねない。

 ノーサム伯爵や、来年入学するレイヴンのためにも、身の潔白を証明しなくては。


「とりあえず、頑張るわ」

 一人で結論づけると、

「何を?」

 とツッコまれてしまう。


 ジェーンは短く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

「こっちの話。とりあえず、あとで図書館は案内してよね」

「それは任せて」

 ダイアナはポニーテールを揺らしてうなずいた。



 ――西の湖畔の浄化。


 それが聖女候補生たちに課された課題だった。

 いやな汗が背中を伝う。


 メアリーから「西の湖畔には近づかない」と言い含められているけれど、実習だから避けるなんてできない。


 ごくりと、生唾を呑み込む。


「ジェーン大丈夫? 顔色悪いけど」

「あ……西の湖畔って……」


 ダイアナは顔を曇らせる。


「西の悪魔って、言葉だけは聞いたことがあるの」


 メアリーの名前を出すと、騒ぎ出すかもしれない。

 なので、ちょっとだけ言葉をぼやかした。

 ダイアナにしては珍しく、自分から視線を逸らした。


 壇上に立つ教員が説明を続ける。

「ちなみに――」


 雨季のこの時期、西から悪魔がやって来るといわれている。

 神隠しのごとく、あっという間にさらわれてしまう。

 そのために、この時期に遠征があり、聖女候補生は浄化に携わるのだ。


 入学まもない時期に遠征とはずいぶん早いと思っていたけど、そんな理由があったのか。

 だけど、神隠しって……。


「ねえ、それって単なる伝説じゃないの?」

 オカルト話にしか聞こえない。ダイアナの態度からもっと不穏なものを予想していたのに、ちょっと拍子抜けだ。


「いいえ。実際に毎年被害が出るの。

 だから領民は自衛のために、できるだけ光魔法を発現させるのよ」


「え。じゃあ、どうして光魔法は国中に広がってないの?」


「ここは閉ざされた土地だし、光魔法が発現するといっても、力量は人それぞれ。

 それなのに、光魔法が広まったりしたら、本当の実力者があなどられたり、軽視されたりしかねない。

 ただの光魔法保持者と、聖女とでは雲泥の差があるから、秘匿してるってところかしら」


 なんとなく納得いかない説明だった。既得権益や権威性を誇示しているだけのような気もする。


 とはいえ、ひとまず呑み込もう。


 なにより、神隠しは信じがたいが、毎年、同時期に誘拐が発生しているとなると一大事だ。

 同一犯による連続誘拐事件ではないのか……。

 原因を、突き止めたい。


(ごめん。メアリー)


 ジェーンはぐっと唇を引き結んだ。彼女に心配はかけたくない。それでも、本能ともいえる職能には抗えなかった。

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