表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪辣姫は前を向く!~底辺Web小説のポッと出ですぐ死ぬ敵キャラの弟に転生したので、彼女を救うため僕はスローライフを誓います~  作者: 高井うしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

12話 魔王の封印

 翌日、スケルトンたちに報酬を持って行くと、大層喜んでくれた。人間の相場の三倍くらいで売れたからこっちの値だと……十倍以上?


「もっと持って行くかの?」


 ほくほく顔の長にそう言われたけれども、急に多くを流通させるのはあの店がパンクするし、希少価値が下がる。様子を見ながら売る、と丁重にお断りをした。


 シャルナハも手元に入って来た金が思ったより多いもんだから、もっと売れ、とがあがあ言っていたけれど。だめなもんはだめ。


 そして帰宅すると、ファラーシャがちょうど外に出かけようとしているところだった。


「お姉様、ナミラの散歩ですか?」


 首輪をしたナミラを連れていたのでそう聞いたのだけど、ファラーシャは首を振った。


「父上のところに行こうと思う。……お前もどうだ?」


 それって魔王の封印のところに行くってことか。行ったからといって何か変わる訳ではないけれど……行こうか。ファラーシャが心配だもの。


「分かりました。お姉様、一緒に行きましょう」


 封印されているお父様には何も届かないと思うけど、言ってやりたいこともある。


「そうか。ではついて来い」


 早足で先を進むファラーシャの後を、僕は駆け足で追いかけた。








 そこは本当に寂しい場所だった。魔族領の外れの外れ。北の北の果て万年雪に覆われた極寒の地――かつての魔王城の跡だ。


「うっとうしい雪……」


 ファラーシャの呟きが風の音に消えて行く。


 吹きすさぶ吹雪に乱れる髪を押さえながら、ファラーシャと僕、あとナミラは谷山を昇っていた。ファラーシャのブーツのヒールが黒い小石を踏みしめていく。


「おいたわしや……お父様……」


 ファラーシャが上を見上げて呟いた。


 黒い城の上空に、黒雲のようなものが浮かんでいる。それを包み込むのは幾重にも重ねられた魔法陣だ。


「あれがお父様」


 今のこの僕とは面識ないし、以前もあんまり会ったことないんだけど。なんていうか……。


「こんなところで寂しいだろうに。あんまりだな」


 率直にそんな感想が漏れた。


「ねぇ、ナミラ。もしお父様を解放できたら私を跡継ぎにしてくれるわよね」


「ええ、それはもう」


 横のナミラが首がもげそうな勢いで頷いている。こら、余計なことを。


「おひい様は、並み居るご兄弟のうちでも一番魔力が高く、人間共を多く屠って参りました。それにこの封印を解いたとなれば、それはもうもう」


 ファラーシャはその言葉を聞いてニヤリと笑うと、ナミラを蹴り飛ばした。


「べらべらうるさい」


「ひぃひぃ」


 ああ、我が姉上はまだ魔王になる気まんまんらしい。なんとか諦めさせることは出来ないものか。それは死へのカウントダウンなんだよ。


「お姉様、封印を見に行きましょう」


 〝ジュアル〟は魔法の知識に長けてるんだ。インドア系の魔法オタクだったジュアルくんの知識なら、封印を見て何か分かることがあるかもしれない。


「あ……ああ、そうだな」


 僕たちは空を飛んで、上空の黒雲に近づいた。


「うわ」


 雲のように見えていたのは、何か――時空の切れ目かなにかのようだ。その異空間には時折、雷が光っている。目をこらしたが魔王の姿は見えなかった。


「どうだジュアル。魔族を統べる存在が、いまやこの中で命が潰えるのを待つだけの身だ」


 そう呟くファラーシャの横顔は寂しげだった。


 僕だって自分の親が閉じ込められて生殺しになっているのは複雑な気持ちだ。かといってその原因を作ったのは魔王自身であるし……。はあ、重苦しい気持ちになる。


「封印紋を見てみます」


 僕は飛び上がってぐるりと封印を見た。複雑に重ねかけされたそれは、古代の文字で書かれている。古い形式のものだ。主人公は勇者の神剣を媒介に、これを一瞬で発生させたのだ。


「うーん」


 逆さになったり、真上から見たり、僕はじっくりと封印紋を眺めまわした。確かこの封印紋は完全ではないのだ。人間は寿命が短いから、魔王の封印を伝承する中で何か欠けたものがあったのだろう。その封印紋のほころびから、主人公の魔力が吸い取られていって、それが幼女化の原因となった。


 ……で、やつらが封印紋を完全にするために向かった精霊の森でファラーシャは彼らに討たれるのだ。


「……わっ痛!」


 触れてみようとしたところ、バチバチッと封印は僕の手をはじき返した。見ると爪が欠け、少し血が滲んでいる。


「大丈夫か!?」


 すぐにファラーシャが飛んできた。


「ちょっと痛かっただけです」


「どうだ。お前はこの封印紋をどう見る?」


「えーと……人間の世界では今は使われていない様式ですね」


 どこかに綻びがある、とは言えなかった。それは小説の知識だし、ファラーシャがそれを聞いてなんとか封印紋をこじ開けようとしたら困る。前回の封印もお父様は自力で復活したんだよな。時が経てば綻びは大きくなっていくのだろうけど……今は駄目だ。もしその時が来たとしたら――それは、僕がファラーシャの意識を変えてからだ。


「そんな古ぼけたものが」


「古代から魔王を封じる為に考え抜かれたものなのでしょう」


 それこそ伝説と呼ばれる昔から。


「お姉様。封印のことは僕にお任せください」


「うむ……魔術の知識ならお前の方が深いものな。わかった」


 ごめんね、ファラーシャ。ここを調べるのは本当にするけど、その結果はあなたには伝えない。時間稼ぎをさせてもらうよ。僕は恨まれるかもしれないけどね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ