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まさかの課題と男心

 え。

 畑仕事……?


 協会のおごそかな講堂。

 そこでオリエンテーションで聞かされた講習の内容に、誰も彼もがぽかんとする。


 もっと厳しい訓練があるのかと思っていたら、協会内の野菜と花畑、林の世話。

 こんな遠出をしておいて、肩透かしをくらった気分だ。


 というか、西の悪魔の話はどこにいった。


「納得いきませんわ!」

 反発の声が上がると、それに続く生徒が続出する。

「そうだ。なんで私たちがそんな仕事など!」


 そりゃあ、貴族のお坊ちゃんやお嬢さんに、土仕事は荷が重いよなぁ。


「楽しそうではないか」

 教員がたしなめる前に、先頭の列にいたセドリックの声が講堂内に響いた。


 なんだか、久しぶりに聞いた気がする。

 しん、と一斉に空気が静まりかえった。


「城にいては、自由に土など触れない。

 土魔法に水魔法、あとはなんだ、何が試せる?」


 隣に座るアルフレッドに水を向ける。


「そうですね……。

 殿下の仰るように、今回の遠征の課題は、私もその二つに重きがあると考えます。

 付け加えるとするなら、草花や枝葉の処分方法に何が使えるか、でしょうか」


「ふむ。処分となると、火魔法で燃やすか?

 しかしそれでは味気ない。

 いずれにせよ、庶民の暮らしぶりを体験できるのだ。


 市井の者たちに、我々はどんな施策を取るべきかを考えるいい機会だ。

 なかなかに有意義な時間になりそうではないか」


 この人は、この発言がどう影響するかわかっているのか、それとも素で楽しんでいるのだろうか。

 どちらも、なのだろうな。


 荒立っていた場が、にわかに色めき立つ。

 この課題の主旨や、何ができるのかを考え始めたようだ。


 カリスマ性のある人物だ。

 ジェーンは遠くから、剣呑な眼差しを向ける。


 パッと、セドリックが振り返る。

 目が合う。

 なんで。


 ジェーンは首をすくめるようにして、目を逸らした。


 しかし、セドリックの視線は滑らかに講堂内を見渡し、

「みなで、力やアイデアを出し合い、ともに励もう」

 と声をかけた。


 拍手が上がるまでが、既にお家芸だ。


「ねえ、彼……」

 隣に座るダイアナのささやき声が、ジェーンの耳に届いた。

「あなたのこと、見たわよね」


 ジェーンは思わず横目でダイアナを盗み見る。

 勘がするどい。


 彼女は周りと合わせて前方を向いたままだったが、その瞳には、どこかもの言いたげな色がにじんでいた。



「特別授業の生徒は、このあと残っていただきます」

 ひと通りの説明が終わると、男子生徒と聖女候補生以外の女子生徒はガヤガヤと席を立つ。


「ジェーン。長旅でお疲れではありませんか?」

「アルフレッド様、お気遣い感謝いたします」


「特別授業の生徒は、内容が別なのですね。

 ご一緒できないのが残念です」

「はぁ……」


 アルフレッドはもちろん、セドリックに絡まれるとろくなことがないから、ご一緒できないのはむしろありがたい。


「アル、私をおいて早々に席を立つなど、少しは弁えたまえ」

「……申し訳ありません。セドリック殿下」


 セドリックまでやって来たが、二人のあいだには絶妙に冷たい空気が流れていた。

 けんかは続いているのかもしれない。


(いい加減、私をネタに巻き込むのやめてほしいなぁ)


「ところでジェーン嬢、要望していた宮廷の蔵書について、今手配を進めている。

 遠征から帰る頃には、準備も整っているだろう」


 アルフレッドから放たれる空気が、さらに冷たくなっていく。


「あぁ、そのことでしたら、もう結構ですわ」

 ジェーンはさらりと言ってのけた。


「は?」


 王子然としたセドリックの表情が、あからさまに崩れた。


 見なかったことにして、ダイアナのほうを手で示す。


「国の成り立ちや聖女について、ダイアナのおかげでこちらの蔵書を拝見できることになりました。ですから、遠征期間中を利用して――」


「なぜだ――!?」

 セドリックは机に手を置き、身を乗り出した。


 彼にしては珍しい感情のたかぶりだ。

 何が琴線に触れたのかわからない。


「君は聖女には興味がないと言っていただろう」


「……聖女に興味はありません。

 ですが、歴史を学びたいのと、聖女になる、ならないは関係ありません」


「……」


「何をそんなにお怒りに?」


 セドリックは体を起こして、顔をそむけた。


「お手間を取らせたことには、お詫び申し上げます。

 ですが、これ以上のご迷惑をかけるつもりもございません。

 ご配慮ありがとうございました」


 礼儀として、そのくらいは言っておこう。


「不愉快だ」

「……申し訳ありません。私のわがままに付き合っていただいたのに」


「そうではない」

「では、ほかにお気に障ることが?」


 特にこれといって心当たりはない。

 〝王子〟を前に、だらしない態度を取った覚えはあるが、それくらいだ。

 ほかには……。


「あぁ、理由があれば監視下に置いておけるか」


 ぴくり、と。ほんのわずかにセドリックの肩が震えた。


 ほかの人は気づかないだろう。

 元刑事として、相手の仕草、反応には目端が利く。


 つまりは、イエスだ。


「ご安心を……と言っても、信用してはいただけないでしょうけれど」

 今は、まだ。


「違う」

「煮え切らないですね。では、何がご不満なのですか?」


 ジェーンは漏れそうになるため息を我慢して、突き放すように問いかける。


「もう、いい」


 セドリックは硬い声で言うと、大股で扉に向かった。


 はぁ……。やっと腹の底にたまった空気を吐き出すと、肩を落とした。


「ジェーン」

 アルフレッドが、下からすくうように、ジェーンの手を取った。


「セドリック殿下のことは、あまりお気になさらず。

 もともと、楽しいことがお好きな性分です。

 自分の思い通りにならなくて、すねているのでしょう」


「すね……」

「意外と子どもっぽいところもあるので」


 なるほど。そう言われてしまえば、そういうものか。


「お気遣いありがとうございます」


 あれ。本日二回目のセリフな気がする。

 アルフレッドとは、どうにも会話が続かない。


「ところで、セドリック殿下とご一緒なさらなくていいのですか?」

「護衛はついています」


 ずいぶんアッサリした物言いだ。


「そうではなく、ご友人として……」

「…………」


 やはり、まだけんか中か?

 十代の男子って、わからない。

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